364:1 ◆od.mCbJyhw @\(^o^)/: 2016/12/24(土) 01:12:16.61ID:Ox2mhf+Y.net
ヒロコ「本当にありがとう。1と……」
武智がぶっきらぼうに「武智」と言った。
続いて、吉谷も苦笑いで「吉谷」とだけ言った。
ヒロコは小さく微笑んで、「武智と吉谷も、ありがとう」とお礼を言った。
ヒロコ「1は蹴られたけど、大丈夫……?」
俺「蹴られた瞬間はやばかったけど、今はなんともないよ」
そう答えると、ヒロコは「よかった、みんな怪我しなくて」と安堵の表情を浮かべた。
365:1 ◆od.mCbJyhw @\(^o^)/: 2016/12/24(土) 01:13:09.05ID:Ox2mhf+Y.net
武智「でもそれ、訴えたら暴行罪で勝てるよな~w」
吉谷「そういう発想が、お坊ちゃんって感じだよな俺ら。情けない」
武智「別にいいだろww」
緊張が緩んで、次第に和やかな雰囲気になっていく。
良かった。とりあえず俺たちは、あのヤンキーに勝ったんだ。
俺「でも、1万円なんて大金、大丈夫だったの?」
ヒロコは黙ってかぶりを振った。
366:1 ◆od.mCbJyhw @\(^o^)/: 2016/12/24(土) 01:18:22.80ID:Ox2mhf+Y.net
ヒロコ「ほんとはね、あれでアンプを買いたくてずっと貯めてたんだけど……」
ヒロコ「でも……」
そう言うと、ヒロコはぽろぽろと涙を流した。
吉谷「え、ヒロコちゃんアンプ持ってなかったの?」
ヒロコ「ううん、持ってるけど、すごくボロボロだから」
ヒロコ「あたし、バンドしたかった。本当に、ただそれだけだった」
ヒロコは鼻をすすって泣き始めた。
367:1 ◆od.mCbJyhw @\(^o^)/: 2016/12/24(土) 01:30:01.95ID:Ox2mhf+Y.net
ヒロコ「明日ね、夏祭りでステージがあるんだけど」
ヒロコ「そこで演奏したくて、あたし勝手に申し込んでたの」
それを聞いて俺たちは顔を見合わせた。
俺「え? 夏祭りって、ふもとの夏祭りだよね?」
ヒロコは目に涙を浮かべたまま、「そうだよ」と答えた。
俺たちが担任に「遊びに行ってもいい」と言われていたお祭りのことだ。
無論、俺たちはみんな行く気でいた。
そこで、ステージがあったなんて。
368:1 ◆od.mCbJyhw @\(^o^)/: 2016/12/24(土) 01:30:50.13ID:Ox2mhf+Y.net
ヒロコ「だから、さっきのあいつらに一緒に出ようって言ってたんだけど」
ヒロコ「全然ダメだった」
ヒロコ「もう、諦めるしかないかな……」
涙を腕でこすり、ヒロコは俯いた。
この前何か揉めていたのも、きっとこの夏祭りのステージのことだったんだ。
ヒロコは本当にステージに立って演奏がしたくて、それで……
369:1 ◆od.mCbJyhw @\(^o^)/: 2016/12/24(土) 01:44:18.40ID:Ox2mhf+Y.net
俺は吉谷の顔を見た。
吉谷は黙って頷いた。
俺「ヒロコ、ステージに立ちたいか?」
ヒロコ「え、どういうこと?」
俺「バンド組もうぜ、俺たちで。一夜限りのバンド」
瞬間、ヒロコの顔に光が溢れ、笑顔が咲いた。
ヒロコ「え、うそ!? いいの?!」
370:1 ◆od.mCbJyhw @\(^o^)/: 2016/12/24(土) 01:45:29.97ID:Ox2mhf+Y.net
俺「ああ。ギターがヒロコ、ベースが吉谷、そんでボーカルが俺」
吉谷は、「ドラムがいないのがちと難点だなw」と苦笑いした。
ヒロコは興奮を抑えきれないでようで、何度も頷いてみせた。
ヒロコ「いいよそれ! 最高! 最高のバンドじゃん!!」
目に涙を溜めたまま、思い切り笑顔になった。
俺「だろ? 俺もそう思うw」
武智「俺、エアドラムで入っちゃダメか?」
吉谷「それはいらねえだろww」
371:1 ◆od.mCbJyhw @\(^o^)/: 2016/12/24(土) 01:50:30.92ID:Ox2mhf+Y.net
俺「バンド名は、そうだな……」
すると、ヒロコが何か言いたげにこちらを見た。
俺「何かあるの?」
ヒロコ「『THE SUMMER HEARTS』ってどうかな…?」
吉谷「お、いいねぇ」
俺「俺たちっぽくていいと思う!」
ヒロコは歯を見せてキラキラと笑い、「やったぁ、これでいこ!」とはしゃいだ。
武智のやつが後ろの方で、
「かー! サマーハーツ最高だねぇ~!」などと騒いでいたw
372:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2016/12/24(土) 02:06:38.03ID:+HTrplWK.net
この3人でバンド結成か
サマーハーツ、いいじゃん
