両親の離婚&怪我で部活人生終了➡︎絶望していた俺にやってきた忘れられない夏

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29:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/10/29(木) 01:54:15.06ID:sYzRLdDP0.net
それからは毎日夢で見てうなされるほどになった。
白光がふりそそぐ体育館のオレンジコートの中で、セッターのイイダ(チームメイトだった)が
いい感じにふわっと浮かせたボールを、
誰よりも高く飛んで、打ち下ろす。

瞬間、一際大きな歓声を一身に浴びて、コートの中を走り回って…
そんな夢だ。
目が覚めるととてつもない虚無感に襲われ、泣きそうになった。

30:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/10/29(木) 01:55:48.06ID:sYzRLdDP0.net
3年になった頃、元々部活には消極的で、
難関大への進学を望んでいた義父の影響もあり、
俺は大学進学を目指して、身を粉にして受験勉強に向かった。

母さんも「きっとそれがいい」と言っていた。

31:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/10/29(木) 01:57:42.74ID:sYzRLdDP0.net
いざ受験勉強を始めてみると、
俺が今までずっとバレーボールを続けてきたことなんて嘘のようで、
何もかも最初からなかったんじゃないのか、と感じた。

初めて綺麗にサーブカットを上げられたあの時の達成感も、
先輩たちに囲まれて初めて公式戦に出たあの時の緊張感も、
みんなで組んだ円陣も、スクイズボトルの冷たさも、負けて流した悔し涙も、

全部全部、夢だったんじゃないのか?
と、そんな風に感じてしまった。

32:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/10/29(木) 01:59:22.69ID:sYzRLdDP0.net
そんな時俺は、部屋の片隅にあった煤けたバレーボールを見ては、
「俺は確かにあそこにいたんだ。大丈夫」と自分を鼓舞した。

「バレーがしたい」「仲間と一緒に飛び跳ねたい」
そんな想いと必死に闘いながら、俺は1年間受験勉強に食らいついた。

33:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/10/29(木) 02:00:33.93ID:sYzRLdDP0.net
ただ、結果は残酷なもので、志望校に合格することはできなかった。
色んなものを犠牲にして臨んだ受験だったはずなのに、俺の努力は実らなかった。
義父は考える間もなく、「浪人にしろ」と俺にすすめた。

何もかも上手くいかない現実に、俺は本当に荒れそうになったが、
「車の免許だけはとらせて欲しい」という俺の希望を義父が飲んでくれたので、
俺はなんとか浪人して勉強しようという気になれたのだった。

34:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/10/29(木) 02:02:05.43ID:sYzRLdDP0.net
義父のすすめで、俺は新宿の某予備校に通うこととなった。
浪人中は、本当に辛かった。
どうして俺はこんなところで、やりたくもない勉強をしているんだろうか?
何のために?自分のため?将来のため?

本当は俺は、今頃大学で大好きだったバレーをやっているはずだった…
浪人しても、バレーへの未練はまったく消えていなかった。


35:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/10/29(木) 02:06:01.04ID:sYzRLdDP0.net
中学生の時からずっと思い描いていた夢。理想の自分。
その夢と現実とのギャップは、19歳の俺を苦しめるには、十分すぎるものだった。

今思えば、少し甘えていたような気もするが、
夢を失うっていうのは、本当に「つらい」の一言では片付けられない。

浪人して、夏が過ぎ、秋が終わり、あっという間に冬が来た。
さすがの俺も「今度こそは」と思っていた1月のこと。
センター試験を一週間後に控え、世の中は受験に関係ない人達でさえも、
なんとなく「受験ムード」に包まれ始める。

37:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2015/10/29(木) 02:09:19.16ID:CsHWhoUp0.net
去年のこと思い出した、私も志望校は行けなかったけど

38:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/10/29(木) 02:09:31.22ID:sYzRLdDP0.net
そんな折、俺の家の近所の体育館で「あれ」をやっているという事を耳にする。
春高バレーの決勝だった。
俺がずっとずっと追い求めていた、夢の舞台。

その年は、なぜだか知らないが埼玉の片田舎の体育館で春高の決勝が行われており、
俺の家からすぐに行ける場所だった。
俺は行こうか行かまいか、心底悩んだ。

39:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/10/29(木) 02:11:27.12ID:sYzRLdDP0.net
センター試験は一週間後。
世間の受験生は今頃死ぬほど追い込みをかけている…
それまで受験のために、バレー関係の事は全て意図的に避けていたのだが…

もう、自分の気持ちに嘘はつけなかった。
俺の見れなかった夢舞台、見に行こうじゃないか!

内心、罪悪感や焦る気持ちもあったが、
久しぶりに「あの空気」を感じられると思うと、嘘のようにワクワクしている自分がいた。

40:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2015/10/29(木) 02:11:55.67ID:CsHWhoUp0.net
文才あるね、読みやすいわ
続けて

56:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/10/29(木) 22:45:49.95ID:wtNnxcQB0.net
体育館に着いてみると、中は満員だった。
中学の時にも一度春高の決勝は見に行ったことがあったが、
その時以上に混んでいた。

注目の対戦カードは、S高校-O高校。
注目の大エース擁する優勝候補のSと、変幻自在のOがどんな戦いをするのか。

俺はこの決勝に、本当にワクワクしていた。
応援の歓声も、会場の熱気も、とても真冬とは思えない。
ああ、これだ!この感覚!と笑顔になるのを抑えきれなかった。

57:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/10/29(木) 22:57:49.28ID:wtNnxcQB0.net
試合はやはりS高有利に進んでいく。
両者の高校も、バシン!と決めて一点入るたびに、
ワッ!と歓声が起きて、「ドドドドドン!」と応援の地響きが湧き上がる。

