女旅人「なにやら視線を感じる」→そこからゾッとする展開に・・・

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276 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 11:58:07.71 ID:fNXhvYIy0
宿屋「た、隊長殿! お言葉ですが何故このような糞野郎とセッk」
言わせねぇよ!と首元にナイフを突きつける。 このおっさんなんてこと言いやがる!
彼女はやれやれといった感じで「勘違いしないでいただきたい」と言った。
彼女「妙な噂を流してもらっては困るのだ。
私が酔った勢いで男との肉体関係をもってしまったなどという隊の沽券に関わるような事は特にな」
宿屋「は、ハイすみません、それにこんな男にゃそんな勇気も意気地もありませんでした!」
俺「あのなぁ」
その後、俺が町を出ることを旦那に告げると、一瞬寂しそうな顔を見せた。
宿屋「また泊まりに来い。 死ぬんじゃねえぞ」
俺「旦那もおっパブ行き過ぎて奥さんに殺されないようにな」
宿屋「テメェかぁぁあああああッ!!!」

278 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 11:59:38.36 ID:fNXhvYIy0
彼女「お前の気遣いには感謝するが、結局は一度戻らねばならない」
宿を出てからそう言った。
旅にはそれなりに準備が必要であるし、なにより彼女は騎士団五番隊隊長という
かなり高い地位の人物であるため、いろいろと片付けなければならないことがあるのだろう。
というか、そういう重要人物が急に席を離れることに上からの許可など下りるのだろうか。
そんな事を考えながら、俺は食料の調達に勤しんでいた。
旅の間に彼女が食べる量、好きな食べ物、苦手な食べ物は全て把握しているつもりだ。
なんせ一ヶ月彼女を見続けていた、彼女の食生活のことなら俺に任せろ。
それプラス、俺自身が食べる分も買う。 手に持つ袋はなかなかに重い。
こ、これが、二人分の食料の重さか……!

281 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 12:02:15.82 ID:fNXhvYIy0
待ち合わせをしていた町の東門に寄り掛かりながら、シャクシャクとリンゴを食べる。
彼女が来るのは夜か、下手したら明日……いや、もしかしたら外出の許可が下りないかもしれない。
心配事は多々あるが、それよりも俺は待ち合わせという行為そのものの方にこそ感じるものがあった。
そわそわというか、わくわくする。 どうした自分、ティーンエイジャーに戻ったつもりか。
日時計で言うところの午後二時過ぎ、思っていたよりかなり早く彼女は現れた。
その姿は去年ずっと追い続けていたときのそれと同じで、俺にとってはそれが最も馴染み深い服装である。
彼女「待たせたな」
俺「いや、俺も今ちょうど買い終わったところだから」
やったことはないがデートの待ち合わせみたいだな、と思った。
しかし今の彼女との関係は「依頼主」と「傭兵」なのである。
何故俺に頼んだのかという質問に対して、彼女は「目の前に居たお前が傭兵だったから」だと答えた。
結局のところ旅をするのは――傭兵であれば、誰でも、よかったのだ。

283 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 12:07:00.47 ID:43hYGA8j0
>何故俺に頼んだのかという質問に対して、彼女は「目の前に居たお前が傭兵だったから」だと答えた。
目の前に居た傭兵がお前だったじゃなくて、目の前に居たお前が傭兵だったってのが深いな

286 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 12:10:26.10 ID:fNXhvYIy0

私にとってボサボサの頭をした男が、他の男に比べて何か特別な存在である事には違いなかった。
私はその本心を、あいつに知られてしまうことを恐れた。 それが重荷となって、嫌われてしまうのを恐れた。
共に旅をしたいという願いを「依頼」と改めたのも、その依頼をそいつにした理由を単純に
「傭兵だったから」と言ったことも、本心を探られないようにするためだった。
「元敵兵」、「飲み仲間」、「傭兵と依頼主」、「旅の相方」
あいつとの仲を、これ以上は望まない。 そして崩したくもない。
――私は、私が思っていた以上に臆病者らしい。
そう思いながら、行きたくもない宮廷に足を踏み入れた。
さっさと用を終わらせて、待ち合わせの場所に急ごう。

