66 : ◆Vcef9xkjaI :2011/07/02(土) 00:15:54.69 ID:FrHhW4Y0o
魔物の商隊から奪った地図によると、近い街までどうにか行けそうだった。
今の私たちには、魔物の商隊が使っていた馬車もある。
これも神の思し召しか。
街の近くに馬車を停める。
馬車は魔物の血で汚れている為、余計な不安を与える必要もないだろう。
今夜はここで野宿だ。
商人の一団だと偽り、警備の兵へ僅かな金銭を与え、街へと入る事ができた。
今後はこうやって街や村へは入ることになるのだろう。
温かいベッドで眠り、美味しい食べ物を食べているのに、何故か涙が頬を伝う。
洗っても洗っても魔物の血の匂いが取れない。
魔法使いはずっと泣いている。
みんな眠れないのか、目の下のクマが酷い。
数日、街へ滞在を続けようと思う。
眠れないのもきっと今だけだ。
血の匂いが取れないのもきっと今だけだ。
忘れろ。忘れろ。忘れろ。忘れろ。
弱くてごめんなさい。
67 : ◆Vcef9xkjaI :2011/07/02(土) 00:32:05.95 ID:FrHhW4Y0o
勇者が奇妙な葉巻を吸うようになっていた。
吸うとよく眠れるそうだ。
私も吸いたいと言うと、勇者が悲しそうな顔をしたのでやめておくことにした。
眠れないのは辛いが、彼に嫌われるのは耐えられない。
勇者が明るい顔で移動魔法を覚えたと言った。
これで食料と水の問題はかなり緩和される。
神は我らを見放してはいなかった。
悪夢は見るものの、どうにか眠れるようになってきた。
時間とは神の与えてくれた免罪符なのかもしれない。
勇者が旅の再開をみんなに伝えた。
正直、気が進まない。だが、彼は勇者だ。私たちのリーダーだ。
戦士や魔法使いも不満はあったようだが、結局、明日出発することになった。
荷物をまとめ、出発の準備をしていた際、随分と荷物が減っていることに気付いた。
その減っている荷物の中に、勇者が大事にしていたいくつかの品が無いことにも気付いた。
彼に言うと、困ったような顔で「無くした」と呟いた。
ようやく私はわかった。
本当の商人でもない私達が、長期にわたって街に滞在するという事の現実を。
金銭は無限ではないことを。
次の街までの行程は順調に進んだ。
だが、私の心は重い。
勇者と戦士の間にも、以前のような気安い空気がなく、常に張り詰めた感じがする。
私たちは一体、何をやっているのだろう。
70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/02(土) 02:06:28.33 ID:axb0iGPso
世界を救う旅をしてる一団に対する扱いじゃねえ
71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県) :2011/07/02(土) 10:51:36.17 ID:UxAPnDm7o
胸が痛い
73 : ◆Vcef9xkjaI :2011/07/02(土) 12:41:12.23 ID:FrHhW4Y0o
街へ到着し、宿で休んでいると勇者と戦士の部屋から怒号が響いた。
慌てて二人の部屋に向かうと、勇者と戦士が取っ組み合いの喧嘩をしていた。
魔法使いの身を案じる戦士と、先へ進むことを選択した勇者との間で意見が割れたためのようだ。
魔法使いと協力し、どうにか二人をなだめる。
勇者が外へ頭を冷やしに行った際、前の街で私が気付いたことを二人に話した。
魔法使いは気付いていたようだが、戦士は唖然とした表情をしていた。
これが不和を解く切っ掛けになればいいと心から思う。
目が覚め、隣の部屋を覗いてみると、勇者と戦士がテーブルに突っ伏して寝ていた。
辺りに散乱する酒瓶を見るに、二人で夜通し飲み明かしたようだ。
昼過ぎに二日酔いで目を覚ました二人は辛そうではあったけれど、顔は晴れ晴れとしていた。
私たちの結束は深まったようだ。
街に滞在している間、各自で仕事を請け負うことにした。
勇者と戦士は近くの盗賊を捕縛する仕事。
私と魔法使いは、街の教会で蔵書の管理の手伝いだ。
冒険の旅よりも不思議と充実している。
勇者と戦士が戻ってきた。
報酬はそれなりの額があったらしく、豪勢な食事を取ることができた。
どんな事があったのか二人に尋ねると、口を揃えたように「大したことはしていない」としか返してくれない。
何故か胸に嫌なものが広がった。
路銀も増え、次の出発を明日に控える事になった。
買い出しの際、広場に貼り出された立て札が目に入る。
盗賊団が壊滅したらしい。
冒険者の手によって首領以外はその場で惨殺され、首領も本日、縛り首になったということだ。
淀んだ目で自分の手を洗い続ける勇者と戦士の姿を思い出す。
私は、二人に何が出来るだろう。何が出来ているのだろう。
ずっとそんな事ばかり考えている。
74 : ◆Vcef9xkjaI :2011/07/02(土) 12:43:10.98 ID:FrHhW4Y0o
次に目指すのは、乾燥地帯にある小さな村ということだ。
水を多めに携帯し、馬車へと保管する。
村へ向かう途中の道で、いくつかの遺体を見つけた。
どれもミイラ化しており、魔物に食べられたのか破損が激しい。
埃が酷く、口の中に常に砂利を入れられたような感触がする。