俺も一緒に「オッケーー!」と叫んでしまう。
大エースを率いるS高に世間の注目が集まる中、俺は近くにいた高校生の会話が耳に入った。

「O高のレフトエース、身長175ないらしいよ」
「らしいねー。ほんと、どんだけ飛ぶんだって感じ」
「しかも2年生って、すごいよなぁ」

58:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/10/29(木) 23:02:19.96ID:wtNnxcQB0.net
俺はこの会話に耳を疑った。
確かにコートを見てみれば、
オレンジコートで躍動するその姿は、どの選手よりも小柄に見えた。

でも、誰よりも高く飛んで、その小柄な体で大きなブロックを打ち抜いていく。
それも、春高バレーの決勝の舞台で。

彼が決めるたびに、チームが沸き立つ。風が吹く。走り回る。
俺は、この時見たO高校のエースの姿が、目に焼き付いて離れない。

59:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2015/10/29(木) 23:12:10.53ID:Oji8U7gI0.net
挫折ってつらいよな

60:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/10/29(木) 23:12:41.09ID:wtNnxcQB0.net
それはまるで俺に、
「できないことなんて何もない。諦めなければ誰だって輝ける」
と言っているかのようだった。

試合も終盤に差し掛かれば、
1プレー1プレーに悲鳴のような歓声が湧き起こる。
最後はやっぱり、S高の大エースのサーブで決まり、S高校は優勝した。

62:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/10/29(木) 23:18:02.27ID:wtNnxcQB0.net
オレンジコートの真ん中で、感極まって抱き合うS高校に、
がっくりとうなだれ、コートの外に並んでそれを見つめるO高校。
まさに明と暗。しかし、負けてもなお表情を崩さず、凛と相手の栄誉を称えるように、
コートの外に佇むその姿は、美しささえあった。

俺は、強く憧れた。
優勝したS高校にも、散ってしまったがコートに沢山の風を吹かせたO高校にも。
俺は強く憧れ、もう戻れないバレーの日々を思い出した。

63:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/10/29(木) 23:20:26.99ID:wtNnxcQB0.net
俺もあんな風に飛んでみたかった。
どうして俺は…こんな腰にならなければ!
そんなことを思ってしまった。

憧れの舞台で輝いていた彼らを見て、キラキラした感情が込み上げた裏で、
何もできない自分に対する絶望の念が、心にずっしりとのしかかった。

高く高く舞い上がって躍動していたO高校のエースの姿が、
俺の心に刻み込まれて、離れなくなった。

64:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/10/29(木) 23:26:35.94ID:wtNnxcQB0.net
そして俺は、そんなバレーへの情念を忘れられないまま、
一週間後のセンター試験を迎え、案の定、失敗した。
その後の本試験も、そのまま上手くいかなかった。

自分でもバカだなって思う。
バレーを諦めて勉強に専念しているのに、その勉強すらおぼつかない。
俺は何にもなれない、なんて半端者なんだろうって、自分でも馬鹿らしかった。

そのまま義父に強く叱責を受けて、俺はそのまま2浪した。
自分の行く先も、将来も、何もかもが不透明なまま、
失った夢の幻影だけが心にずっしりと残って、
俺は再び浪人の一年を迎えたのだった。

65:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/10/30(金) 01:02:54.70ID:UNc5U78V0.net
義父も何かを感じ取ったのか、
さすがに新宿の予備校は負担が大きいだろうと言って、
2浪目からは、家の近所の予備校に通うこととなった。

だが俺の腐り加減は凄まじく、予備校に通うフリをして、
毎日公園に行ってぼーっとしたり、ゲーセンに一日中篭っていたりした。

66:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/10/30(金) 01:07:07.00ID:UNc5U78V0.net
時には、夜も友達の家に泊まると偽り、
秋葉のアニクラに行って朝まで騒いでいる、なんてこともあった。

バレーに夢中だった頃の自分なんてすっかり影を潜め、
もう本当に、ただの「ダメ人間」でしかなくなっていた。
それを自覚する度、昔の自分や、昔の仲間、美香のあの一言、そして、
春高のオレンジコートで羽ばたいていた、あの小さなエースの事を思い出した。

67:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/10/30(金) 01:10:39.85ID:UNc5U78V0.net
もう俺には何も出来ない。
あんな風に輝けることは、一生ない。
そんな気持ちだけが、いつも心にあった。

夏前になって、予備校に連絡を入れた義父によって、
俺が予備校をすっかりさぼっていることがバレて、本当にひどく怒られた。
そこで、義父から思いもよらない提案を受けた。

68:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/10/30(金) 01:19:45.66ID:UNc5U78V0.net
義父「お前は東京にいるから、勉強に散漫になるんだ」
義父「夏の間、田舎に行って勉強に集中してこい。俺の実家に泊まれるから」

それはまったく予期せぬことで、
俺はこの提案に驚いたが、自分でもちょうど東京から少し離れたいと思っていた。
全然知らないところに行って、少し何も考えない時間が欲しかった。
勉強するかは、別として。

69:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2015/10/30(金) 01:20:34.63ID:Ah5NM3RE0.net
いい義父さんで良かったな