女『今歩いているこの道が、いつか懐かしくなるのかな』

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1:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2018/10/11(木) 03:07:52.610ID:xjHKc6SCa.net
男「うっし、引越しの荷物はこれで全部だな」

男「あー腰いてえ」

男「あとは…これだけ書斎に持ち込んでおくか」グイ

……

男「っと」ドサ

カチャン

男「ん? なんだこれ」

男「カセットテープ?」

4:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2018/10/11(木) 03:12:05.761ID:8y3a+Cnxa.net
【20××.3.20 17:00】

男「1年くらい前のテープか」

男「前に住んでた人の忘れものかなんかかな」

男「かけてみるか」

ガチャリ

男「再生……と」カチカチ

ザ……ザー……

女『あー、あー』

女『聞こえますか?』

男「ん?」

5:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2018/10/11(木) 03:13:00.319ID:8y3a+Cnxa.net
女『えーこんにちは』

男「はあ」

女『今日、この家に引っ越してきたものです』

女『新しい生活にわくわくしています』

男「なんだ、自分語りか。くだらねえ……」

女『あなたに聞いてもらいたくて、このカセットテープに吹き込んでいます』

男「え」

女『一人きり、新しい生活』

女『ペットも飼えないし、寂しいし』

6:VIP哀戦士: 2018/10/11(木) 03:13:13.522ID:zA+rVDU30.net
期待

8:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2018/10/11(木) 03:14:09.154ID:8y3a+Cnxa.net
女『あ、このテープは、私のさらに前の人のものみたいです』

男「あん?」

女『なんかミュージシャンの人だったみたいで、録音装置とかカセットが山ほど残ってて』

女『だから有効利用してみようかな、と思いまして』

男「はは、ヒマなやつだな」

女『次の入居者さんに向けて、私のお喋りを録音します』

女『これから毎日、一本ずつ録音していきたいと思います』

男「おいおい」

女『だってめちゃくちゃいっぱいあるんだもん、テープ』

9:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2018/10/11(木) 03:15:16.967ID:8y3a+Cnxa.net
女『この書斎を私の生活スペースにしようかな、と思います』

女『ここなら録音も読書もできるし、音楽も聞けるし』

男「ん、確かにいい部屋だな」

女『窓も大きいし』

男「……防音じゃねえのかな」

男「窓がある録音室ってどうなんだ」

女『このテープ、片面10分なんで、一日10分だけのお喋り』

女『B面は使いません』

男「お喋りって言っても……おれの声は聞こえないだろうよ」

10:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2018/10/11(木) 03:16:24.023ID:8y3a+Cnxa.net
女『という訳で、明日も聞いてくれますか?』

男「……」

女『……聞いてくれたら、いいな』

男「……」

女『あ、これを1年後の同じ日に聞いてるとは限らないですよね』

男「うん」

男「今日は……3月24日だし」

女『今日の分まで、一気に聞いちゃってください』

女『それで、次の日から一日一本!!』

男「栄養ドリンクみたいだな」

女『どうでしょう?』

男「どうでしょうって言われても」

女『先のテープは、まだ聞いちゃダメですからね!!』

11:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2018/10/11(木) 03:17:28.650ID:8y3a+Cnxa.net
女『それじゃあ、また明日』

ガチャリ

男「……」

男「10分ってあっという間なんだな」

男「ま、することもないし、次のやつ聞いてやるか」

【20××.3.21 17:00】

女『えっと、昨日と同じ時間に録音してみました』

女『これを聞いてくれてるってことは、私のお喋り、聞いてくれる気になったんですね』

男「……」

女『うれしい!!』

男「……はは、お気楽な子だな」

12:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2018/10/11(木) 03:18:28.732ID:8y3a+Cnxa.net
女『私、この春から異動してきたんですよ』

男「移動?」

女『まだ新米だから勉強も必要だって言われて』

女『町の広告代理店に、明後日から出勤なんです』

男「ああ、『異動』か」

女『楽しみなような、不安なような……』

女『でもここになら、不安をぶちまけることができそうだし、ちょっとこのテープ、頼りにしてます』

男「おれは一方的にぶちまけられるだけかい」

女『あなたの悩みも、時々聞きますよ♪』

男「聞こえねーだろ」

13:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2018/10/11(木) 03:19:50.531ID:8y3a+Cnxa.net
女『ここ、すっごく交通に不便ですよね』

女『なにしろ町までバイクで30分!!』

男「じゃあなんでここ選んだんだよ」

女『伯父の紹介で、すごく安かったんですよ』

男「お」

女『まだ貯金も全然ないし、安さに勝る優先条件はないですよね』

男「なんか、今、会話みたいになったな」

女『だからここに決めたんです』

男「ちょっと面白いかも、な」

17:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2018/10/11(木) 03:25:25.912ID:8y3a+Cnxa.net
女『とりあえずは1年ちょいの契約』

