一年につき、一万円で寿命を買い取ってもらった…→衝撃の末路が待ち受けていた!!

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34: :2013/05/07(火) 14:17:21.94 ID:

「その幼馴染さんですけど」とミヤギは告げる。

「十七歳で出産してるんです。で、高校を退学。
十八歳で結婚しますが、十九歳で離婚してます。
二十歳の現在は、一人で子育てしてますね。
ちなみに二年後、首吊り自殺することになってます。

いま会いにいくと、多分『お金貸せ』とか言われますよ。
あなたのこと、ほとんど覚えてませんし」

35: :2013/05/07(火) 14:20:27.06 ID:

俺がどんな反応を示したかって?
そりゃ、がっつり傷ついたさ。がっつりな。
一番大切な記憶を台無しにされたんだからな。情けない話なんだが、二十歳になっても、
俺の根っこの部分はどこまでもピュアと言うか
ナイーヴというかセンシティヴというか、
ようするに子供の頃から成長していなかったんだな。何かが変わったり、何かが終わっていく、
そういうことが、いまだに耐えらないんだよ。
成人男性のくせにカナリヤ並に敏感なんだ。

36: :2013/05/07(火) 14:22:32.67 ID:

それでも俺は極力気にしていないふりをして、
「ふうん」と言いながら煙草に火を点けた。三本くらい吸うと、体調が悪いせいか、
嫌な感じに頭が痛くなってきてたな。
でも吸い続けた。色んなことを忘れるために。ミヤギは部屋のすみに戻っていった。
で、ノートにさらさらと何かを書いてたな。気が付くと、いつの間にか日が落ちていた。
俺は自分の書いたリストに目を落とし、
幼馴染の項に取り消し線を引いた。

それからもう一度リストをじっくり眺めて、
電話を手に取り、ゆっくりボタンを押した。

38: :2013/05/07(火) 14:26:23.27 ID:

『どうしたの? 珍しいね、あんたからかけてくるなんて』
お袋の声を聞くのは、本当に久しぶりだった。
バイトと勉強が忙しくて電話をする暇がなかったからな。「急で悪いけど、今から実家に帰っていいかな」。
俺はお袋にそう聞くつもりだったんだ。
で、家族の無償の愛とやらに包まれながら、
余生を穏やかに過ごそうと思ってたんだよ。
だが、こっちが何か言う前に、お袋はべらべらと喋り出した。それは俺の二つ下の、弟の話だった。
お袋はことあるごとにあいつの話をしたがるんだよ。というのも俺の弟、ちょっとした有名人なんだ。
野球をするために生まれてきたような男でさ、
一年の時から甲子園で投げてるんだよ。
テレビにもしょっちゅう出てるんだ。自慢の弟さ。

39: :2013/05/07(火) 14:28:05.41 ID:

弟の相変わらずの大活躍については勿論のこと、
お袋は、弟が連れてきた恋人の話までし始めた。「とにかく美人なのよ」とお袋は二十回くらい言った。
「同じ人間とは思えないほど美人でね、その上性格も……」
まるでもう孫ができましたみたいな話ぶりでさ。
俺の話なんて全く聞こうとはしてねえんだよな。実家に帰ろうという気持ちは、段々としぼんでいった。
最近では、その弟の素敵な恋人さんってのを、
しょっちゅう家に招いて夕食を一緒にするらしい。
その場に俺が混ざるのを想像しただけで死にたくなったね。俺は適当なところで電話を切った。実家に帰るのは、やめた。

41: :2013/05/07(火) 14:33:48.02 ID:

今日は何をしても駄目な日なんだ、と俺は決めつけた。
好きなことでもして気分を紛らそうじゃないか。
それで明日になったら、また何をするか考えよう。というわけで、欲望の赴くままに過ごそうと決めた俺だったが、
その上で、どうしても邪魔になるやつが部屋のすみにいるんだよな。「私のことはいないと思ってくださって結構ですよ」
俺の気持ちを察したのか、ミヤギはそう言う。
だが、本人がいくらそう言っても、気になるものは気になる。
自分で言うのもなんだが、俺はかなり神経質なんだ。同世代の女の子に見られてるのを意識しだすと、
行動のひとつひとつがおかしくなるんだよ。
「自然体っぽい格好よさ」を出そうとしちまうんだな。
気付くと髪を触ってるんだ。完全に自意識過剰だ。

