一年につき、一万円で寿命を買い取ってもらった…→衝撃の末路が待ち受けていた!!

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1: :2013/05/07(火) 13:05:53.27 ID:

「自分の人生には、何円くらいの価値があるか?」
そんな質問をされたことがあったな。
確か、小学四年生の道徳の授業だったか。大半の生徒は、きょろきょろ周りを見ながら、
最終的には、数千万から数億という結論を出してさ。
「お金では買えない」って考えを譲らない生徒もいたね。大人に聞いても、似たような答えが返ってくるだろうな。
少なくとも俺は、実際に寿命を売るその日までは、
自分の人生は二、三億くらいの価値があると思ってた。だから十年か二十年くらい寿命を売って数千万得て、
残りの人生を楽に生きるのが利口だと考えてたんだよ。
幸せな六十年とそうでもない八十年だったら、
前者の方が絶対いいに決まってるからな。

査定結果を見た時はひっくり返りそうになったぜ。
どうやら俺の一生、百万円にも満たないらしいんだよ。

3: :2013/05/07(火) 13:09:54.56 ID:

1年1万なら100年売っても100万だものな

4: :2013/05/07(火) 13:10:15.53 ID:

二十歳の七月くらいの時の話なんだが、
その頃、俺はとにかく金に困ってた。白米とみそ汁以外のものを口にしてなくてさ、
数日前、ウェイターのバイト中に三回ぶっ倒れて、
そろそろ栄養のあるものを食べないとまずいと思った。金になるものといったら、家具、数十枚のCD、
それに数百冊の蔵書の他には考えられなかったな。ほとんど中古品で、たいした価値はないんだが、
それでも一か月の食費くらいにはなるかと思って、
できるだけ新品に近付けようと入念に掃除して、
行きつけの古書店や楽器屋に売りに行ったわけだ。

7: :2013/05/07(火) 13:12:22.45 ID:

古書店の爺さんは、俺が本を大量に売りにきたのを見て、
「一体何があったんだ?」って心配してくれた。
普段はそっけない爺さんだったから、意外だったな。「紙はおいしくありませんからね」って俺が遠回しに答えると、
爺さんは心底同情したような目で俺を見つめた。
でも金はくれなかったな。向こうも貧乏だから仕方ないけど。はした金を受け取って店を出ようとすると、
爺さんは「なあ、ひとつ話がある」と俺を引きとめた。
金くれんのかなーと思って「はい?」と戻ると、
言われたんだよ、「寿命、売る気ねえか?」って。

8: :2013/05/07(火) 13:14:42.85 ID:

老いの恐怖でついにボケちまったかと思いつつ、
俺は話半分に爺さんの説明を聞くことにした。つまりは、こういうことらしい。
ここからそう離れていないとこにあるビルに、
寿命の買い取りを行っている店が入ってるらしい。
そこでは時間や健康さえも売れるんだが、
寿命は特に高値で取引されてるんだそうだ。爺さんは震える手で地図と電話番号まで書いてくれたが、
俺でなくたって、そんな話、爺さんの願望が作り上げた
空想に過ぎないって思ってしまうだろう。
ちょっとかわいそうに思ったね。死ぬの怖えんだろうな、って。

11: :2013/05/07(火) 13:19:27.22 ID:

だが結局、俺はそのビルに向かうことになった。
CDも本も家具も、まったく金にならなかったからだ。寿命を売るなんて話を信じたわけじゃない。
しかし、俺はこういう可能性を考えたんだよ。
爺さんや兄ちゃんが言っていたことは何かの比喩で、
実はものすごく割のいいバイトがあるんじゃないかって。寿命を縮めるようなリスクを負う代わりに、
一か月で百万くらい稼げたりするとか、そういうの。ところが、うす暗い階段を上がってドアを開け、
目が合った店員らしき女が、俺の顔を見るなり
「時間ですか? 健康ですか? 寿命ですか?」
なんて言ってくるもんだから、笑っちゃうよな。

12: :2013/05/07(火) 13:22:41.12 ID:

一連の出来事で神経がまいっていたのか、
俺はもう考えるのが面倒になって、「寿命」と答えた。「二時間ほどお時間をいただきます」と女は言い、
すでに両手はPCのキーボードをかたかた叩いていた。おいおい、人の価値って二時間程度で分かっちゃうのかよ?
俺はあらためて店内を見回した。
なんていうんだろうな、眼鏡のない眼鏡屋、
宝石のない宝石店みたいな空間とでもいうか。でも俺の目に見えないだけで、本当はそこら中に
寿命とか健康とか時間が飾ってあるのかもしれない。
なんてな。いつまでこの笑えない冗談は続くんだ?

