窓ガラスに小さな手のひらのような跡が
2つ残っていた。
両親は外出していた。
俺はあわてて姉に電話をした。
昨夜のこと、
そしてさっき見た窓の手のひらの跡のことを
一気にまくし立てた。
黙って聞いていた姉は
搾り出すような声でこう言った。
「あんたに前に憑いていた女の子、
また戻ってきたかもしれんね。」
「えー!そんなことってあるんか?
だってお祓いしてもらったやんか!」
俺はあわてた。
「・・・うん・・・でも何かまた戻ってきたような気がするわ。」
「だったらネーちゃんさぁ、
またあの先生に頼んでくれよ。」
「・・・いや先生は・・・去年亡くなったんよ・・・」
俺はしばらく絶句した。
そのとき突然あることを俺はひらめいた。
この言葉が何か解決につながるんじゃないかと。
「ネーちゃん。
変なこと聞くけど
魚へんに右て書いて何て読む?」
「・・・あんた・・・大丈夫?
・・・父さんや母さん横におるん?
・・・大丈夫なん?
あんた・・・それともふざけとるん?」
「いやおらんけど・・・ふざけてもないよ・・・
で、何て読むんや?」
しばらくの沈黙の後、
姉は涙声になっていた。
「・・・あんた小さいころその質問いつもしとったね・・・
何で今またそんなこと聞くん?」
俺がその質問を小さいころしていたって?
「・・・何回も何回もあんたがしつこいくらい聞いてきて
私が『わからんっ!』言うたら
何日か後あんた何て言うたか覚えとる?」
「・・・」
「『魚に右って書いて・・・へび・・・て読むんや』て言うたんよ」
「・・・」
「そうあんたに言われた後、
母さんに『そんな字あるん?』て聞いたら
『そんな字ない、間違いや』て言われたわ。」
「・・・いや全然覚えてないんだけど・・・」
「母さんにそう言われて私あんたに聞いたんよ、
誰にそんな嘘を教わったかって」
「・・・」
「何か知らん女の子に教えてもらったってあんた言いよったわ・・・
ん?・・・もしかしたら?・・・あんた!・・・へび・・・女の子・・・」
その後の姉の言葉は覚えていない。
俺は絶望的な気分になり
窓ガラスの手のひらの跡に目をやった。
でもそこには手のひらの跡はもう消えていた。