287 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 12:12:11.94 ID:fNXhvYIy0
待ち合わせの東門に腰を預けてしゃがんでいる男を見つけた。
食べ終わったリンゴの芯を歯に咥え、カクカクとさせて遊んでいる。 待たせてしまったようだ。
私に気付くと立ち上がり、芯をその辺に吐き捨てる。
そして荷物からごそごそと何かを取り出し、私に放り投げた。
微妙にずれた位置に飛んだそれを受け取ってみると、リンゴだった。
……確かに私はリンゴには目が無いが、こいつに言った覚えはない。
けど、まぁ、有難く頂いておこう、うん。 一口齧る。 美味しい。
その様子を見ると男はにっこりと笑い、歩き始めた。
ボサボサ頭「じゃ、行こうか」

288 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 12:17:26.49 ID:fNXhvYIy0

さて、彼女との二人旅が始まってしまったわけだが。
彼女が共に旅をしたいと告げたときは「おおっもしや」と思ったけどそんなことはなかったぜ!
現在「元敵兵」、「酒飲み友達」、「依頼主と傭兵」と「旅の護衛」が俺と彼女の関係、
それ以上を期待してはいけないし、また俺はこれを維持していかなければならない。
どうしてだろうな、去年はあんなに望んでいた彼女との旅なのに嬉しい反面胃がキリキリする。
きっと俺は彼女との接し方が分からないのだ。 いつもあった間を埋める酒は、もう旅では使えない。
妄想で何度も何度も描いた彼女とのらぶらぶちゅっちゅハッピートラベルライフでは
何かのトラブルに巻き込まれピンチの彼女の前にこの俺が颯爽と現れるのが常であった。
しかしそんな超ご都合主義なToLOVEるは現実で起こるはずも無く俺の活躍の場は無い。
すなわち俺には今のポジションを維持するだけの自信はない!
俺は彼女を見るだけで楽しいが、彼女にも旅を楽しんでもらわないことには意味がないのだ!

290 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 12:24:54.28 ID:fNXhvYIy0
彼女は俺の右側、少し後ろを歩いた。
多分右目が潰れた俺に対する彼女の気遣いで それはまことに嬉しい事ではあるのだが、
しゃくしゃくとリンゴを齧る彼女の可愛い姿を視界の端ですら捉えることができなかった。 無念。
ぽりぽりと右頬を掻いていると、不意に「おい」と彼女が話しかけてきた。
振り向いてみると、彼女の手には眼帯が握られており、こちらに差し出していた。
彼女「陥没していては痛々しくて見てられん。 隠しておけ」
oi おい これはあれか彼女からのプレゼントと見てよろしいか! 紀伊店のか!
そしてごそごそと荷物を弄った音がしなかったことから彼女のポケットに入っていたと推測できる。
彼女と密着状態にあった布だと。 素晴らしいこれはクンカクンカする他ない!
否そんな姿を晒すなど紳士としては恥ずべきだ。 ここは――
目に装着するとき鼻の前を通り過ぎる瞬間に、こっそりと匂いいや香りを嗅ぐべきであろう。

291 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 12:28:53.62 ID:fNXhvYIy0
俺「ありがとう死ぬほど嬉しいです」
彼女「死ぬほどってな……ま、まぁ喜んでくれたみたいで何よりだ」
俺「でもどうだろう、ガラ悪そうに見えないかねこれは。 盗賊みたいに」
彼女「間抜け面に締りが出たし丁度良いんじゃないか」
俺「間抜けって……そんな風に思われてたのか」
彼女「間抜けで優柔不断だな」
俺「否定も肯定もできんとは!」
これは友人としての会話なのだろうが、やはり彼女とのそれは楽しかった。
眼帯というプレゼントも貰ったしもう人生の最盛期と言っても過言ではないだろう。

