「……いざとなれば、私が……」
「でも課長、先日お子さんが私立の中学校に入学したばかりじゃないですか……」
「……野原、家庭の事情は、人それぞれだ。誰も辞めたくないに決まってる。それでもな、誰かを選ばないといけない。それならば、いっそ……」
課長は、語尾を弱める。覚悟と迷い……その両方が、課長の中に混在しているようだ。
――そうだ。誰でも、家庭がある。日常がある。その誰かが辞めなければならないなら……それなら……
「……課長……」
「……?」
「……オラが、辞めます」
「な、何を言ってるんだ野原!」
「誰か辞めないといけないなら、オラが辞めます。オラは、まだ結婚していませんし」
「し、しかし!妹さんがいるだろう!?」
「妹は働いていますし、何とかなりますよ。それに、オラまだ若いので、次の仕事も見つけやすいですよ」
「……だ、だが……!!」
「――課長、ここは、オラにカッコつけさせてくださいよ」
「……」
「……」
課長は一度オラの顔を見て、もう一度項垂れた。そして……
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