「電話帳だけを見てもね、登録されてなければそれで終わりなんだよ。そういう場合でも104にかけて、電話交換手と話をすればある程度住所を絞れることがある。具体的にはね……」
僕は先ほどとはうって変わって、得意満面でユウキに講釈を垂れていた。
『件の先生の住所を、いったいどうやって割り出したのか』ということについてだ。
探偵密偵のような僕の仕事ぶりに冒険小説的な面白さを覚えたのか、ユウキはそのことについて興味津々といった様子だった。
「意外と学校の近くに住んでたんだな、あの先生。確か車通勤じゃなかったか?」
「歩けば30分くらいはかかるよ。学校からの道の途中に、結構長い坂道があるから」
「ああ、なるほどなあ」
ユウキは、やけに嬉しそうだった。
からかいのにやけを隠そうともせず、先ほどやったように僕の肩を叩く。バンバンと叩く。
「お前、女みたいな顔と性根してると思ってたけど」
そんな風に思われていたか。別に驚きはしないが。
「すげえ根性あるじゃねえか。あの性悪女のためにそこまでやるの、お前くらいじゃないのか」
他に僕みたいなのがいてたまるか。
「先生は別に性悪女じゃないよ」
「いいや、ああいうタイプは性格悪い。確かに物腰柔らかくて親しみやすい感じするだろうけどな、でもあれは、自分が人気ある前提での振る舞いだからな」
「ユウキはほんと穿った見方するなあ。いいじゃん別に、本当に人気あるんだしさ」
「まあ、お前のあこがれに水をさすつもりはないけど」
すでに思いっきり水をさしたあとでそんなことを言う。
「がんばれよ」
急にそんなことを言うのだ。
二つばかりの年上に相応しい、落ち着き払った兄のような笑みを浮かべて、彼は僕の肩を叩くのだ。それはもう、優しく。
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