293 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 12:37:57.64 ID:fNXhvYIy0
出発が遅かったこともあるが、空はあっという間に暗くなってきた。
歩きながらせっせと拾った枝を組み、フリントで火種を作って火を育てる。
俺が塩漬け肉を切り分けて串に刺し ぢりぢりと焼いている間、彼女は小さな鍋でスープを作っていた。
「初日ぐらい贅沢してもいいだろう」とのこと。 かかかか彼女の手作り料理だよおい!!
食卓には肉の串焼き、小さなパン、酒、そして彼女手作りの豆と野草のスープが並んだ。
酒を掲げ、乾杯。 ジョッキやグラス同士がぶつかる爽快な音ではなく、
動物の胃袋に入った酒がボチョンと揺れる音しかしなかったが、まぁそんなものは味に関係ない。
スープをまず一口、飲む。 間を入れずに二口目、三口目と口に運ぶ。
なんという美味さだ! かつてこれほどまでに美味いスープを飲んだことがあっただろうか!
豆に合った絶妙な調味料の加減、加えられたバターによるまろやかさ、
そして何より目の前で彼女が作ったという事実が俺の頬を削げ落とした。 今なら死んでも良い。

295 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 12:43:08.33 ID:fNXhvYIy0

渡した眼帯に喜んでくれたようだった。 医務室には義眼もあったが、
髪がボサボサで髭も毎日どこかしら剃り残しがあるズボラな男にそれが合うとは思えなかった。
正直、眼帯も似合ってはいなかった。 と言うより、あいつという男のイメージに合わなかった。
まぁきっとすぐに慣れると思うし、ずっと窪んでいるのを見せつけられるよりはマシだろう。
旅の初日だということで、景気付けにマメのスープを作ってみた。
軍行中 部下達によく振舞っていたものだが、こいつの口にも合ってくれたらしくペロリと食べてしまった。
そんなに喜んでくれるのなら、毎日でも作ってやりたい。 ……旅中は無理か。
夕食が終わり、私の腹は満たされた。 そして、心まで満たされた。
あいつが美味そうにスープを飲むのを見たからだろうか。

297 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 12:49:32.77 ID:fNXhvYIy0
私「去年も、一人で旅をしていたんだ」
ボサボサ頭「なんで?」
私「大した理由はない、ただぼーっとしたかったんだ。 尤も戦の準備ですぐ終わってしまったが」
ボサボサ頭「なるほどね」
私「それで、やはり単身では夜襲が心配で落ち着いて寝ていられなくてな。
今回も一人旅でも良かったんだが、それもあってお前に旅の同行を頼んだわけだ」
ボサボサ頭「それなら部下の誰かでも良かったんじゃ」
私「あいつらは信頼こそ出来るが、やはり上司と部下だからな。 堅苦しいだろう。
その点お前は傭兵でお互い気を使う必要もないし、私より腕が立つ。 ……信頼も、できる」
ボサボサ頭「え、……信頼、されてるんだ」
私「駄目か?」
ボサボサ頭「いやいや! そんなことは」

299 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 12:54:34.85 ID:fNXhvYIy0
ボサボサ頭「そ、それより……こんな急な旅、上が許してくれたのか?」
私「許可か。 書類ならすんなり通った」
ボサボサ頭「えっそうなの?」
私「……正直、廷内での私の評価はあまり良くない。
由緒正しき正規軍の隊長という地位に居座るには私は相応しくないと、そういう声が多い。
私が女だからか、若すぎるからか、平民――奴隷出身だからか、とにかく気に入らないと」
私「そんな中でも私が居られたのは武勲があったからだ。
武勲があったから――利用価値があったから、なんとかしがみ付いていられた」
私「だが半年前、連合軍との戦で勝利を収めた。 圧勝だった。
そんな勝ち方をしてしまったら、他の国もしばらくは不用意に手はだせなくなる」
私「戦がなくなる。 私は武勲を挙げられなくなる。
武勲を挙げられない私は軍に利益を与えない。 評価を下げる邪魔者でしかない」
私「せめてと思い鍛錬や事務仕事を頑張っても、それは副隊長にだってできる。
こんな立場のない私になんか、休暇や外出の許可が下りないわけがないだろう」