13: :2013/05/07(火) 13:26:50.95 ID:

駅前の広場に行って、煙草に火を点け、
最後の一本を時間をかけて味わった。
煙草もそろそろやめなきゃな、と思う。
金食い虫だし、健康にもよくねえからな。近くで鳩に餌をやっている老人がいたんだが、
それで食欲が湧いてしまう自分が情けなかったな。
もうちょっとで鳩と一緒に地面をつっつくとこだったぞ。寿命、高く売れるといいなあ、と思った。駅で時間を潰した後、俺は少し早めに店に戻り、
ソファでうたた寝しながら査定結果が出るのを待った。
二十分ほどして、俺の名前が呼ばれた。
妙だよな。俺、一度も名乗った覚えはないんだよ。

15: :2013/05/07(火) 13:28:43.88 ID:

査定結果を見て、俺は変な声をあげちまった。

一年につき一万円? 余命三十年?

ブックオフだってもう少しまともな値段をつけるぞ。
カメか何かの結果と取り違えたんじゃないのか?
でも、そこには確かに俺の名前が書いてある。

「これ、何を基準に決められてるんですか?」
俺はそう言いつつ査定表を女店員に見せた。

「色々です」と彼女は面倒そうに答えた。
「幸福度とか、実現度とか、貢献度とか、色々」
多分、こういう質問に飽き飽きしているんだろうな。

16: :2013/05/07(火) 13:36:01.19 ID:

女店員はシステムの詳細を教えてくれた。
本当は教えちゃいけないらしいんだが、
あんまりにも俺がしつこかったんだろうな。特にショッキングだった情報は、一万円というのが、
寿命一年あたりの最低買取価格だったってこと。ようするに、俺の人生は限りなく無価値に近いってことだ。
幸せになれず、また誰一人幸せにできず、
何一つ達成できず、何一つ得られないらしい。「問題がなければ、こちらにサインをお願いします」
女店員がしびれを切らしたように言うが、
これを見て問題がないって言うやつがいたら、
そいつは脳の病院に行った方がいいと思うぜ。

だがその頃には俺の感覚は麻痺しちまっててさ、
自分の物や時間を安売りするのに慣れ過ぎてた。
で、ヤケになって、こう答えちまったんだ。
「三か月だけ残して、あとは全部売ります」

18: :2013/05/07(火) 13:39:05.34 ID:

三十万入った封筒を持って、俺は店を出た。

引きつった感じの笑いがこみあげてきたな。
何が悲しいって、俺の寿命の安さの理由、
俺自身、なんとなく分かる気がするんだよ。

だがそれについては考えたくなかったから、
帰り道に酒屋によって大量にビールを買いこんで、
俺はそれを飲みながら夜道をゆっくり歩いた。

酒なんて飲むのは本当に久しぶりだったね。
だからすっかりアルコール耐性もなくなってて、
俺は帰宅して二時間後には吐いてた。

余命三か月、最低のスタートを切ったわけだ。

22: :2013/05/07(火) 13:49:53.07 ID:

眠りにつけたのは朝四時くらいだったなんだが、
こういう日に限って、幸せな夢を見ちまうんだよな。
小学生の頃の夢だった。なんでもない夏休みの夢。
親の車で、幼馴染とキャンプにいった時の夢。ああ、泣いたね。寝ながら泣いてたね。
無慈悲に幸福な夢から俺を救出したのは、呼び鈴の音だった。
無視し続けてると、俺の名を呼ぶ声がした。ドアを開けると、見慣れない女が立っていた。
なんか条件反射的に喜んじまったけど、
その目つきを見て、俺は思い出した。そいつは俺の寿命の査定をした女だったんだ。
「今日から監視員を務めさせていただくミヤギです」
そう言うと、ミヤギと名乗る女は俺に軽く会釈した。

