ところで性風俗に限らずどんな商売でも、繁忙期もあれば閑散期もあるのは当然のことやな
つまり店に訪れる客の数は時期によってバラつきがあるわけや(一般的には12月から1月にかけてが最も多い)
そういう場合、労働力(=ワーカー)の配置はどうしたらいいか?
一般的な業種では、一年間で必要な労働力の平均ぐらいの労働者を常時雇用しておくか、忙しい時期だけ非正規雇用の労働者を雇ったりする
なぜなら人を雇うということはそれだけでコストがかかるので、不必要な労働力を抱え続けることは経営を圧迫するからや
ところが性風俗店の場合はそうじゃない
完全出来高制なので、何人ワーカーがいようと人件費はかからないからや
だから、店側としては、常時最大限のワーカーを抱え続けることが最も望ましいわけや
例え普段はまったく指名が入らないワーカーであろうと、忙しい時には必要になってくるかもしれないので、「飼い殺し」にすることが重要なんやな
これはあくまで店側から見た話であって、ワーカーにとっては何の利益もないわけや
指名も入らないのに出勤し続けたって、時間はどんどん過ぎていくのにお金は全く稼げないわけやから、冗談じゃない、ということになる
もう一つ重要なのは、性風俗産業においては、「新人」は特別な価値を持つ、ということや
ここでいう新人とは、「その店において」新人である、という意味や
つまり、ワーカーにとっては、次々と店を転職して、何度も何度も「新人」になることが、利益の最大化につながりやすい
しかし、当然店側としては簡単に辞められては困る
ここで、従業員を飼い殺しにしておきたい店側と、店を辞めたいワーカーとの利害対立が発生するわけや
店側が、辞めようとするワーカーを店に留まらせるために取る手段は、例えば情緒的な説得や
「きみはこの店に必要な存在なんだよ」とかな
他には、売れないワーカーをフリー(特に指名のない客)に勧めたりして、一時的に仕事を回してやったりして、不満を解消したりやな
より多くのワーカーを雇用し続けることが、店側の経営努力なわけや
対して、ワーカーが店を辞めたいときに取る手段は何か?
ここで重要になってくるのがスカウトの存在や
今回重要になってくるのはフリーのほうや
スカウトはそれぞれの店に女の子を紹介すると、まず紹介料として10万円ぐらいもらえる
さらに性風俗業界の場合は、「永久」という制度がある場合が多く、自分が紹介した女の子が稼いだ売り上げのうちいくらかを、取り決めに従って、もらうことができるんや
例えば紹介した女の子が月に100万稼いだら、そのうちの15%、15万円がスカウトの懐に入る、といった感じで
これはその女の子がその店で働き続けている限り永久に続くものや
なぜなら、危険な店へ女の子を紹介することは、スカウトにとって何の利益もないから
怖い思いをして精神的に傷ついた女の子が早々と仕事を辞めてしまえば、スカウトの収入は少なくなってしまう
女の子が高収入を得られる店で長く働き続けてもらうことが、スカウトの利益も最大にすることにつながるんや
これは、さっき書いた「飼い殺し」を中和するためにも作用するんや
自分の紹介した女の子が全然仕事を得られないまま飼い殺しにされていては、スカウトの収入も0になってしまうわけやから、
そんなところで働き続けさせるわけにはいかない
なので、自分の持ってる情報を生かし、女の子を別の安全な店に紹介して転職させようとする
そうなれば女の子も、「新人」として特別な地位を得ることができるわけや
多大な仲介料が発生するにも関わらず「スカウト」という制度が存続しているのは、店側からだけでなく、女の子の側からも需要があるからなんや
では、かなり長くなったけど、そろそろまとめに入っていこうと思う
まず歌舞伎町が現在の姿を留めている理由について
個別の店舗レベルで見れば、多くの店が出店しては廃業しを繰り返している
業態レベルでも、キャバクラなんかはかつてほどの繁栄ぶりは無くなっているし、セクキャバみたいな新しい業態も現れてる
つまり、歌舞伎町が生き延びているのは、店舗や業態が存続しているからではない
「サービス」が存続していることが重要なんや
なんらかのセクシャリティにかかわるサービスが、手を変え品を変え様々な形態で持続的に再生産されているのが「歌舞伎町」と言う街なんや
サービスが持続するためには、担い手=労働力の再生産が必要や
歌舞伎町における労働力の再生産とは、「供給」と「定着」を意味する
つまり、新しいワーカーが入ってきて、すぐやめずに歌舞伎町に定着することや
この担い手さえいれば、店が変わろうが業態が変わろうがサービスは存続し続けることができる
「定着」に関しては、日本の風俗産業が組織的に経営されていることが大きい
女性ワーカーたちが男性スタッフによってマネジメントされている状態や
さっきの飼い殺しにしようとする性風俗店の話もそうやし、キャバクラの場合も、女性キャスト5~10人につき一人の男性スタッフが管理している
ここらへんは個人売春が主流の欧米との違いやね
むしろ重要なのは「供給」のほうや
背後にあるのは男女の賃金格差や
日本は言わずと知れた男のほうがはるかに多くの給料がもらえる社会や
一番格差の大きい年代においては、年収に1.8倍以上の差がある
キャバクラで働く女性の平均月収は大体50万円ぐらいやから、これは一般的な職種の女性と比べてはるかに高い賃金なわけや
風俗産業は女性のセーフティ・ネットになっている、と言った学者もおるぐらいや
歌舞伎町に新しいワーカーが供給され続ける大きな理由の一つに、この男女間賃金格差の問題があるといえるんや
ではもう一つの理由を
ワイはこの話の冒頭で、「いかにして歌舞伎町の維持・再生産は行われているのか」という問いに、「媒介」が行われているからだ、と書いた
今まで書いてきた話は全て、この「媒介・仲介」についての具体例だったんや
まずは、「行政(自治体・警察)―歌舞伎町商店街振興組合―風俗営業店」という媒介関係が成立していること
ここでは振興組合が中間集団の役割をしているわけや