夢で出会った子に恋をした人間の末路・・・

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108:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2016/07/21(木) 21:09:41.28ID:H4YwPAh0.net
そんなの……そんなの、その通りじゃないか。
そうだ、スズハがいないセカイなんて俺には必要ない。
俺に必要なのはスズハだけだ。

109:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2016/07/21(木) 21:10:13.66ID:H4YwPAh0.net
だったら……
「ああ、わかった。夢を買いたいんだ、買わせてくれ」
「……わかりました。……それでは代価として現実をいただきます」
「現実?」
「……ええ、現実です。……夢を売る代わりに、あなたがいま生きている現実を私が貰います。……あなたはもう現実には戻れません。……それでもいいですか?」
返事はすぐに出た。
「ああ、それでいい。それでいいから、夢をくれ」
スズハがいればそれでよかった。

110:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2016/07/21(木) 21:10:31.56ID:H4YwPAh0.net
「……わかりました。……それでは良い夢を」

111:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2016/07/21(木) 21:10:54.07ID:H4YwPAh0.net

「違う! ……違う、俺は……俺は知らない」
こんな記憶は俺のものじゃない。
潤んで歪んだ視界の中でも、先生はよどみなく話す。
「今ならまだ間に合うんだ、今ならまだ現実を取り戻せる」
「そんなのいらない! 俺にはスズハがいればいいんだ」
そうだ、スズハさえいれば、他には何もいらない。

112:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2016/07/21(木) 21:12:04.86ID:H4YwPAh0.net
「それじゃダメなんだよ。なあ、なんで俺がユメミヤとお前のことを知っていると思う? ここは夢の中だ、夢の中ってことはお前の本心が出るってことだ。
つまり、本当はお前だって気づいてるんだ、このままじゃダメだって。だから俺が、お前が創り出した俺が、お前を現実に引き戻そうとしているんだ」

113:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2016/07/21(木) 21:12:43.74ID:H4YwPAh0.net
「わかってるよ! そんなこと俺だってわかってる。でも、スズハがいない世界のことを考えるだけで、俺は……」
「それでも、夢の中じゃ意味ないだろ?」
先生はいつの間にか俺と同じ姿になっていた。
顔も身長も服装まで全部。
自分と同じ姿のやつからでた言葉はきっと俺の本心で、俺は自分に嘘をつくわけにはいかなかった。

114:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2016/07/21(木) 21:14:17.15ID:ykLL93O3.net
「わかったみたいだな、自分の気持ちが」
先生――いや『俺』はそう言った。
「じゃあ、本当のことを教えてやるよ」
もう、見た目も声も何もかもが俺と同じになった『俺』が言う。
「よく思い出せ、この夢に入ってから何か、俺の思い通りになったことがあったか? 俺の思ったようにセカイが動いたことがあったか?『俺』は俺が創った、たった一つのイレギュラーだ。つまり、わかるだろ?」

115:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2016/07/21(木) 21:14:49.00ID:ykLL93O3.net
『俺』が言ってることなんだ、俺にはわかる、わかるに決まってる。
まったく、今までいったい何を悩んでたんだろうな。
悩む必要なんかなかったんだ。
最初から俺には悩む権利なんてなかった。

116:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2016/07/21(木) 21:16:33.31ID:ykLL93O3.net
「そしてこれが最後の言葉、いふ ゆー うぉんとぅ とぅ びー はっぴー びー、だ。こっちも意味はわかるな?」
俺は頷く。
「ならいい。うまくやれよ、俺」
そう言って『俺』は消えた。

117:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2016/07/21(木) 21:17:07.35ID:ykLL93O3.net
ああ、うまくやる。誓う。
だから俺は行かなきゃいけない、夢から覚めるために。

118:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2016/07/21(木) 21:17:31.85ID:ykLL93O3.net

