一週に一、二度ほどの頻度で先生の家を訪ねる日々が続いた。
『どうやらこいつはもう「学校に~、学校へ~」などと押しつけがましいことを言う気はないみたいだぞ』という風に判断したのだろうか、先生の態度はかなりくだけたものになってきていた。
いや、どちらかというと『本来の先生』に回帰しつつあるというのが正しいかもしれない。
親しみやすく、慕われやすい。真面目な顔で不真面目なことを言ったりする。そういう先生の“らしさ”とでもいうべきものが、戻ってきているように感じた。
相変わらず奥の部屋には入れてもらえなかったけど、そもそも客人を応接するのに寝室を使う人間はいない。
ベッドや本棚などが見当たらないことから察するに、もう一つの部屋をメインの居室として使っているのだろう。
他人を易々とあげるような役回りの部屋ではないということは、想像に難くなかった。
時刻は18時過ぎ。この日は、先生の家で夕食をごちそうになるという約束だった。
図書運搬のお使いをこなした、せめてものお礼ということだった。
一生徒が、教師の自宅で晩餐を共にする。非日常の幸福に胸が躍る思いだった。
大げさに言えば、禁忌を犯しているその感覚。当の先生は、どういう認識でいるのだろうかというのが少し気になった。そのことを口に出そうとは思わなかったが。
「…………それ面白い?」
20型のテレビを流し見ている僕に、暗澹たる声音でもって先生は聞いた。
季節外れの心霊特集が短調のピアノ楽曲をBGMとして、一枚の心霊写真を映し出す。黒い目線で顔を隠された女性の下半身がすっかり消失している。あるべき下半身の代わりに見えるのは背景の廃病院だけだ。
「結構好きです」
「そう。わたし、別の番組がいいな」
意地悪な気持ちが湧いた。
「もしかして、怖いんですか」
どおりで、頑なにこっちを向かないわけだ。
ふたのしまった圧力鍋を監視するようにねめつけても、何も面白くはないだろうとは思っていたが。