373:1 ◆od.mCbJyhw @\(^o^)/: 2016/12/24(土) 02:10:28.90ID:Ox2mhf+Y.net
俺「そのステージって、明日の何時から?」
ヒロコ「集合は、確か夜の6時だったと思う」
吉谷「それなら、すぐに戻って練習だな!」
そうして俺たちは、ヒロコを連れてそのまま宿に向かうことにした。
明日の夏祭りのステージに向けて、動き出した。
374:1 ◆od.mCbJyhw @\(^o^)/: 2016/12/24(土) 02:14:10.75ID:Ox2mhf+Y.net
宿に帰ると、すでに勉強小屋で夜の勉強時間が始まっているようだった。
武智「見てきたけど、もうあっちで勉強会始まってるわ」
俺「元気は、上手くごまかしてくれたのかな?」
吉谷「俺たちは一旦部屋に戻るから、元気呼んできて」
そう言うと、武智は「ほいさ」と言って勉強小屋へと向かっていった。
俺とヒロコと吉谷はバレないように部屋へと急いだ。
375:1 ◆od.mCbJyhw @\(^o^)/: 2016/12/24(土) 02:22:29.39ID:Ox2mhf+Y.net
部屋に着くとすぐに、吉谷はベースを手にとって喋り始めた。
吉谷「ステージって、何曲できるんだ?」
ヒロコ「多分、一曲だと思う」
吉谷「それなら、曲目は『終わらない歌』でいいよな? 簡単だし」
俺「いいと思う。それを完璧にしよう」
ヒロコも同調して頷いた。
吉谷「ドラムがいないっていうのは厳しいけど、俺がヒロコちゃんのギターに合わせるから」
吉谷「失敗してもいいし、この前みたいに思いっきりやろうせ」
ヒロコは「うん!」と元気よく返事をした。
376:1 ◆od.mCbJyhw @\(^o^)/: 2016/12/24(土) 02:34:38.35ID:Ox2mhf+Y.net
吉谷「1、お前の歌もかなり重要だぞ? 歌詞は頭に入ってるか?」
俺「任せろって。カラオケで何万回歌ったと思ってるw」
調子に乗ってそう言うと、吉谷もヒロコも笑みを見せた。
吉谷「じゃあアンプもないけど、一回BGMナシで合わせてみよう」
そして、俺とヒロコと吉谷の三人の練習が始まった。
377:1 ◆od.mCbJyhw @\(^o^)/: 2016/12/24(土) 02:35:34.85ID:Ox2mhf+Y.net
俺たちが部屋で練習をしていると、武智と元気と、委員長が来た。
武智が、「だめだめ! 委員長はもういいよ!」などと言っていたが、
元気と一緒に委員長も部屋に入ってきてしまった。
委員長「え、アンタたちお腹壊して寝込んでるんじゃなかったの?」
俺「あ……」
吉谷「……」
吉谷も俺も、言葉をなくしてしまった。
379:1 ◆od.mCbJyhw @\(^o^)/: 2016/12/24(土) 02:43:42.35ID:Ox2mhf+Y.net
元気「と、いう風に俺が先生に話しておいたんだけど」
委員長「心配だから私が見に来たの」
そう言うと、委員長はヒロコをまじまじと眺めた。
委員長「で……この子誰?」
ヒロコは、委員長に対しても律儀に頭を下げた。
仕方がないので、俺たちは委員長にもこれまでの経緯を洗いざらい教えることにした。
俺「話せば長くなるんだけど……」
380:1 ◆od.mCbJyhw @\(^o^)/: 2016/12/24(土) 02:44:55.34ID:Ox2mhf+Y.net
委員長「えー! それでアンタたち明日のお祭りで演奏するってこと?」
俺も吉谷も「まあ……」ときまりの悪い様子で返事をするw
武智「演奏じゃねえ、ライブだぞ」
委員長「そんなのどっちでもいいよ」
委員長に一喝されて、武智は変な顔をしていたw
委員長は、ヒロコに優しい視線を向け、「そんなに出たかったの」と質問した。
するとヒロコは「もちろんです!」と答えた。
委員長には、なぜだか敬語だった。
382:1 ◆od.mCbJyhw @\(^o^)/: 2016/12/24(土) 03:01:07.89ID:Ox2mhf+Y.net
委員長「はあ、なんでアンタたちってこう危ないことするかなぁ……」
委員長は額に手を当て、がっくりとうなだれた。
俺「ごめん、委員長」
委員長「いいけど、今だって先生止めて私が代わりに来たんだからね」
委員長「正直、かなり危なかったよ」
そう言われて、ぐうの音も出ない俺たち。
383:1 ◆od.mCbJyhw @\(^o^)/: 2016/12/24(土) 03:02:12.11ID:Ox2mhf+Y.net
委員長「もう分かったから、一曲やってよ」
その発言に、俺たちは呆気にとられた。
吉谷「え? なんて?」
委員長「せっかくここに来たんだから、聴きたいじゃんw」
武智は「マジかwwww」と笑っていた。
意外だったが、さすが委員長だと思えた。
「じゃあいくよ」と始めようとすると、「待って」と止められた。
