怒りの感情で若干ワケ分かんなくなってる俺
そして無言の空間
先に話し始めたのはユカだった
「あ、ごめんねホントなんか暗くさせちゃって
私の家の事情なんだから勝手にしろって感じだよね
でも、こうやって話せただけでなんていうかちょっと楽になれたっていうか
本当に…だって今まで誰にも話したことないんだからありがとう
…じゃぁまた、帰らないといけないんだそろそろ…
お母さんが帰ってくる時間だから
お母さん最近不安定でね、あの、病気の方がね
普通に仕事はできてるみたいなんだけど、仕事から帰って私がいないと怒るんだよね
感情の起伏が激しいっていうかささいなことで怒るんだよね、すごく
そういう病気だからごめんね本当に、でもありがとう
あと…よかったらまた、会ってね?」
俺は元気のない声で、
「うん」としか言えなかった。
ユカを改札まで見送る俺
帰る時間も先週と一緒だった
こんな時、本当はどうすればいいんだろう
「そんな家には帰るな!」って引き止めたほうが良かったのか?
でもブサメンの俺にそんなことできるワケないし、もしそれでユカに迷惑がかかったら意味がない
どうすりゃいいんだよ
こんな気持ちになったのは初めてだった
見ず知らずのユカの義父への怒り、
何もできない俺自身への怒り、
ユカを守りたいという気持ち、
でもどうしようもできないもどかしさ、
どうすりゃいいんだよ本当に
神様、もしいるんなら答え教えてくれよ
ユカを見送ってからしばらく、ぼーっとしてた
何を考えるわけでもなくな
駅の改札近くにそんな奴いたら邪魔だけど、どんなことに気を配ることできなかったな
しばらくしていつもの道、駅から家までの道を歩いて帰った
iPhoneは鳴らなかったよ
その日の夜も、また次の日もユカからメールは来なかった
お前らそれなら俺からメールすればいいって思うだろ?
何度もメール送ろうとしたよ
だけどな、送信ボタンが押せなかったんだよ
初めてユカに会った日からの1週間はとても楽しくワクワクして充実してた
でも今回は違ったな
2回目あってからの1週間は依然の俺よりももっと無気力になってた
でも頭を巡るのはユカと義父のことばかり
よからぬ妄想をしてしまうんだよ
「オヤジは本当にベッドの横でOナニーしてただけか?
もっとひどいことされたんじゃないのか?
でも言えなかっただけじゃないのか?」
普通、会ってまもない俺に、全部を全部話すわけないだろ?
だったらユカはもっと酷いことされてるかもしれない
そんなことばっかり、グルグル頭を巡るわけよ
それから、1週間過ぎても連絡は無かった
寂しかったよ
でもこういうのって、ちょっと時間経ったら普通段々とどうでもよくなると思うだろ?
そもそも、考えてみれば単に出会い系で会った女だぞ
ただ近くに住んでるってだけの得体の知れない女だ
それもたった2回お茶しただけ
固執する方が異常なのかもしれない
でもな、違うんだよな
1週間、日にちが経つごとにユカのことばっかり考えてた
日増しに想う気持ちが強くなってったんだよ
そうだな
ユカのこと、好きになっちゃったんだよ
バカだよな、俺って
小学生じゃあるまいしな
その1週間でユカから連絡の来ない1週間でハッキリわかったよ
すげーユカのこと好きだって
童貞がちょっと変わった経緯で女と会ったから
普段女の子とお茶なんかしたことないから
それで好きになったと錯覚してるだけだと疑ってみたよ?
でも違う
この感情は違う
本当に、心の底からユカのこと好きだって思ったんだ
そう思えてからは、不思議と、ちょっと勇気が出たんだよね
勇気がでた俺は何をしようとしたかっていうとユカに連絡を取ろうとしたんだ
絶対に土曜日にメールしようって決めた
ずっと送りたくても送れなかったメールを、たった一言でもいいから連絡取ろうって思ったんだ
本当に手が震えたよ
意味わかんないけどな
たった一言「久しぶり、元気?」って送ったよ
さんざん考えたくせにテンプレ通りのメールですよ
でもこれが等身大の、童貞の精一杯だったよ