女『こっちの会社での研修期間も1年なんです』

男「短いな、研修」

女『早く研修終わって、一人前になりたいけど』

女『この家に1年しかいないっていうのはもったいない気がします』

男「だよな」

女『でも次の入居者さんももう決まってるっていうし、仕方ないですね』

男「ん? それっておれのことかな」

男「家決めたのって、いつだっけかなあ」

男「だいぶ前から目はつけてたけど……」

18:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2018/10/11(木) 03:26:16.112ID:8y3a+Cnxa.net
女『明日はちょっと町へ出てみようかと思います』

男「去年22日は、休みの日だっけ」

女『色々と買い物もしなくっちゃね』

男「おお、参考にしようかな」

女『あなたも引っ越してきたばかりなら、参考にしてくださいね』

男「はは、見透かされてんな」

女『それじゃあ今日はこの辺で』

男「……早いな」

女『おやすみなさい』

男「早いだろ」

ガチャリ

19:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2018/10/11(木) 03:27:18.050ID:8y3a+Cnxa.net
【20××.3.22 19:00】

女『今日はちょっとしたハプニングが』

男「おお、いきなりどうした」

女『町に着いた途端ガス欠になったんですよ』

男「あ、はは、遠いしなあ」

女『ガソリンスタンドを探すのに手間取って、あんまり満足にお買い物できませんでした』

男「あーあ」

女『ていうか、バイクって重いんですね』

男「ずっと押してるとそう思うよな」

男「乗ってるだけだと気づかないもんだ」

20:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2018/10/11(木) 03:28:24.069ID:8y3a+Cnxa.net
女『でも、良い発見もあったんです』

女『町への一本道、途中に桜並木道があるんですよ!!』

女『ちょっとだけ、咲き始めてましたよ!!』

女『満開がすっごい楽しみです!!』

男「へえー」

女『あなたも、満開の頃にぜひ見に行ってみてくださいね』

男「いいな、それ」

女『絶対ですよ!!』

男「はいはい」


22:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2018/10/11(木) 03:28:55.569ID:8y3a+Cnxa.net
女『あなたがどんな人なのか、興味があります』

男「お」

女『何歳くらいかな』

女『男の人かな、女の人かな』

女『どんなお仕事してるのかな』

女『ってね』

男「おれは……20代のしがない小説書きだよ」

女『当ててみましょうか』

男「はは、やってみな」

女『小説家の人でしょう』

男「!!」

23:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2018/10/11(木) 03:29:44.118ID:8y3a+Cnxa.net
女『はは、びっくりしましたか?』

男「う、うお、え」

男「嘘だろ」

女『なーんて』

男「は?」

女『当てずっぽうじゃないですよ』

女『不動産屋さんに、聞いてたんです、次に住む人のこと』

男「な、なんだ、驚いたわ、くそ」

24:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2018/10/11(木) 03:30:11.569ID:612wdZU0a.net
斉藤和義好き?

27:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2018/10/11(木) 03:33:52.358ID:8y3a+Cnxa.net
>>24
幸福な朝食、退屈な夕食からタイトル持ってきてます

29:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2018/10/11(木) 03:34:59.219ID:612wdZU0a.net
>>27
だよね
続き楽しみにしてる

25:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2018/10/11(木) 03:31:47.402ID:8y3a+Cnxa.net
女『まあ詳しいことはもちろん聞いてませんけどね』

男「プライバシーというものがあるからな」

女『いいな、私も小説好きなんです』

男「へえ、そりゃあいいことだ」

女『私の知ってる作家さんだったりして』

男「ないない、超無名だから」

男「ていうか去年の今頃だと一冊しか書いてないから」

女『想像すると楽しいですよね』

女『名前、言っちゃダメですよ』

男「言っても聞こえねーだろ」

28:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2018/10/11(木) 03:34:56.049ID:8y3a+Cnxa.net
女『じゃあ、今日はこの辺で』

男「おう」

女『あ、歳が近いってこともチラッと聞いたんで、明日から、敬語やめようと思います』

男「不動産屋の親父……口軽くねえ?」

女『なんか敬語だと、堅苦しくて……』

女『じゃあ、また明日』

男「ふぅ……やれやれ」

ガチャリ

男「あと2本か」

男「一気に聞いちまうかなあ」

30:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2018/10/11(木) 03:36:09.827ID:8y3a+Cnxa.net
【20××.3.23 20:00】

女『こんばんは』

男「はい、こんばんは」

男「こっちはまだ夕方ですが」

女『さっきお料理失敗して、家の中が焦げくさいの』

男「なにやってんだ」

女『いやあ、油断した』

男「なに作ってたんだよ」

女『ロールキャベツって、簡単だと思ってたんだけどなあ』

男「ロールキャベツ焦がせるって、それすごくね? 才能?」