委員長「やっぱり、明日の楽しみにしとく」
384:1 ◆od.mCbJyhw @\(^o^)/: 2016/12/24(土) 03:02:54.23ID:Ox2mhf+Y.net
委員長「明日、私も聴きに行くから」
そう言うと委員長はいたずらっぽい笑みを浮かべた。
俺「マジで? 来てくれるの」
委員長「そんな面白そうなの、見に行くに決まってんじゃんw」
委員長「クラスの皆にも、先生にバレないように水面下で広めとくから」
吉谷「委員長、本当にありがとう」
吉谷がそう言うと、委員長は「別に」と首を振った。
委員長「みんな、楽しそうで良かったよ」
385:1 ◆od.mCbJyhw @\(^o^)/: 2016/12/24(土) 03:03:42.18ID:Ox2mhf+Y.net
委員長は素っ気なくそう言ったが、
もしかしたら俺と吉谷のことだったのかもしれない。
「THE SUMMER HEARTS」を組んでステージに立つことが決まってから、
俺と吉谷はすっかり自然体に戻っている気がした。
委員長「夜の勉強時間が終わるまでは、ここで練習するんでしょ?」
俺「まあ、そうだね」
委員長「先生は、戻ったらまた私と元気君でごまかしとくから」
委員長「あんまり遅くならないようにね」
386:1 ◆od.mCbJyhw @\(^o^)/: 2016/12/24(土) 03:04:39.93ID:Ox2mhf+Y.net
そう言い残すと、委員長と元気は部屋から出ていこうとした。
武智が「じゃあな~」と見送ろうとすると、
「アンタも行くの!」と委員長に引っ張って行かれたw
武智は、「俺も混ざりたかったぁ~」などと喚きながら拉致されていった。
3人になった俺たちは、すぐに練習を再開した。
本番は明日。
「とにかくミスってもいいから、思い切りやろうぜ」
それが合言葉だった。
407:1 ◆od.mCbJyhw @\(^o^)/: 2016/12/27(火) 01:45:45.73ID:l0x0uwBQ.net
翌日、合宿6日目。夏祭りの当日である。
この日も太陽は絶好調で、容赦のない暑さでいっぱいだった。
俺たち「THE SUMMER HEARTS」が今夜の夏祭りでステージに上がることは、
ひっそりとクラス内に広まりつつあった。
顔を合わせると色んな人に「頑張ってな!」と声をかけられた。
きっと、委員長のおかげだ。
408:1 ◆od.mCbJyhw @\(^o^)/: 2016/12/27(火) 01:46:46.08ID:l0x0uwBQ.net
夕方、勉強時間にかぶる時刻に、ヒロコを宿に呼んだ。
敷地の入口でヒロコを迎え入れると、ヒロコの髪が黒に染まっていた。
俺「髪、黒くしたんだ」
ヒロコ「うん、ステージに立つし。…どうかな?」
ヒロコは落ち着かない様子で、照れているようだった。
それがまた可愛らしくて、俺は「よく似合ってるよ」と言った。
ヒロコは「ひひっ」とはにかんで、「ありがと」と呟いた。
409:1 ◆od.mCbJyhw @\(^o^)/: 2016/12/27(火) 01:47:46.76ID:l0x0uwBQ.net
こっそりとヒロコを部屋へと案内し、吉谷と3人で直前の確認を行なっていた。
すると、見計らったかのように委員長と渚が部屋へとやって来た。
なんだかばつが悪く、俺は渚を直視することができなかった。
俺「何か用? 先生にバレた?」
委員長「いや、違うよ。今から少し練習するんでしょ?」
委員長「先生の方は、私の方でごまかしてるから」
俺「それはありがとう、助かるよ」
委員長は、ヒロコをまじまじと眺めた。
410:1 ◆od.mCbJyhw @\(^o^)/: 2016/12/27(火) 01:48:46.86ID:l0x0uwBQ.net
委員長「それはいいんだけど、今日ライブだよね?」
委員長「あんたらの恰好はそれでも制服でもなんでもいいけど……」
委員長「ヒロコちゃんはそのまま?」
委員長はヒロコを指差した。
ヒロコの服装はTシャツにショートパンツという味気ないもので、
確かにライブでステージに上がるには向いていないように見えた。
委員長「夏祭りなんだし、浴衣でも着ればいいのに」
委員長「浴衣とか、ないの?」
そう質問すると、ヒロコは首を横に振った。
411:1 ◆od.mCbJyhw @\(^o^)/: 2016/12/27(火) 01:50:21.09ID:l0x0uwBQ.net
委員長「そっかぁ、でも私は浴衣持ってきてないからなぁ」
すると、委員長の後ろから渚が声を出した。
渚「それなら、私の浴衣着てみる? きっと着られると思う」
確かに渚とヒロコの背丈は似たようなものだった。
その提案に、俺も委員長も「いいね!」と賛同した。
吉谷だけが若干苦い顔をしていたが、渋々賛成してくれたw
(多分、自分の彼女の浴衣姿が見たかったんだろう…)