32:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 11:45:10.734ID:C5NRVnpxa.net
oh…
33:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 12:07:47.412ID:qP4W4GDs0.net
「アスカッ、おい! アスカ――ッ!」
アスカは、ぐったりしていたけれど目は空いていた。
胡乱な目つきで焦点が合っていない。どっか遠くを見ているみたいだった。
ここに至ってことの緊急性を察したのか中年が血相を変えて部屋を出ていく。
戻って救急か、警察でも呼ぶのだろうか?
「おい、おまえ。【俺君】か?」
「……え、はい」
なんで俺の名前を知ってるのかとか、一瞬気になったが考えるまでもなかった。
松田が舌打ちする。
「おまえもう帰れ」
「……」
帰れと言われて素直に帰れない。
こんな状況目の前にして立ち去れるならそもそもここまできていない。
「なんでこうなってるか、想像くらいできるだろ?」
「……なんとなくは」
「ちっ……。また連絡するから今は帰れ。おまえがいてもなんもできねーだろ」
「いや、俺は……」
そこで思いっきり殴られた。
34:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 12:08:07.215ID:qP4W4GDs0.net
本気で人に殴られたのは初めてで、痛いとかよりも先に驚愕した。
こう、自分の体の制御が利かなくなって、上半身が背中から落ちていく感じ。
「……いーくん?」
ようやく思考が事態に追いついて、同時に頬、というか骨格?とにかく顔が痛くなる。
耳鳴りの中、アスカの消えそうな声が聞こえた。
「違う。俺だ。松田だ」
定まらない焦点をアスカと松田に向ける。
「よかったぁ……。電話してもでないから、心配したんだよ……?」
「はあ? ……おいしっかりしろ、アスカ」
「電話出てよ、いーくん。いーくん……。電話……出て?」
35:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 12:08:19.160ID:qP4W4GDs0.net
うわ言みたいだった。
松田がアスカの手からスマホを取り上げる。
液晶が点きっぱなしの画面を松田が覗き込む。
「――ッ!!!!!!」
声にならない、息を喉の奥まで吸い込むみたいな音が松田から聞こえた。
「アスカさん……?」
痛む患部を抑えながら覚束ない足取りで俺もアスカに近づく。
松田に止められるかと思ったが、松田はスマホを凝視して動かない。
「いーくん……」
アスカの涙声が痛い。
「アスカさん、俺でも。……しっかりして下さい」
状況に置いて行かれそうになりながら、なんとかそんなことをいった。
何かしないといけないと思い自分の上着をアスカに被せる。
その後、いけないと思いながら松田の手の中の携帯を覗き込んだ。
多分、発信の履歴だと思う。
上から下まで、びっしりと全部、同じ名前が表示されていた。
36:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 12:18:46.511ID:rNZ/48mS0.net
Nice boat.
37:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 12:42:26.126ID:qP4W4GDs0.net
>>36
やめろめろ
47:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 15:36:46.621ID:qP4W4GDs0.net
会社呼び戻されました。
ちょっと書いたんで載せときますね!
それから、住人か中年かが呼んだと思われる警察に聴取を受けた。
警察の感じだと痴情のもつれか何かだと思われているらしかった。
当人たちのことは事件性はないものとして深くつっこまれることはなかったが、
住居侵入?みたいなことをしてしまった件については厳重注意を受けた。
中年の希望としては今後立ち入って欲しくないとまで言われたらしい。
後で聞いたがアスカの携帯から両親へ電話もしたとのことだが結局繋がらなかったらしい。
警察から解放された後、ぐったりしたアスカは松田が連れて帰った。
別れ際、松田が俺に言った。
「大学生?」
「はい」
「明日の夜時間いい?」
「大丈夫です」
ちなみにバイトだったが腹が痛いとか言ってばっくれた。正直すまんかったと思う。
そして翌日。
見知らぬ番号から携帯に着信。
松田だった。
48:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 15:37:07.812ID:qP4W4GDs0.net
『今どこ?』
「あ、自宅です」
『今から会える?』
「はい」
『じゃあ××のドトールわかる?』
「たぶん…大丈夫です」
『ならそこで。今から向かうから30分くらいでいけると思う。さきついたら店入ってて』
