「……すまない、野原……すまない……」
課長の声は、震えていた。
オラは分かってる。一番辛いのは、誰かを選ばなければならない課長自身であることを……
だからオラは、あえて笑顔で答えた。
「……いいんですよ、課長。これまで、お世話になりました―――」
課長は、何も答えなかった。
誰もいない廊下には、課長の涙をこらえる声が聞こえていた。
そしてオラは、無職になった――――
「――あれ?」
仕事を出る前のひまわりが、オラの様子を見て疑問符を投げかける。
「お兄ちゃん、今日はかなりゆっくりだね。まだスーツじゃないなんて……」
「え?あ、ああ……すぐ着替えるよ。――それより、急がないとまた遅刻するぞ?」
「――あ!うん!」
ひまわりは食パンを片手に、玄関を飛び出していった。
彼女を見送った後で、オラは仏壇の前に座る。
「……父ちゃん、母ちゃん。オラ、会社辞めちゃったよ。小さい頃、父ちゃんにリストラリストラって冗談で言ってたけど、実際そうなると笑えないね」
仏壇に向け、苦笑いが零れた。
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