「……だからさ、その幸せ、少し分けてほしいんだ」
「……あいちゃんに、身代金を要求つもりなんですか?」
「そうだよ。いくらにしようかな……。キミのためなら、いくらでも出しそうだけどね。ヘヘヘ……」
ライトの逆光で、四郎さんの顔どころか、姿すらもは見えない。
まるで闇の底から、声だけが響いているようだった。
彼は今、笑ってるのか……それとも、泣いているのか……
しかし彼の口調には、どこか儚さも感じられる。
“引き返せない”……
彼はそう言った。
四郎さんは、本当は止めてほしいのだろうか。
少なくとも、オラの知る四郎さんは、ケチで気弱でスケベだけど、本当はとても優しい人だった。
絶対に、こんなことをするような人ではなかった。
……それなら、どうして……
「……四郎さん……何があったんですか?何があなたを、こんなことまでさせてるんですか?」
「……」
オラの問いを受け、少し、ライトの光が下がった。そして彼の顔が浮かび上がる。
……彼は、涙を流していた。
「……僕はね、必死に勉強して、大学に入った。大学でも一生懸命単位を取って、卒業も出来たんだよ」
「……」
「……でも、就職先が見つからなくてね。当然だよね。年もそこそこ上で、四流大学出身、何の取り柄もない僕なんて、どの会社も欲しくはないだろうね。
――結局僕は、浪人生活に逆戻りさ。
皮肉だよね。大学浪人を抜け出した先にあったのは、就職浪人なんだよ……」
「……」
確かに、四郎さんが大学を出た頃は、ちょうど就職氷河期と呼ばれていた時代……
就職は、そうとう困難だっただろう。
「……それでも、仕事をしないと生活は出来ない。仕方なく僕は、アルバイトをしたんだ。
……でもそこは、地獄だったよ……」
「地獄……」
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