301 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 13:03:43.17 ID:fNXhvYIy0
私「……あ、す、すまん。 長くなってしまったな」
ボサボサ頭「いや……それはいいんだ、けど、騎士団を抜けようとは思わないのか?
そんなしがらみが嫌だったから旅をしようと思ったんだろ、それなら……」
私「……旅をしようと思った理由はそれだけでもない。
私は『駒』だ。 どこに行くも自由だが、いざと言う時の為に抜けることはできない」
私「それに私は副団長に恩義があるし、またあの人の下で働きたいとも思っている。
今では特に、私のことを信頼してくれている大切な部下も居るからな。 抜けられないさ」
男は眉を下げ、しばらく黙った後「そっか」と言った。
何故、私はこいつにこんな話をしてしまったのだろうか。 こんなことを聞いたって困るだけではないか。
こいつは本来、私とは全く関係のない――
ボサボサ頭「でも、じゃあ、この旅の間だけでもそういうの忘れて、一緒に楽しもう」
―― 一緒に楽しむ、か。 無関係などではない、こいつは立派な「友人」ではないか。
きっと、どんな事があってもこいつと居れば、私は楽しく感じられるだろうな、と思った。

304 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 13:12:45.81 ID:fNXhvYIy0

しばらくの会話の後、明日に備えてそろそろ寝るかと提案した。
もちろん性的な意味ではなく。 本当はそうであってほしいけれども。
クジを引いた結果、俺が先に見張りをすることになった。
彼女が言ったように一人旅では自分を守るものは自分しかないので
獣や盗賊に襲われやすい夜などは、おちおち寝てもいられない。
その点二人旅は交代すれば、時間は少なくともぐっすり眠ることが出来る。
尤も一人旅に慣れきってしまった俺は――恐らく彼女も、熟睡は出来ないと思うが。
木に背を預け剣を抱いている彼女も、目は閉じているものの起きているに違いない。

305 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 13:19:17.07 ID:fNXhvYIy0
今日の彼女は珍しく自身についてを語ってくれた。 そして俺を信頼していると言っていた。
どちらも大変喜ばしいことである。 やっぱり今が人生のピークだ。
いやその話ではなく。
なんというか、騎士という職業は俺が想像していたよりも面倒くさそうであった。
辞める事すら許されないとは俺が一番嫌なタイプの仕事ではないか。
……いや、彼女だから、か。 彼女はかなり腕の立つ人物であるから他の兵団に入られることは避けたい。
また自身は語らなかったが、彼女はその容貌から市民から絶大なる人気を誇り、団のイメージアップにも繋がる。
しかし平民出身の女性である彼女を隊長などという高い地位に就けては他の平民出身の兵士がつけあがり
代々貴族の家柄が後を継いでいくという正規軍の威厳を損なうことにもなる。
また、旅に出たくなった理由は他にあると言った。
きっと彼女は、俺のような平民には想像のつかない様な しがらみの中で生きているのだろう。
「そういうのを忘れて旅を楽しもう」と言ったは良いが、俺に彼女を楽しませる――
いやせめて、気を紛らわすような力があるのだろうか。
ようやく聞こえてきた彼女の寝息に耳を澄ませながら、考えた。

306 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 13:24:06.78 ID:fNXhvYIy0
それから何日も経ったが、彼女と俺の距離は相変わらず「友人」から一歩進めない。
いや、彼女からしてみればそれですらなく、まだ「酒飲み仲間」「依頼主と傭兵」かもしれないが。
本来、疲れた彼女の心を癒すというのが目的の旅であったのだが、
逆に俺ばっかりが気を遣わせて、しかも癒されているような気がする。
歩くときは常に俺の広くなってしまった死角に居てくれるし、
見張りが終わって俺が起こすときは子猫のように目を擦って超絶可愛いし、
逆に彼女が俺を起こすときは、彼女が直に俺の肩をぽんぽんと叩いてくれるのだ!
まさに至福のときであった。