「わかりました」
手短いに済ませて待ち合わせ場所に向かう。
先に到着した俺は何故か店内に入らず店先で松田を待った。
遅れる事5分ほどで松田が現れる。
松田は仕事終わりからそのまま来たのかスーツ姿で、
顔がいいからやけに似合っていた。
50:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 15:38:57.727ID:qP4W4GDs0.net
「中入ってて、て言ったじゃんw」
「すいません」
「待たせて悪かったな。あ、まだ顔痛む?」
昨日のことを心配して松田が聞いてくる。
「はい」
「俺もいっぱいいっぱいだったから加減できなかった、すまんw」
すまんじゃねえよ。こっちはあわや昇天しかけたんだぞ。
「とりあえず中入ろうか」
促されるまま松田と店に入る。
隅っこの方に男二人で座り、松田がすぐに席を立った。
戻ってきた松田はトレーにコーヒーを二つ乗せていた。
51:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 15:39:22.135ID:qP4W4GDs0.net
「おまたせ」
ナチュラルに奢られた。
正直かっこよかった。
同時に、昨日の事もあり引け目を感じる。
「えーと……」
委縮してしまって自分から話さない俺に、
松田は頬をぽりぽりやりながら話の切り口を探しているみたいだった。
身も蓋もない話題を2つ3つ消化してから、
「アスカからまあ……俺くんのこと聞いてる」
「そうですか」
ストーカーとか勘違いボーイとか言われてるんだろうか。
「いろいろ迷惑かけて悪かったな。そんで、単刀直入に言うわ」
「はい」
「アスカのこと好きなら、やめた方がいい」
それはいつかアニさんに言われたことだ。
今となってはその意味が全然違って聞こえるが。
52:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 15:39:56.251ID:qP4W4GDs0.net
「もちろん一方的にもうあいつに近づくなとか、昨日の事は忘れろとかは言わない。殴っちまった手前、こっちの事情も簡単に話すつもりではいる」
「その……アスカと付き合ってるんですか……?」
言ってから自分の聞いていることがすごく幼稚だと思った。
松田は、いやいや、と手を振って否定した。
「それはないよ。あいつの男は俺らのリーダー」
「リーダー……?」
「そ。ミラーマインド」
すっ、と腑に落ちた。
その可能性はちょっと考えれば思い至っただろうのに、
松田の容姿が全然バンドマン然としていなかったので考えていなかった。
「あー……と。その、リーダーの人って」
「うん。死んだよ。3年前に」
53:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 15:41:39.102ID:qP4W4GDs0.net
怒られるかな、と思ったけど松田は怒気のない声で言う。
「俺とあいつはガキの頃からの付き合いで……幼馴染ってやつ? 小学校から大学までいっしょだった。他のメンバーは年上だったんで、俺らが大学出るタイミングで上京して本気で音楽やろう、てことになったんだ」
で、いざ上京したら、
「あいつ、路上でさされて死んだ。アホなカップルの痴話喧嘩で、逆上した男に刺されたんだと。ドラマみたいで笑えるだろ?」
何が笑えるのだろう。無理して笑ってる松田に合わせて俺も笑うべきだったのかもしれないが、俺は全く笑えなかった。
「そんでさ、その頃はもうアスカとあいつは付き合ってたんだけど、アスカは葬式には来なかった。
当日に俺が家まで迎えに行ったけど、自分はあいつが返ってくるのを家で待ってるんだと。
そっからは時々アスカから俺に連絡がきたよ。
そっちではライブしてるのか、とか。GWやら盆やらは戻ってくるのか、とか。
だんだん頻度は減ってきたけど、昨日、久しぶりに電話きてさ。チケットくれだとさ。なんか俺くんといっしょに見に来るて言いだしたんだ」
昨日俺が掛け直した時、話し中だった相手は松田だった。
54:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 15:42:21.572ID:qP4W4GDs0.net
「そんなこと今までなかったからちょっと焦ったよ。アスカのことは気にして会うこともあったけど、もう立ち直ったと思ってた。
意識してあいつの話題は出してなかったけど、全然そんなことなかったのな。あいつは結局、なんの現実も受け入れられてなくて、
今でも自分の恋人は元気にギター弾いて歌ってるんだと、思ってる」
昨日のことは気にすんな、と松田は付け加えた。
「アスカがああなったのは多分俺のせいだ。あいつの葬式の日みたいに、感情が死んじまったみたいなアスカの声なんて久しぶりに聞いたから、ちょっと、きつく言っちまった。死んだやつの事だろ、もう忘れろよ! ……てな」
俺の事を気遣ってくれてるのかもしれなかったが、どこか疎外感を感じて鬱になった。
「昨日は俺の家に泊めた」
まさか……へんなこと、にはなってませんよね?
