まさか、他に好きな人が出来たのか、
それとも私の事が嫌いになったんじゃないのか…
そんな不安にかられていました。
妻に聞いてみると、こう答えます。
え?何も変わってないわよ?
調味料も一緒だし、味見してるけど
いつも通りの味だと思ってた。
そう言う妻に、もう一度出された料理を
食べてもらっても、やはり変わっていないと言い張る妻。
いよいよ怪しさが増して来た私は、
少なからず妻の浮気の可能性さえ疑いました。
しかし、現実はそんな簡単な事ではなかったのです。
このやり取りの後も数日間妻の味に慣れなかった私。
「やっぱりおかしいな…」
ずっとそんな風に思いながら
食べていた私でしたが、突如として
その原因が分かる事になったのです。
いつもと変わりなく、仕事を終えて真っすぐ帰宅。
すると、普段なら夜ご飯の支度で台所にいる妻が
何故かリビングのイスに座っているのです。
「ただいま。
気分悪い?
どうした?」
そう聞くと、妻は突如泣きながら
私に想像もしなかった事を言い出したのです。
「私の手料理の味が変わった理由が分かったの。
私ね、妊娠してた。」
いきなり妊娠していたと話し出す妻。
「今日ね、あなたが会社へ行った後
体調が優れなかったから病院へ行ったの。
そしたらね、妊娠してるって言われた。
でね、女の人って妊娠したりすると
味覚が変わっちゃったりするんだって。
だから、そのせいで料理の味付けが
変わってしまっていたのかも。」
そう話す妻の目には、大粒の涙が溜まっていました。
私も、あまりにも唐突な出来事と、
溢れんばかりの喜びでどうリアクションして
いいのか分からず、持っていたカバンを
ソファーへ放り投げ妻を抱きしめました。
妻の手料理の味付けが変わった事で、
色々と不安に思っていた私。
まさか子供が出来ていたなんて想像もしませんでした。
私達に新しい家族が出来る事、妻との間に
また新たな絆が生まれた瞬間だった様な気がします。
今まで美味しい手料理を作ってくれていた妻。
そんな妻が、お腹の中の子供と一緒に
待ってくれている家に、いつも通り仕事が
終われば真っすぐ家に帰っています。
ただ、以前と変わった事が一つ。
それは、少し小走りで帰り道にあるスーパーへ寄り、
いつもより早く帰って私が妻に手料理を作るようになった事です。