310 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 13:30:44.53 ID:fNXhvYIy0
彼女に訊いたところ、旅は原則として戦で召集がかけられるまでは続けられる、だそうだ。
しかし「遊歴」として宮廷から出ている間は給料が与えられないので長期に亘ってそれを志願した前例がなく、
また、あまりにも顔を出さなければ いくら忌み嫌われていようと「アイツは何をサボっているんだ」と
お偉いさんからの評価が更に悪くなってしまう、ということで上限は半年から一年ほどだそうだ。
尤もそれは「遊歴」の期限であって、彼女が俺と旅を続けてくれる時間の話ではない。
途中で飽きてしまえば、俺とはサヨナラバイバイすることだってできるのだ。
今のように何の目的もなく旅を続けていては必ず飽きてしまう。
せめて一箇所でも行きたいと思える場所があればいいのだが――

312 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 13:36:12.94 ID:fNXhvYIy0
ある町の宿、ベッドの上に胡座をかいて考える。
なお宿はツインでなくシングルを二部屋借りることにしている。
残念と思う反面、息子の戒めは遠慮なく行えるので少しありがたい。
長年愛用してきた地図を広げる。
まず、彼女は各地に点在する軍の駐屯地には近付きたくはないだろう。
また、俺は今更気まずいという理由で実家には絶対に近寄りたくない。
と、すれば。
地図の、ある町をてんてんと指す。 ママの町はどうだろうか。
あそこならば、今の時期はリンゴが採れるしまた焼きリンゴを食べることが出来る。
彼女はきっと喜んでくれるし、俺も一度食べてみたいと思っていた。
よし、そうと決まればさっさと彼女に報告して明日出発しよう。

316 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 13:42:55.58 ID:fNXhvYIy0

男が提示した町は去年の旅で寄ったことのある場所だった。
行った事があるのなら再度訪れる必要は無い、と言うところだが、
確かその町はあの焼きリンゴを食べた町だったため、断ることができなかった。
いや、むしろあっちから提示してくれて有難いとすら思った。
私が提案した場合、理由を訊かれては困る。 「焼きリンゴを食べたいから」などと言えるものか!
なんでも、こいつの知り合いが居るとかなんとか。
知り合い。 男だろうか。 女だろうか。
……いやいや、相手の性別など何故私が考えるのだ。
関係ないだろうに。

318 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 13:48:47.71 ID:fNXhvYIy0

今いる町からママの町までは結構な距離があったため、
翌日 例の商業町に寄るという旅商人に馬車に同乗させてくれと頼んだ。
自分たちの食費は(彼女が)出すし、俺は傭兵だから用心棒ぐらいにはなると説明すると
「旅は道連れ世は情けって言うしなぁ」と、渋々ながら承諾してくれた。
商人夫婦と七歳と五歳の兄妹、そして使用人が二人の計六人キャラバンで、
馬車は三台ある。 扱う品物は薬草から生活雑貨までいろいろと揃えているようだ。
それだけの馬を維持できるのなら、かなり儲かっているに違いない。
二台は商品がぎっしり詰められているため、
俺たちは一家と共に日用品等が積んである車に乗せてもらうことになった。

319 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 13:55:23.05 ID:fNXhvYIy0
母親と兄妹の向かいに彼女と俺が隣り合って座っている。
兄妹は最初剣に興味を示していたが母親に危険だと一喝され、次は俺の目に興味を示した。
兄「にーちゃん目がないんだね」
妹「ね。 いたくないの?」
俺「痛くないよ。 こんな傷は傭兵の勲章ってんだ、格好良いだろ」
兄「なんかよく分かんないけどカッコイイ!」
彼女「ふん、逃げる途中に刺されてか」
兄「えっ逃げたの?」
妹「カッコわる~い」
俺「なんてことを!」

