康平くんは俺を弟みたいに可愛がってくれていて、大抵の悪いことや中学校のサボりスポットなど全部康平くんから教わった。
兄貴があまり涼太に変なこと教えるなって言うくらい、康平くんはなんでも知ってるし面白い先輩だった。
そんな康平くんからの改まった呼び出しに若干不安になりながら家に行くと、珍しく康平くんが出迎えてくれた。
いつもなら勝手に上がって来い。ついでに冷蔵庫から飲み物とって来い。ぐらいのこと言うくせに、優しい態度の康平くんが正直気持ち悪かった。
康平「わざわざ呼び出してごめんな。涼太今日部活だっただろ」
土曜日に呼び出しされたので、俺は部活の休日練が終わってそのまま駆けつけた。
俺「あっ、部活でしたけど大丈夫っす!」
康平「なんだよ敬語使って気持ち悪いな。小学生の頃は俺を呼び捨てするくらい調子乗ってたくせに!」
そう言って笑い合うと、しばらく部活の話をした。練習内容が前と変わったことや、試合の結果。顧問の愚痴やメンバーのことなど先輩である康平くんに色々聞いてもらった。
そのすべてを康平くんは聞いてくれて、本当に頼れる兄貴って感じだった。
話をして1時間経った頃。ようやく話が落ち着き、俺は康平くんに気になっていたことを聞いた。
俺「なんで今日、康平くんって俺を家に呼んだの?」
すっかり昔通りのタメ口に戻っていた。が、その問いに対して康平くんは真剣な表情になった。
康平「実は、歩美ちゃんのこと。涼太にちゃんと聞きたかったんだ」
それを聞いて、俺は逃げ出したくなった。
確かに歩美と兄貴が付き合ってることは康平くんも知っている。でも、俺が歩美を好きなことは知らないはずだ。
俺「誰に聞いたの?って、兄貴しかいないか」
康平「うん、健太から聞いた。俺だとちゃんと本音言えないだろうから聞いてやって欲しいった頼まれたんだ」
康平くんの面倒見の良い性格とハッキリ言うところは尊敬するし、隠されたりはぐらかされるよりマシだ。
でも、今回ばかりは康平くんに関与されるのが嫌だった。
俺「別に。俺は話す気ないから」
康平「ならいいよ、俺の話だけ聞いて帰れ」
超B型の自分勝手な康平くんらしい返事だった。自己中心的なところは相変わらずで、俺も黙って聞くことにした。
康平「まず最初に言わせてもらうけど、涼太は健太と自分を比べ過ぎだ。お前は健太じゃねえし、性格も全く違うだろ。それなのに、健太みたいになろうとするな」
俺「……」
康平「年も近いし同じサッカーやっててしかもポジション同じだから、比べたくなるのも分かる。でも、お前の場合少し違うだろ?健太になろうとするな」
何を言ってるのか分からない。なんて、そんな逃げるみたいなこと言えなかった。
康平くんの言うこと全部が当たっていたから、言い返せなかったのだ。
康平「誰かお前に健太みたいになれって言ったか?言ってないだろ。勝手にお前がライバル視して健太を追いかけてるだけだ。そういうの、ブラコンって言うんだぞ?」
俺「…うるさい」
弱々しい反論に、康平くんは笑った。でもバカにした感じゃなくて俺を哀れんでいるみたいだった。
康平「だからこそ、俺は言わせてもらうな。違ったらごめん。そのときは謝る。お前は、本当に歩美ちゃんが好きなのか?」
俺「はっ?」
康平「もう一度聞く。歩美ちゃんが好きか?」
質問の意味が分からない。好きだ、好きに決まっている。俺は歩美を好きだからこんなに苦しいんだ。じゃなきゃおかしいだろ。
康平「お前が歩美ちゃんを欲しいと思ったのは、何でも持ってる健太から何か一つでも奪いたかったんじゃないのか?」
俺「……」
康平「涼太、お前の歩美ちゃんへの恋心って、年上に対する憧れとは違うのか?」
うつむいていた俺の頭の上に康平くんは手を乗せると、そのままぐりぐりと撫で回して来た。
康平「頑張ったな、涼太。健太ばかりいつも褒められるし好かれるし。あいつ完璧主義だよな、むかつくよな!でも、涼太が気づかないだけで、お前だって良いところいっぱいあるんだぞ」
心の中が、ストンって軽くなる感じがした。今まで叶わない恋だの愛だのって騒いでいたのが嘘みたいに、消えて行くみたいだった。
ああ、そうか。俺は兄貴を尊敬するのと同時に、兄貴になれない自分に失望していたんだ。
俺「俺、兄貴みたいになりたかったんだ。ずっと、兄貴になりたかった。歩美が俺のモノなったら、俺も兄貴になれる気がした」