「あれ、どうしたの? わすれもの?」
ドアを開けて出てきたスズハはやっぱりかわいくて、俺はそんなスズハが大好きで、だからやっぱり俺は言わなきゃいけない。


119:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2016/07/21(木) 21:17:55.37ID:ykLL93O3.net
「起こしにきた」
キョトンとした顔のスズハに俺は続ける。
「ほら、いつもスズハに起こしてもらってるからさ、たまには俺が起こさなきゃなと思って」
「なに言ってるの? 私は起きてるよ?」

120:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2016/07/21(木) 21:18:12.42ID:ykLL93O3.net
たぶんスズハは全部理解したんだと思う。
俺にはわかる。だって、さっきまでの俺の顔とまったく一緒だからさ。

121:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2016/07/21(木) 21:18:36.91ID:ykLL93O3.net
「考えてみたらさ、おかしいんだよ。夢の中なのにさ、全然俺の思い通りにならないんだ。学校を近くしたのも、あったかくしたのも、花火を打ち上げたのも全部俺じゃなくてスズハだった。この夢の主人は俺じゃなくてスズハだ」

122:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2016/07/21(木) 21:18:58.25ID:ykLL93O3.net
「ねえ、なに言ってるの。やめてよ、なに夢って? これは夢じゃないよ、一緒にプール入ったじゃん、花火したじゃん、海行ったじゃん……好きって……私のこと好きって言ったじゃん」

123:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2016/07/21(木) 21:21:25.96ID:ykLL93O3.net
「それでも、これは夢なんだ。俺はスズハの夢にユメミヤによって入れられた。そうだろ? なあ、いるんだろ? 出てこいよユメミヤ」

124:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2016/07/21(木) 21:24:12.01ID:ykLL93O3.net
「……どうも」
闇夜から現れたユメミヤは、いままでで一番不気味に感じられた。

126:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2016/07/21(木) 21:24:42.05ID:ykLL93O3.net
「返して欲しいんだ、俺たちの現実を」
強い決意を持って、俺はユメミヤに向かって言った。
「待って! ……待ってよ。いいじゃん別に夢でも。楽しかったでしょ? だったら……」
スズハの顔はとても悲しそうで、そんな顔にさせてしまったのは俺なんだと思うと辛かった。
それでも俺は、今後スズハをこんな顔にさせないために言わなきゃいけない。

127:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2016/07/21(木) 21:25:08.43ID:ykLL93O3.net
「それじゃダメなんだ、冬は寒くて、休日は二日だけですごい都合が悪い、だけど、そんな都合の悪い世界が真実なんだ。俺はそこにスズハと一緒に行きたい。一緒に過ごしたい。現実に戻ったら、必ずスズハに会いに行く。絶対に見つけ出す。だから、一緒に戻ろう。現実に」

128:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2016/07/21(木) 21:25:29.59ID:ykLL93O3.net
スズハは泣いた。泣いて、泣いて、そしてそのあと小さな声で「……うん」と言ってくれた。

129:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2016/07/21(木) 21:26:01.93ID:ykLL93O3.net
「……話はつきましたか?」
ずっと黙っていたユメミヤが声を出した。
「ああ、俺たちは現実に戻る」
「……わかりました。……返しましょう、現実を」
ユメミヤはやけにあっさり、現実を返すことを了承した。

130:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2016/07/21(木) 21:26:35.44ID:ykLL93O3.net
「……では、目をつむってください」
俺もスズハもそれに従う。
「……それでは、よい目覚めを」
意識が浮くような感覚がして、朦朧としてきた。
きっとこれが夢から覚めるってことなんだろう。
俺は絶対にスズハに会いに行く、もう一度そう誓った。

131:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2016/07/21(木) 21:28:07.16ID:ykLL93O3.net
薄れゆく意識の中で「ごめんね」という声がかすかに聞こえた。

132:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2016/07/21(木) 21:28:47.25ID:ykLL93O3.net

知ってた。
わかってた、こうなるって。

夢から覚めたときはいつも暗い気持ちになる。
わかってたよ、夢を見るから失うんだって。

133:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2016/07/21(木) 21:29:04.48ID:ykLL93O3.net
「鈴葉、どこいくの?」
母親の声が聞こえる。
それを無視して私は家を出た。