320 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 13:56:45.34 ID:fNXhvYIy0
兄妹は眼帯をめくったり、無くなった目の部分をつついてみたり、
眼帯を自分につけて遊んだりした。 おい少しでも傷つけたらケツ叩くぞ糞餓鬼共!!
……などと、彼女の前で大人気ないことも言えない。
母親が馬車で はしゃぐなと注意しても、静かになるのはほんの一瞬だけである。
父親「兄ちゃんが傭兵なのは分かったけどよ、
姉ちゃんは何やってんだ? まさか同じ傭兵ってわけでも無ぇだろ」
確かに傭兵ではないが、騎士だと答えることもできないだろう。
彼女は少し考えてから「貴族だ」と言った。 夫婦は驚いた様子である。
彼女「と言っても、地方貴族でそんな金や権力があるわけではない。
今は家出中のようなもので、用心棒として傭兵のこいつを雇っている」
父親は「ふーん」と納得したようだ。
まぁ、家出中というのもあながち間違いではない。

321 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 14:00:10.41 ID:fNXhvYIy0
日が落ちてくると馬を止めて野営の準備を始めた。
兄妹はせっせと仲良く枝を集め、手伝いをしている。 微笑ましい。
夕食はパンとチーズと、肉と野菜の煮付け、酒であった。 子供はそれを水で割る。
また、肉は我々が提供したものである。
食事が終わると寝るまでの間各自の時間を過ごす。
父親は使用人と明日進むルートを確認し、母親は妹に地面を使って字の読み方を教える。
彼女は剣の手入れをしていて、俺はそれを見つつ同じく剣の手入れをする。
兄「ねーちゃん」
彼女に話しかけた。 彼女は顔を上げ「剣は貸さんぞ」と腰に収めた。
兄は「そうじゃなくって」と言い、んふふふふと不敵な笑みを浮かべた。 そして
兄「おっぱい攻撃ーっ!!!」
彼女の両のむむむむむ胸を揉みやがった!!!!

327 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 14:13:07.98 ID:fNXhvYIy0
俺「こンの糞餓鬼ィィイイイイ!!!!」
背中をむんずと掴み彼女から引き剥がす。
この餓鬼揉みやがった!! 幾度となくチャンスがあった俺すらしなかった乳を揉みやがった!!
この糞餓鬼め!! うらやまけしからん俺にも揉ませろ畜生ォォオオオ!!!
兄「んだよ良いだろー! にーちゃんだってもんでるんだろー?」
俺「やるかッ!!」
やりたいわ!!
彼女のペターンオパーイを指でつつーってして後ろから揉みしだきたいわ!!
兄「でもそんなにやわらかくなかtt」
俺「黙れ耕すぞ!!!!」

329 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 14:18:38.13 ID:fNXhvYIy0
彼女「おい、そろそろ放してやれ。 所詮子供のイタズラだろう」
優しすぎる。 これが子供の特権という奴か、俺も子供に戻りたい。
しかしそんな考えは「二度目は無いが、な」という彼女の発言によって撤回された。
笑っていない目はマイサンをキュッとさせた。 しかし何故だろうドキドキする!
兄「んだよー、母ちゃんなら夜父ちゃんがやっても怒らないのにさー」
母親「ち、ちょっと!!」
父親「おいこら!!!」
夫婦の赤裸々話には俺も彼女も使用人も苦笑いするしかない。
妹は頭に「?」を浮かべ、兄の頭には拳骨によるたんこぶが盛り上がった。

330 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 14:24:11.54 ID:fNXhvYIy0
夜はさらに更け、静かになる。 酒を飲みながらちらりと彼女を見ると、
ある一点をぼーっと見つめていた。 その視線の先を追ってみる。
そこには、母親が肌蹴た毛布を兄妹に優しくかけてやる姿があった。
彼女「……家族、か」
ぽつりと呟いた。 そう言えば、去年の旅の中でも彼女はぼーっとしている時があった。
確かあれは広場で、あの時も仲良く遊ぶ家族の姿があったような気がする。
彼女は奴隷出身だと言った。
もしかしたら、親の温もりも覚えていないうちに離れ離れになってしまったのかもしれない。
だとしたら、こんな光景は見ていて羨ましいだろうな、と思う。
切なげな彼女の目を見て、後ろから抱きしめてやりたいなぁと思った。
もちろんそんなことをしても多分鉄拳が飛んでくるだけである。

