そのままフラフラになって会社に行ってしばらくしたら、上司に呼び止められた
なんだろうと思ったら「お前今日おかしいぞ? また出たのか?」ってドンピシャなことを言われた
「出ました……」って言ったら上司苦笑いしてた。俺よく覚えてないんだけど、上司の話によると
俺は朝の会議中に配られた資料をまとめて返そうとしたり呼びかけても反応がなかったりと明らかに虚ろだったらしい
正直霊障という程のことはないが睡眠を邪魔されるので睡眠不足なんですと誤魔化したら
上司は逆に難しそうな顔になった。そして「もしお前が営業車で事故っても始末書に『原因:幽霊』って書けねーぞ」と真剣な目で言われた
要するに「何とかしろ」と言われたわけだ。正直あまり大事にしたくなかったが、この時初めてお祓いしてもらうことを考えた
そんで、矢も盾もたまらずオトンに電話かけて「実はコレコレこういうことがあって……」と委細を話した
パパンは「はぁ……」となんとも言えないリアクションをした
俺は最初近所に神社があるんで、そこの神主にお祓いしてもらう程度の事を想定していた
俺も一昨年陸前高田や気仙沼・大船渡に行ったが霊障はなかったな
ただごくまれに携帯の電源が勝手に落ちたり液晶が点滅するけど
てか親戚の婆ちゃんが亡くなってから仏さんを撮影したんだが何も起こらん
しばらくしてオトンから電話があった。「明日除霊予約したから、お前今日の12時から肉やら酒やら口にするな」と言われた
予約したところを聞いたら、地元では有名な真言宗の寺だった
費用を聞いたらそれなりにかかると言われたんで俺は正直「金かかるなら盛り塩して俺で祓うわ!」と反論したが
「オメーそんな場合じゃね―だろうが」とオトンに怒られて目が覚めた
その頃放置してある車に死体が入ったままとかになっててガチで怖かったわ
あんな所ににふざけ半分で行ったら祟られるのは当たり前やな
お祓い当日、姉が付き添いしてくれることになった。話によると結構強力なお祓いをする予定なので
もしかしたら帰り車の運転が出来なくなるかもしれないということで、正直ガクブルしていた
寺に着いたら、今まで何度も見てたけど、実際に中には入ったことがなかったんで若干ワクワクしてきた
最初に僧衣を着たおばさんが出てきて、「さあさあこちらへ」と丁寧に通してくれた
ワクワクすなwwwwwww
事のあらましをそのおばさんに話すと、おばさんはなんか長さ四十センチぐらいの木の棒をジャラジャラ取り出し、何か占いのようなことを始めた
紙に書かれた俺の名前を見ながらしばらくジャラジャラとやって、机の上に置いた積み木みたいなものをカタカタと弄ってた
占いが終わったら、そのおばさんがポツリと一言、「祓えんのかな……」と
「フハハハハハ貴様程度の霊力で我が祓えると思ったか!」みたいな中二病的台詞が頭の中にこだまして
若干ワクッとするのと同時にガクブルした
正直「祓えんのかな……」という台詞が現実に登場する台詞なのかよと思った
俺は気休め程度に経のひとつでも上げてもらえばそれで安心して熟睡できると思ってたのに
とんでもない事態になったなと内心怖かった
しばらくして住職がやってきた。三十代ぐらいの、見るからに誠実そうな坊さんだった
地元では占いやらお祓いやらで有名なのはこの住職の人柄によるんかなと思った
ちなみに書いてなかったが、俺が行った寺院の本尊は不動明王だ
それから住職は俺に取り憑いたものに関して丁寧に説明してくれた。言われたことが多かったんで箇条書きにする
・アンタに憑いたのはまず間違いなく被災して亡くなられた人々であろうこと
・「南無阿弥陀仏! 南無阿弥陀仏!」という念仏を唱える声とベニヤ板を折るような音は、最期の瞬間の記憶であろうこと
・被災者の霊はあまりにも通常ありえない死に方なので、除霊というより慰霊になるということ
・3.11後、アンタみたいに被災地から連れてくる人が絶賛増加中であること
・特に被災地の幽霊は交通事故を引き起こす傾向があること(これは聞かれた話から俺が考えたこと)
住職の「俺が聞いた一切は被災者の最期の瞬間であろう」という言葉には俺もやっぱりなと思った
おそらく、襲い来る津波に家が流されてく中で、取り憑いた幽霊氏は念仏を唱えながら死んでいったのだろう
そう考えると寝不足程度でイライラしてた自分がなんつーか申し訳なく思えてきた
だが除霊してもらわんと仕事にならんわけで。ちなみにおばさんの「祓えんのかな……」という一言は
慰霊→除霊になる、つまり慰霊なしの除霊だけでは祓えない、という意味らしかった
想像を絶する
ちなみに話が脱線するが、住職から聞いた他の人の話ね
その人は被災地に務める学校の先生らしいんだが、赴任してからというもの、なんでか車関係のトラブルが絶えない
ありえない交通事故をしたり事故をもらったり、ありえない故障の仕方をしたり。で、特徴的なのが、そのたびにお守りが壊れたらしい
「これ詰んだわ」と思うような大事故をしたときも、何故か無傷ですんだが、やっぱり車の中のお守りはボロボロに壊れていた
それで怖くなってお祓いに来た人がいたそうだ
それすごいな