43: :2013/05/07(火) 14:37:17.01 ID:

しばらくは、手元に残ってた本の中でも一番難解な
「フィネガンズ・ウェイク」を読んで格好つけてた。
当然、内容はさっぱり頭に入ってこなかった。
余命三ヶ月だってのに、何をやってるんだろな。読書に飽きた俺は近所のスーパーに行って、
グラス付きのウイスキーと氷を買った。
ミヤギも菓子パンやら何やらを買いこんでた。
それを見た俺は、なんか幸せな錯覚に陥ってさ。実を言うと、俺には昔から憧れがあったんだよ。
同居してる子と部屋着のままスーパーに行って、
食材とかお酒を買って帰ってくる、って行為に。羨ましいなー、って思いながらいつも見てた。
だから、たとえ監視が目的だろうと、若い女の子と
夜中のスーパーで買物するってのは楽しかったんだ。
むなしい幸せだろ? でも本当だから仕方ない。

44: :2013/05/07(火) 14:40:27.54 ID:

家に帰って、ウイスキーをちびちび飲んでいるうちに、
俺は久しぶりに良い気分になってきた。
こういうとき、アルコールってのは偉大だな。部屋のすみでノートに何かを書いているミヤギに
俺は近づき、「一緒に飲まない?」と誘ってみた。「結構です。仕事中なので」
ミヤギはノートから顔も上げずに断った。「それ、何書いてんだ?」と俺は聞いた。

「行動観察記録です。あなたの」

「そうか。いま俺は、酔っ払ってるよ」

「そうでしょうね。そう見えます」
ミヤギはめんどくさそうにうなずいた。
実際めんくせーんだろうな、俺。

45: :2013/05/07(火) 14:44:30.05 ID:

完全に酔いが回った俺は、なんだか自分が
悲劇の主人公になったような気がしてきた。で、落胆の反動っていうか、双極性っていうかさ。
急にポジティブになったんだよ。
得体のしれない活力が溢れてきたわけ。俺はミヤギに向かって、高らかに宣言した。
「俺は、この三十万円で、何かを変えてみせる」「はあ」とミヤギは興味なさそうに言った。

「たった三十万円だろうと、これは俺の命だ。
三百万や三億より価値のある三十万にしてやる」

俺としては、かなり格好良いことを言ったつもりだったね。

46: :2013/05/07(火) 14:47:44.89 ID:

でもミヤギはしらけっぱなしだった。「皆、同じことを言うんですよ」

「どういうことだ?」と俺は聞いた。

「死を前にした人は、皆、極端なことを言うようになるんです。
……でもですよ、クスノキさん。よーく考えてください」
ミヤギは感情のない目で俺を見すえて言った。

「三十年で何一つ成し遂げられないような人が、
たった三か月で何を変えられるっていうんですか?」

「……やってみなきゃわかんないさ」と俺は言い返したが、
実際、彼女の言ってることは、どこまでも正しいんだよな。

48: :2013/05/07(火) 14:50:44.18 ID:

俺はそこであることに気付いて、ミヤギに聞いた。
「なあ、あんた、もしかして、この先三十年かけて
俺の人生に起こるはずだったこと、全部知ってんのか?」「大体は知ってますよ。もう意味のないことですけどね」「俺に取っちゃ相変わらず有意味だよ。教えてくれ」「そうですねえ」とミヤギは足を崩しながら言う。
「まず一つ言えるのは、あなたが売った三十年の中で、
あなたが誰かに好かれることはありません」

「それって悲しいことだよな」と俺は他人事のように言った。

49: :2013/05/07(火) 14:53:18.82 ID:

「あなたは誰のことも好きになることができず、
そんなあなたを周りの人間が好きになるはずもなく、
相互作用でどんどんあなたと他人の距離は開いて、
最終的に、あなたは世界に愛想を尽かされるんです」ミヤギはそこでちらっと俺の目を見た。「『それでも、いつかいいことがあるかもしれない』。
そんな言葉を胸にあなたは五十歳まで生き続けますが、
結局、何一つ得られないまま、一人で死んでいきます。
最後まで、『ここは俺の場所じゃない』って嘆きながら」「それって悲しいことだよな」と俺は機械的に繰り返した。
でも内心、やっぱりしっかり傷ついていた。
ただ、かなり納得できる話でもあったな。