334 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 14:52:05.43 ID:fNXhvYIy0
翌日、馬を走らせ車内で会話をしていると、失明によって更に高性能になった俺の耳が不審な音を捉えた。
急いで荷台の後部に行き、カバーの隙間から、今通ってきた道を見る。
彼女「どうした」
俺「このキャラバン以外の蹄音が聴こえた気が」
「そんな馬鹿な」と言いつつも、彼女も揃って隙間から後ろを見る。 と、先ほど超えた丘の下から
五つの影が現れた。 それらは左右に散らばり、手には光るものが見える。 恐らく、武器。
俺「親父さん、多分盗賊が近付いている」
父親「何ィ!? に、逃げるかっ!?」
俺「いやこの物量じゃ逃げられん、それに下手に逃げると品物や馬が撃たれる」
父親「じゃあどうしろってんだ!」

336 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 14:52:49.29 ID:fNXhvYIy0
父親が使用人に馬を止めるよう合図を送ると、三台の馬車はゆっくりと止まった。
そして間もなくして盗賊の乗った馬がやってきて、馬車を前後左右から囲んだ。
頭目と思われる人物が父親に近付く。
頭目「大人しく荷物を捨てるか。 良い判断だな」
父親「品物はくれてやる。 だから家族には手を出すな」
頭目「そうだな。 じゃあ……そこの女と後ろの二台を渡してくれりゃ、他は無傷で返してやるよ」
指名された彼女は黙ってゆっくりと立ち上がり、頭目に近付いた。
頭目「そうそういい子だ、大人しく――」
そして、頭目の髭だらけの頬に、唾を吐き出した。
俺も彼女に上から見下されて唾を吐きつけてほしいものである。

338 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 14:53:40.37 ID:fNXhvYIy0
頭目「……糞アマめ。 交渉決裂だ! 野郎共! 皆殺しにしてしまえ!!」
俺「応!!」
響いたのは俺の声だけである。
一つしかない返事、それも知らない声に頭目はぎょっとし、振り返る。
「あれ!?」と間抜けな声を出し、俺の横で伸びている四人の盗賊の姿を見て更に驚いた。
目線を俺に戻したのでにっこりと笑って「どうも」と言うと、
顔面蒼白になった頭目も「どうも」と口の端をヒクつかせて返した。
頭目「へへ、えっと、失礼しました!」
馬の両の腹を蹴り、頭目は四人の部下を置いて走り去っていった。
なんたる小物臭か。

340 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 14:55:06.21 ID:fNXhvYIy0
彼女「やけに静かだったから全員一撃で殺したものだと思っていたが、気絶しているだけか」
俺「まぁ、無垢な少年少女に血を見せるわけにもいかんだろうと思ってね」
彼女「器用な真似するのだな。 しかし生かしておいて大丈夫か?」
俺「ボウガンは壊したし、大丈夫じゃないかな」
彼女「随分とお優しいのだな。 いつか裏目に出るぞ」
俺「それは困った」

341 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 14:55:44.10 ID:fNXhvYIy0
気絶した四人を木に縛りつけ、それらの馬の手綱は近くの木に掛けておいた。
キャラバンに戻ると拍手で迎えられ、少々恥ずかしい気分になる。
また、その日の夕食では本来商品であるはずの高い酒が振舞われた。
父親「いやぁ助かった! 盗賊が来たって聞いてどうなることかと思ったぞ!」
俺「用心棒として仕事しただけなんだけどね」
母親「んー、護衛の途中でなければ正式に雇いたいところだったわ」
父親「なぁ。 姉ちゃん、良い傭兵雇ったなぁおい!」
彼女「え、あ、う、うむ、こいつは有能な傭兵だ」
……傭兵、かぁ。 彼女に有能と思われているのは非常に喜ばしいことなんだが、
やっぱり俺の評価は「傭兵」から動くことはないんだろうな。

343 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 14:58:32.08 ID:fNXhvYIy0