髪がざらつく。水浴びが恋しい。
しかし水の量は目減りしており、余裕など無い。
この地方の魔物は筋張ってはいるものの、食用としても問題ない種類が多い。
水に関しては、偶然にも水分を多く含む植物を見つけることが出来た為、次の村までは何とかなりそうだ。
村は壊滅していた。
壊滅した村を散策してみたところ、井戸が枯れた事が原因であるのがわかった。
水を奪い合い、日々を絶望で過ごす村人たちの心境を思うと胸が痛い。
此処へ来る途中で見つけたいくつかの遺体は、この村の人のものだったのかもしれない。
神よ、彼らに安らかなる眠りを。
勇者の移動魔法で前の街まで戻り、食料と水を補充して壊滅した村まで戻る。
村の中にあった移動魔法用の魔方陣に破損がなかったのは不幸中の幸いか。
移動魔法の使用は披露が激しいらしく、勇者の顔色が悪い。
今日はこの村で一晩明かすことになりそうだ。
比較的、綺麗な家を選んで泊まることにする。
75 : ◆Vcef9xkjaI :2011/07/02(土) 12:51:06.31 ID:FrHhW4Y0o
戦士が、村の中を物色する案を出した。
強盗と変わり無い行為を咎めようと思ったが、戦士の辛そうな顔を見ると言葉が出ない。
結局、全員で村を物色する事となった。
私が担当した家で、子供の描いた絵を見つけた。
私にはこれから先、神に祈る資格はないだろう。
次の街は、砂漠の中にある街だという。
小さいながらも王の収める街であるため、支援を受けられるかもしれないらしい。
だが、期待するのはやめておくことにする。
希望から絶望へたたき落とされるのはもう嫌だ。
砂漠へと差し掛かった。
ここを抜けるまでは、昼は穴を掘って休み、夜に移動する事になる。
水が生命線だ。無駄遣いしないようにしなくては。
日陰の中でも容赦なく太陽の光が私たちを焦がす。
水を少しでも節約し、体力を温存するために薬草を口に含んで噛み続ける。
苦いと思ったのは最初だけで、今はもう何も感じない。
ただ機械的に口を動かすだけだ。
体力の消耗が激しい。
砂漠の敵は夜行性のものが多く、危険度も高い。
腕の傷がじくじくと痛む。
披露と油断を魔物に突かれた。
辛くも撃退には成功したが、魔法使いが死んでしまった。
蘇生のため戻るか、先へ進んで街で蘇生させるか。
勇者は進むことを選んだ。戦士は戻ることは選んだ。
私は……進むことを選んだ。
76 : ◆Vcef9xkjaI :2011/07/02(土) 13:03:23.81 ID:FrHhW4Y0o
戦士が一言もしゃべらない。
戦士の次にお喋りな魔法使いは死亡しているため、とても静かだ。
魔法使いの腐敗が進んでいるのか、鼻を突く臭いがそこら中に漂う。
腐臭に寄せられてか、魔物の数も増えた気がする。
私の選択は間違っていたのだろうか。
馬車の中の魔法使いの遺体にハエがたかっている。
戦士が必死になって追い払ってはいるが、魔法使いの身体から湧いているのだから根本的な解決にはなっていない。
魔法使いの綺麗な顔はボロボロで、目が糸を引いてこぼれている。
ようやく街を見つけた。
もう鼻は麻痺し、何も感じない。
馬車にはなるだけ近寄らないようにしている。
街へ到着し、勇者一行であることを告げると、長い時間待たされた後に滞在を許された。
魔法使いの遺体は、馬車の中に入れたまま教会へ運ばれた。
戦士は教会へ同行し、私と勇者は宿へと向かう。
明日、王宮にて王と面会することになった。
王宮にて王と面会した。
少なくとも、私は好きになれない相手だ。
面会している間のねめつけるような視線が忘れられない。
面会の後、教会へ向かうが、魔法使いは面会謝絶とのこと。
明日、出直すことにする。
77 : ◆Vcef9xkjaI :2011/07/02(土) 13:22:16.78 ID:FrHhW4Y0o
やはり面会は難しいとのこと。
だが、部屋の小窓から覗くことだけは許可された。
最初は意味がわからなかったが、覗いてみて納得した。
死ぬ瞬間のイメージ、蛆が身体を這い回る感触、腐敗していく感覚。
それらが魔法使いの脳と身体を壊し続ける。
拘束具をつけられ、よだれと涙を流し、自分の身体を掻き毟ろうと必死にもがく姿に、以前の優雅さは微塵も残ってはいない。
帰り際、戦士がぽつりと言った言葉が忘れられない。
『俺達は罪人だ』
お酒を初めて飲んだ。
とても不味い。だが、ふわふわとして色んなことを忘れられる。
勇者は部屋から出てこない。私も部屋から出ようと思わない。
誰か私たちを助けてください。
魔法使いが戻ってきた。
あれからどれぐらいの日が経ったのか、日付の感覚が曖昧だ。
魔法使いの頬はげっそりとこけ、一言もしゃべらない。
目だけが爛々と私を見つめていた。
魔法使いの回復を待っていたのか、全員、王に呼ばれた。
王から近場の遺跡に向かい、魔物の殲滅を命じられる。
数日の猶予を勇者が申し立てると、国で支払った魔法使いの蘇生の代金や、今の宿の代金などをたてに取られ翌日の出発を命じられる。
帰り際、王に私だけ呼び止められ、今後は王宮付きの司祭にならないかと誘われた。
王が私を司祭として求めていないことはわかっていた為、断った。
一刻も早く、この街を出たい。
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