50: :2013/05/07(火) 14:56:24.25 ID:

さらにミヤギが続けた話によれば、
俺は四十歳でバイク事故を起こすらしい。
その事故で顔の半分を失い、歩けなくなるとか。かなり気のめいる話だったが、一方で、
それを経験する前に死ねることを考えると、
案外俺はラッキーなのかもしれないと思った。そうなんだよな、半ば期待する余地があるから、
五十年も無意味な人生を送ったりしちまうんだ。
完全に良いことが何もないって分かってれば、
逆に何の未練もなく逝けるってもんだ。

51: :2013/05/07(火) 14:58:44.63 ID:

俺は気を紛らそうとして、テレビをつけた。
番組ではスポーツ特集をやっているらしかった。
まずいと思ってチャンネルを変えようとした頃には、
弟の顔と名前がしっかり画面上に出ていた。俺は反射的にグラスを投げつけてたね。
テレビが倒れて床に落ち、グラスの破片が飛び散る。俺はふっと我に返り、ミヤギの方を見る。
彼女は明らかに警戒した様子で俺のことを見ている。「弟なんだよ」と俺は努めて明るく言ったんだが、
それが逆に本格的にイカれてる人っぽくて笑えたな。

「……弟さんのこと、あんまり好きじゃないんですね?」
ミヤギは軽蔑するような調子で言った。
「あんまりね」と俺はうなずいた。
隣の部屋から壁を殴る音がした。

52: :2013/05/07(火) 15:00:43.05 ID:

割れたグラスを片付けたりなんかしていると、
俺の酔いはまずい感じに醒めてきた。
このまま完全にアルコールが抜ければ、
最悪の精神状態になるのが目に見えてた。だから俺はある人に電話をかけたんだ。
思うに、これもまた最悪の選択だったな。
俺ってやつは、自分で自分の人生を
悪い方向に転がすことにかけては一流なんだ。電話の相手は、高校の頃の一番の友人だった。
数か月間一度も連絡をとってなかったのに、
「今から会えないか」なんて無茶なことを言う俺に、
友人は「今からそっちにいくよ」と快く応じてくれた。その時は、ちょっと救われた気でいたな。
まだ俺のことを気に掛けてくれている人がいるんだ、って思った。

53: :2013/05/07(火) 15:03:11.81 ID:

この上なく情けない話なんだけどさ、
友人と会うにあたって、俺にはちょっとした下心があった。このミヤギって子、見てくれはそれなりなんだよ。
愛想はないけど、ふるまいがかわいいんだ。
その子が俺の後ろをずっとついてくるわけ。
そりゃ、それが監視員の仕事だからな。でさ、スーパーを歩いてる最中、俺は思ったんだよ。
周りには、俺たち恋人同士に見えてるんじゃないか、って。
むしろそれ以外の何に見えるって言うんだろうな?俺は、友人がそういった勘違いをしてくれることを期待してたんだ。
かわいい子を連れてることを自慢したかったのさ。
聞いてる方が恥ずかしくなるような動機だろ?
だが俺にとっては切実だったんだ。

54: :2013/05/07(火) 15:07:06.57 ID:

レストランのテーブルにつくと、ミヤギは俺の隣に座った。
俺は満足して、早く友人が来ないかとうずうずしてたね。時計を見る。ちょっと着くのが早すぎたらしい。
友人が来るまでコーヒーでも飲んで待つことにした。ウェイトレスが来ると、俺は自分の注文を言った後、
ミヤギに向かって、「あんたはいいのか?」と聞いた。すると彼女は気まずそうな顔をした。
「……あの、最初に言いませんでしたっけ?」

「何を?」と俺は聞きかえした。

「私、あなた以外には見えてないんですよ。
声も聞こえてないし、触っても気付かないんです」

ミヤギはウェイトレスの脇腹を突っついた。たしかに、無反応だった。