「仕事行く前はまだ寝てたけど、嫁さんから目覚まして落ち着いてるて連絡来たから多分大丈夫だ」
「そっすか!」
「おお……急に元気だな」
松田が既婚者だと知って俺のテンションが2割増しになった。
それから色々と松田と話した。
死んだボーカルの人はどんな人だったのか、とか、今はどんな仕事してるのか、とか。ぶっちゃけ昨日のアスカの格好を見てどう思ったのか、とか。
俺はことがことだったので思い出しても全然興奮しないのが残念だったが、不謹慎な気がして言えなかった。
「ま、ああいう状況じゃなきゃ勃つわな」
「www」
55:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 15:42:43.093ID:qP4W4GDs0.net
イケメンが言うと下種なのにかっこいいなー。
俺は不思議と松田と意気投合した。
それは俺たちが共にアスカを大切に思っていることが理由なのかもしれない。
松田はどうみても俺と違って本物のリア充でヤリチン野郎で既婚者だったが、アスカの存在が壁を取り払ってくれていたのだと思う。
言っても、俺のはガキの片思いで、松田のそれは親友の恋人を気にする大人な気持ちだったわけだが。
「そういえばさ」
話が盛り上がって、俺がコーヒーのお代わりを打診したのを断った後、松田が思い出し笑いする。
「おまえ、アスカと知り合ったのパチンコ屋なんだって?w」
「あー、はい」
「去年の年末くらいだろ?w」
「ちょwアスカに聞いたんですよね?w」
「まあな。なんか焼肉奢ってもらったとか、おまえのこと変なやつだって言ってたぜ?w」
まさかほとんど出会ったばっかりの頃に、アスカの口から俺の存在が第三者にリークされていたとは・・・。心底意外だった。
56:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 15:42:59.209ID:qP4W4GDs0.net
「アスカ、あいつの影響でスロットやり始めたんだよ。俺もあいつに連れてかれたわw」
「あ、松田さんもスロやるんすか!? 今はまどマギが熱いすよね!」
「いや、もうやってないよ」
ほむぅ。
「まどマギは知ってるけど」
「マジすか!? 俺、世間ではネタにされてるけどさやかさん好きなんすよ! 5人の中で一番えろい体してると思いません!?」
「あ……うん。そうかもね」
松田はめちゃくちゃ引いてた。
「松田さんアニメとか見るんすか?」
キモオタは自分のフィールドだとノリノリだ。
「見るよ」
「!」
「ゴルゴとか」
「( ;∀;)」
57:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 15:43:28.812ID:qP4W4GDs0.net
俺の暴走モードを遮って、
「俺くん、アスカのどこが好きなの?」
松田がガールズトークを持ち出してくる。
「どこって……」
「顔?」
「やー……」
かわいいと思うけど、外見に惚れたというのは薄っぺらい気がして濁す。
「あぁ、胸か」
「違いますよ!?」
いーっていーってみたいに茶化される。いやほんとに違うよ?
そこからからかわれながら俺は松田に心中を赤裸々に暴かれた。
誘導尋問を受けるみたいに、アスカのこういうところが好きだ、とか、ホールではしゃいでる姿が気になった、とか、ぼろ負けして死にそうになってるときに優しくしてもらった、とか。
言えば言うほど、俺は松田よりよっぽどアスカを知らない事を自覚させられて、だったらきっと、例の彼氏には足元にも及ばないことを思い知らされた。
そもそも男の影響でスロット始めたなら、俺が店で見てたアスカは本当のアスカじゃない気がして苦しくなった。
58:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 15:44:58.449ID:qP4W4GDs0.net
アスカが番長ばかり打ってる理由も、松田が話してくれた。
「あいつがアスカに告ったのさ、大学の卒業式の日なんだわ。ぶっちゃけそれまでも付き合ってるみたいなもんだったんだけど。
……そうそう合宿ついてきたりとかw」
この辺聞くのが鬱すぎて聞き飛ばしてました。
話は告白に戻る。
「弱いくせにめっちゃ酔ってて、あいつ夜中にアスカのこと呼び出したんだ。で、どうしたと思う?」
「わかりません」
イケメンリア充のやることなど俺には想像もつかんし知りたくもない。
「近くの公園で弾き語りして告白。そんとき歌ったのがスロットの番長の曲」
こんな感じ、とメロディーを鼻歌で聞かされて、にわかな俺でもそれが【distance】だとわかった。アスカがしょっちゅう口ずさんでいたので気になって何度もネットで聴いた。
64:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 17:23:28.124ID:qP4W4GDs0.net
なんで告白でディスタンスなのかと思ったけど、その時本人がはまっていたかららしい。
そこからは取り留めのない会話をして解散の流れになった。
店を出てから最後に、
「俺くんがどのくらいアスカのことを好きなのかはわからないけど。あいつがまだ吹っ切れていないてわかった以上、そっとしておいてやって欲しい」
そう言われた。
てっきり俺がアスカを変えてやる流れじゃないのか?と思い、そんな感じの冗談を言えるくらいには松田と仲良くなったつもりだが、あんまりにも真剣な顔で言われて俺は黙った。
「多分まだ時間がかかると思う。なんかの拍子に昨日みたいなことになるかもしれない。その時、万が一のことがあったら、俺や俺くんが必ず守ってやれる保障はないだろ?」
ガキの恋愛の尺度とはかけ離れた意見だと思った。
だから俺は「ご迷惑をかけてすいませんでした。アスカさんに謝っておいてください」とだけ言って、松田と別れた。
65:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 17:28:14.887ID:qP4W4GDs0.net
それから一か月くらいは何もなかった。
ゼミの選択とか、定期考査とかに追われつつ、普通に大学に行ってバイトをしてとまともな生活を取り戻した。
もちろんスロットも打った。
番長は打たなかったが依然と同じまど豚に返り咲いた。
途中何故か輪廻のラグランジェに浮気もした。
ほむほむはいなかったけどまどかがいた。
ただアスカと出会った店にはいかなくなった。
もしかしたらまだアスカはあの店で番長を打っているのかもしれないが、顔を合わせるのが嫌で避けていた。
少しずつアスカのことを忘れ始めていた頃、
アスカから着信が来た。
66:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 17:31:24.266ID:qP4W4GDs0.net
『もしもし俺くん?』
一度呼び出しが途切れるまで出る決断が出来ず、
直ぐに掛かってきた二度目の着信に応答する。
不安そうなアスカの声が呼び掛けてきた。
「はい……アスカさん、ですよね?」
携帯同士のやり取りでなんか変だなと思った。
アスカは、なんていうかしおらしい感じの、しゅんとした雰囲気だった。
『うん。久しぶりだね』
「はい。……なんていうか、その、元気でしたか?」
最後に見たアスカのぐったりした姿を思い出す。
『もう大丈夫。……だと思う。その節はご迷惑をおかけしました』
「話、聞きました」
『そっか。……あはは、なんか恥ずかしいね』
その話題に触れればまた松田さんに迷惑をかけると思ったが、
気づいたらそんな言葉を返していた。
大急ぎで会話を路線変更する。
「どうしたんですか? あっ、アスカさんから電話してくれたの初めてですよね!?」
『うん。迷惑かけちゃったから……ちゃんと謝らないといけないと思って。俺くんも、翔ちゃんに殴られたみたいだし』
それ、男として恥ずかしいので触れないでもらえます?
『わたし、こんど引っ越すことにしたんだー。いろんな人に迷惑かけちゃったし、なんか、いずらいし。実家戻ろうかなー』
とつとつとアスカは様々な話をした。
実家がやたらと厳しいこと。
通っていた大学も、自然といかなくなってやめたこと。
例のボーカルとの馴れ初めなんかも聞いた。
67:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 17:31:41.527ID:qP4W4GDs0.net
『大学は、親に指定されてた。ものすごく頭のいい大学ってわけじゃなかったけど、お父さんとお母さんが卒業した大学だから、て。
だから頑張って頑張って……。勉強は苦手じゃなかったけどしんどかった。模試の結果がA判定じゃなきゃその度に吐いたりした。
友達とも遊ばなくなって、ずっと勉強ばっかりしてた。
そしたら仲が良かった子が、自分のお兄さんのバンドのライブに誘ってくれたんだ。
ライブハウスなんて行ったことなかったし、バンドとかも全然詳しくなかったし、なによりきっと怒られるから断ろうと思った。
でもわたしのこと心配して言ってくれてるんだ、て思ったらなんだか断れなくて。当日、わたしは親に嘘ついてライブを見に行った。
びっくりしたなあ……。こんな世界があるんだって。
色んなバンドの人たちが好き勝手歌って演奏して、すごくうるさくて耳が痛くなって、揉みくちゃになって足を踏まれたりしたけど、すごく楽しかった。