康平「それは間違いだな。最初は純粋に好きだったのかも知れない。でも、途中からお前は意地になってたんだろ?頑固な涼太らしいな」
歩美への恋は恋じゃなく憧れだった。自分の気持ちに気づけないほど、俺は歩美と兄貴に執着していたのだ。
康平「実はお前に言ってなかったけど、健太今回の件で珍しく焦ってたんだぞ?」
俺「えっ?」
康平「もしかしたら、涼太に歩美を取られるかも知れないってこの前相談して来た。お前はどう思うかわかんないけど、それって健太がお前を一人の男として認めてるってことだ」
そんなところ俺には見せなかったし、兄貴は余裕ぶっていたはずだ。でも、本当は俺が歩美を奪うかもと気が気じゃなかったらしい。
自分の本当の気持ちが分かった今、俺はもう一度ちゃんと兄貴と歩美に会いたかった。
康平くんにお礼を言ってすぐ帰ると、歩美がいた…なんて、上手い展開はなく、兄貴が部活を終えて帰って来ていた。
俺「兄貴、今康平くんの家で話して来た。正直、勝手なことするなって思った」
兄貴「悪かった。でも、どうせお前本当に言いたいこと俺には言わないだろ。だから康平に頼んだんだ」
俺「それも聞いた。あのさ、ごめんな。今までずっと。俺が歩美を好きだと思っていたのは、多分違ってた。憧れだった」
引き込まれる
兄貴は俺のその言葉に驚いていた。
兄貴「えっ?康平と何話したの?」
俺「いろいろ」
兄貴「なんだよそれ、凄い気になる。でも、よかった。これで涼太にも俺と歩美を認めてもらえるな」
俺「うん、そうだな」
それから次に歩美が家に来たのはクリスマスだった。俺の家で歩美の家族も呼んでクリスマス会をしたのだ。
歩美の両親と俺の両親は意気投合していたし、酔っ払って両親達は2人の結婚がどーのこーのって盛り上がっていた。
兄貴達は恥ずかしそうにしていたな。
クリスマスのとき、歩美が俺に手紙をくれたんだがそれは今でも大切にしてある。全文は載せないでおくが、そこにはこう書かれていた。
「涼太の彼女にはなれないけど、健太を通して家族になりたいです」と。
凄く良い子そう。
これで俺の話は終わりです。長くなったし書き溜めないのに書いてごめんな。読んでくれて本当にありがとう。
ここからは後日談といきます。
まあ、スレタイで分かると思うがもしも歩美を兄貴から奪えていたら「兄貴から彼女を奪った話」とかにしていた。
現実ってのはそう簡単に行かないし、俺も高校生になったときは色々考えさせられたな。
中学生相手に、付き合えるわけなかったんだよ。あれは恋愛対象外だ。
そんなガキの俺に真剣に向き合ってくれた歩美や兄貴、奈津。傷つけてしまった水口にも本当に感謝している。
康平くんには特に感謝しているし、あの時話をして救われた。
全員の進路だが、奈津は兄貴や歩美と同じ高校に進学した。確か水口は女子校だったと思う。
兄貴とは三歳差だから、同じく大学に進学したが歩美は頭が良いのに美容師になりたかったらしく専門に行った。兄貴は普通の四年生に行った。
今回、なぜこの話を書こうと思ったのか。まあ、当たり前だがきっかけがあった。
実は去年、俺と歩美は本当に兄貴を通して家族になった。そして、今年の冬に第一子が生まれる。
その連絡が一週間前くらいに来て、思わず兄貴達の家に行って祝いだー!って酒飲んだんだ。ちなみに歩美は飲んでないぞ。
で、懐かしい話になってこのときのことを笑って「そんなこともあったな」って話したんだ。
思い出話として話せるくらいに時間が経ってしまった。兄貴と歩美に子供ができるし、俺も年をとるわけだ。
兄貴は就活のときに一発で本命に受かった強者だ。2人は大学と専門学校生の頃に同棲をし出したんだが、就職先が決まってすぐ23歳で結婚した。
つまり俺は現在21歳。大学生で今日もバイト頑張ってきてそのまま寝ないで書きました。
何度か質問も来ていたが、奈津とは高校と大学が違うが今も連絡はとっているしたまに飲みに行く。俺達が幹事で合コンやったことも二回くらいあるかな。
奈津には大学の先輩で今は社会人の彼氏がいるらしく、一応俺にも高校から付き合っている彼女がいる。
兄貴達みたいに…とは言えないが、まあそこそこ仲良くやっているし結婚の話もチラホラと出ているかな。
お幸せにね
リア充め
幸せになってくれ