監視員。そういえば、そんな話もあったっけ。
二日酔いの頭で昨日の記憶を探りつつ、
俺はトイレに駆け込んでもう一回吐いた。

23: :2013/05/07(火) 13:55:02.70 ID:

げっそりした気分でトイレから出ると、
監視員がドアの正面に立っていた。
最前席で聞きたかったのかな、俺の吐く音。うがいをして水をコップ三杯飲みほすと、
俺は再びベッドに戻って横になった。「昨日も説明しましたけど」と横でミヤギが言う、
「あなたの余命は一年を切りましたので、
今日からは常時、監視がつくことになります」「その話、後じゃ駄目か?」と俺はミヤギをにらんだ。
ミヤギは「わかりました。じゃあ、後で」と言うと、
部屋のすみっこに行って、三角座りをした。

以後、ミヤギはそこから俺を定点観測し続けることになる。
似たような経験のある人には分かると思うが、
これをやられると生活のペースはすっかり狂う。
ほら、人に見られてるとできないことって沢山あるだろ?

24: :2013/05/07(火) 13:59:29.66 ID:

寿命が一年を切った客には監視員が付くってのは、
確かにあらかじめ聞いていた話ではあったんだ。ミヤギの説明によると、寿命が半年を切った客が、
ヤケになって問題を起こすことがあまりに多いから、
それを未然に防ぐために監視員が導入されたそうだ。もし俺が他人に多大な迷惑をかけそうになったら、
監視員が本部に連絡して、俺の寿命を尽きさせるらしい。
トラヴィス・ビックルにはなれないってこった。ただ、最後の三日間だけは、監視員も外れて、
純粋な自分の時間を満喫できるそうだ。
統計的に、そこまでくると人は悪さをしなくなるとか。

27: :2013/05/07(火) 14:02:44.12 ID:

夕方には、吐き気も頭痛も消えていた。
俺はようやく物をまともに考えられるようになってきた。昨日、衝動的に寿命の大半を売ったことについては、
自分でも意外なほど後悔していなかったな。
むしろ、三か月も残さなきゃよかった、とさえ思った。
監視されっ放しの三か月なんてごめんだからな。
三日くらいしかいらなかったんじゃないのか?さて。自分の価値の低さを今さら悩んでも仕方ない。
問題は、これから何をするかだろう。三か月で。俺はルーズリーフを一枚取り出し、ペンを手に取り、
そこに「やりたいことリスト」を作成した。
いよいよそれらしくなってきたな。

28: :2013/05/07(火) 14:04:53.70 ID:

やりたいことリスト。たとえば、こんな感じだ。

・幼馴染に会って礼を言う

・親友と会って馬鹿話をする

・なるべく多くの時間を家族と過ごす

・知人全員に向けて遺書を書く

・大学には行かない

・アルバイトにも行かない

まあ、全体的に平凡な発想だ。
誰に書かせても似たような感じになるだろうな。

32: :2013/05/07(火) 14:12:20.21 ID:

いつの間にか真後ろにミヤギがいて、
俺の書いたリストを眺めていた。「それ、やめた方がいいですよ」
一つ目の項目を指差して、彼女は言った。
“幼馴染に会って礼を言う”。「なぜ?」と俺はミヤギに訊ねた。――幼馴染について、ちょっと説明するか。
夢にも出てきたその子と俺は、四歳からの仲でさ。
彼女が転校するまでは、どこにいくにも一緒だったんだ。

33: :2013/05/07(火) 14:14:44.48 ID:

中学に入って新しい環境に馴染めず、
クラスで孤立した俺に唯一毎日話しかけきて、
「どうしたの?」って聞いてくれたのも幼馴染だった。離れ離れになった後も、辛いことがあったとき、
俺が思い浮かべるのは幼馴染のことだった。彼女がいなきゃ、今の俺は無かっただろうな。
まあ、無いなら無いでいいんだけどな。とにかく俺は彼女に感謝していたんだ。
ここ数年まったく連絡はとっていなかったが、
もし彼女に何かあったら、真っ先に駆けつけようと思ってた。
どんな形でもいいから、彼女に恩返ししたいと思ってたんだ。