演奏が終わったら帰ろうと思ったけど、友達がお兄さんに捕まって、一人じゃ帰れないから隅っこで座ってた。
そしたらいーくんが声をかけてくれた。
たぶん、ナンパ……だったと思う。お酒も飲んでたみたいだし。いーくんお酒弱いのにすぐ飲みたがるんだw
どーして来たの?とか、誰かのファン?とか。
ちょっと怖かったから愛想笑いしてたら友達がお兄ちゃんと一緒に助けに来てくれた。
この子こーいうところ慣れてないんですよー、みたいに言って、
今日は勉強の息抜きて説明してた。
そしたらいーくんはわたしに、
「なあ、今日楽しかった?」て聞いてきて、その質問だけはわたし本音で答えられたんだ。
そしたら「また来いよ」て。お酒で顔真っ赤にしながら笑って言われた。
たぶん、そのときわたしはいーくんのこと好きになったんだと思う』
聞き上手な男がかっこいいと思っていた俺は、アスカの話を最後まで黙って聞いた。相槌も打たなかったと思う。
68:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 17:32:02.081ID:qP4W4GDs0.net
『友達にお願いしてもう一度だけライブハウスに連れて行ってもらったんだけど、その日は参加してなくて。
落ち込んだけど、その後いーくんからメールがきてびっくりした。
友達のお兄ちゃんが取り次いでくれたんだって。
それから家のこととか、勉強のこととか相談に乗ってくれて、
「で、おまえはどうしたいの?」て言われた時、
「いーくんの彼女になりたい」て言ったら、
「なんだそれw」て笑われた。
本気だったからすっごく悲しかった。
それで初めて親に反抗した。
もっと勉強頑張って、いい大学に行くから下宿させてくれて。
納得してくれなかったから勝手に学校で進路志望提出して、
模試の判定見せたら「勝手にしろ」だって。
わたし、いーくんのおかげで変われたんだ。
受験までわたしが全然ライブに行かなかったから、
どーしたんだって、いーくんに聞かれて。
受験勉強だからいけないって言ったことがあるんだけど、
また根詰めすぎてるんじゃないかって心配されて、それで、それで、今、楽しいから大丈夫って答えたら、
「バカだなあ」だって。
それで、それでね……それ、で…………』
ぼろぼろになりながら、アスカが最後に言った。
『……俺くんに会いたいなあ』
71:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 17:37:56.829ID:rNZ/48mS0.net
泣いた
76:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 18:25:24.479ID:qP4W4GDs0.net
松田との約束を破るみたいで煮え切らなかったが、結局アスカとは会うことにした。
何かあったらきっといろんな人に迷惑をかけると思ったが、
電話越しに泣いているアスカを放っておけなかったし、
自分の気持ちだって全然吹っ切れていなかった。
居ても立ってもいられなくなって車に乗り込んですぐにアニさんに電話した。
「俺やっぱり好きです!!」
『あたしは年下お断り。ぱしりにならしてやるけど』
この人いつの時代のヤンキーなの?
「あんたじゃねえよ!」
『あっそ。で、なに? また女々しい相談?』
「だから好きだって!」
『ありがとう』
「違う!」
たぶんこんなやりとりをした。
テンション上げすぎてて空回りしたんだ。
『例の女ならやめろって言っただろ。チ〇コの毛までむしり取られるぞ』
それは是非に。ではなく。
「計算高いアホ説やめてください! それ間違いでしたから!」
かくかくしかじか。
なるべくプライバシーに触れないように配慮してことの経緯を説明する。
アニさんは、
『うげえ……』
本心から引いてるみたいだった。
『痛てぇ……おまえそれアニメ見すぎ。童貞の妄想激しすぎるわ病院行け』
「これマジなんすけど」
もう俺が童貞なのか素人童貞(アニさん+1名)なのかはどうでもいい。
『やめとけって』
口調が変わった。
『それがマジだとして、おまえに何が出来んの?
その女に昔の男忘れさせられるほどの甲斐性なんてないだろ?』
「そりゃあ……けど俺は……」
『俺は?』
「アスカが好きだ」
アニさんは、きっも、と言っていた。
『あー、じゃあもうそれでいいんじゃねーの?』
「はい?」
『なんもできないより、好きでいられるだけましだろ。もういいか? どうせあたしが何言っても聞かんだろ、おまえ』
「はい!」
達者でな、とアニさんは電話を切った。
俺は何故だか凄まじい死亡フラグを立ててしまった気がしたが、
構わず信号と制限速度を無視して車を走らせた。