市内中の花屋や農家を父親が車で回ってくれ
やっと白南天を手にすることができた。
あの女性オーナーの先生に言われたとおり
ベランダに白南天を置き、
毎朝家族で手を合わせた。
1週間後、
俺の咳はピタっとおさまった。
「いやーこんなことってあるんやな。
あれだけ色んな病院に行って直らんかった咳が直るんやからな。
不思議なこともあるもんやわ。」
日ごろ信仰心のかけらすらない父親も
さすがに驚いていた。
母親も涙を流して喜んだ。
その翌年俺も無事進学ができ上京、
大学卒業後東京で就職、
毎年盆正月には実家に帰省している。
俺の部屋も姉の部屋も
当時のままにしてくれている(姉は嫁に行ったけど)。
その後本日に至るまで喘息のようなものもなく
すっかりあの時のことを俺は忘れていた。
そして去年の夏のこと。
帰省中の俺は高校時代の友達と飲みに行き
結構酔っ払って実家の自分のベッドに倒れこんだ。
そのとき酔いの中で
なぜか数年前のあの女の子のいた公園の情景が
頭の中に浮かんだ。
その瞬間、窓ガラスに
「バンッ!」
という音がした。
びっくりして窓ガラスの方に顔を向けると、
小さな両手のひらが張り付いていた。
『うわー!』
俺はマジでびびり
タオルケットを頭から被った。
しばらく布団の中で震えていたが、
思い切ってタオルケットから顔を出し窓を見た。
手のひらはもうなかった。
それでも怖くて
もう一度タオルケットを頭から被った。
翌朝、
目が覚めたときはもう昼に近かった。
ベッドに横たわったまま
『昨夜の子供の手、
ありゃ夢だったのかな』
俺はそう思った。
いやそう思おうとした。
そして立ち上がり、
窓ガラスに近づいた。
そしてそれを見た俺は
夏にもかかわらず寒気がした。
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