夕食の後の自由時間、ボサボサの頭をした男は兄の相手をしていた。
盗賊をあしらってから兄のあいつに対する眼差しは尊敬のものへと変わり、勝手に「師匠」と呼んでいた。
兄「ししょーすっげーカッコよかった! ねぇアレどうやんの!?」
ボサボサ頭「どうやんのってなぁ。 説明すんのか?」
盗賊団の頭目が父親に近付いた瞬間、男はこっそりと荷台の後ろから出る。
私は頭目と話し、時間を稼いでいる間に雑魚共を片付ける、という段取りだった。
しかし時間稼ぎが必要でなくなるほどに、あいつは手早く四人を倒した。 殺しもせず、音も出さず。
「音も出さず」と言えば、あいつと共に歩いているときにいつも思っていることがあった。
足音が異様に静かなのである。 あいつが私の後ろを歩いた時、本当に付いて来ているのかと疑うほどに。
無論戦場において相手に行動を察知されないよう足音を極力出さないようにすることはある。 私もそうだ。
しかしだからと言って、人間がここまで静かに行動できるものなのだろうか。

345 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 14:59:52.88 ID:fNXhvYIy0
以前酒を飲みながら聞いた話では、あいつは
「ずっとぶらぶら旅して好きなように生きたいけど、それでは食うに困るから春夏は頑張って働く、
秋は食べ物が美味しいから食べ歩き、冬は寒いから金があれば働かない。 実質働いてるのは半年程度」
だそうだ。 はたして傭兵如きの安月給で半年も働かないで済む程の蓄えができるのだろうか。
いや。 経験から言って、どんなに報奨金を貰おうとそれは無理だ。
あいつは、かなりの手練れである。 地方など給料のケチった戦に出るには勿体無いほどだ。
あれだけの腕があれば、もっと多く金が手に入る仕事があるはずだ。
例えば――暗殺、とか。
……ないな、それは。
「無駄な殺生は好まん」と言うばかりか恩人を斬ってしまったことを泣きそうなほど後悔するような男だ。
あいつに、そんなことができるとは思えない。

348 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 15:07:12.35 ID:fNXhvYIy0
妹の方が、母親の影からちらちらとボサボサ頭を見ていることに気付いた。
昨日まではもっと積極的におんぶだのだっこだのをせがんでいた様に思うが。
見ていると、私の視線に気付いたらしい母親が口を開いた。
母親「初恋の相手はパパでもお兄ちゃんでもなく、
傭兵のお兄さんだったみたいね。 格好良かったから仕方ないかな」
妹「なっなんで、そんなこと言うのーっ!」
妹は耳を真っ赤にして「ママのバカバカ」と小さな手で母親をポカポカと叩いた。
なんというか、これが微笑ましいというやつだろうか。
きっとこの五歳の少女は、あいつのことが好きなのだろう。
尤も私は、人を好きになったことがないので、それがどういう感情なのかは分からない。
分かろうとも思わない。 恋愛など、戦場で邪魔になるばかりではないか。

351 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 15:12:42.26 ID:fNXhvYIy0

その後は何事もなく順調に進み、一週間程で商業の町に着くことができた。
夫婦と使用人二人と握手を交わし、たまに遊びに来てくれと言われた。
どうやら彼らはこの町一の大商人の跡取りらしく、今はすぐに発つものの冬はここで過ごしているらしい。
兄「オレオレ! ぜってーししょーみたいに強いヨーヘーになる!」
俺「やめとけやめとけ、ロクな金貰えなくて食うに困るぞ」
兄「じゃあ騎士! かっちょいい騎士になる!」
彼女「それもやめておけ」
口を尖らせ「なんでだよぉ」と文句を言う兄の頭にぽんぽんと手を乗せ、
彼女「大人しく家業を継げ。 強くなったら、それで家族を守ってやれ」
目はとても優しく、そしてどこか切なげであった。
俺は耳が痛い。 戦にはご縁のない俺の故郷では家業を継ぐのは長男の役目であるためだ。