両親の離婚&怪我で部活人生終了➡︎絶望していた俺にやってきた忘れられない夏

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119:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/10/31(土) 01:36:37.30ID:KRQaq1Jm0.net
中学の頃、体育館が満足に使えず、こうしてよく外で対人をすることがあった。
バレーを始めたばかりで、上手くなっていくのが本当に楽しかった。
夕暮れから、真っ暗になってボールが見えなくなるまで、仲間と無心にボールを追いかけまわした。
あれは、なんだっけ。夏の総体の前で、みんな燃えていたんだっけ。

奈央「どうかしました…?」
俺「あ、ごめん。なんでもない」
考え事にふけってしまったせいで、奈央が心配そうにこちらを見ていた。

120:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/10/31(土) 01:43:40.62ID:KRQaq1Jm0.net
奈央「たまに、上手く打てないことがあるんですよね…」
俺「ああ、強く打ち込もうとか、叩きつけるとか考えないほうがいいよ」
奈央「あ、はい!」
俺「手のひらでボールをしっかり捉えれば、力む必要はないから」

奈央「…なるほど。もう一回いいですか?」
俺「うん、全然いいよ」
この子、案外一生懸命なんだなぁって、
俺は思わず笑ってしまいそうだった。

127:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2015/10/31(土) 14:13:32.02ID:XVNdb0RS0.net
情景の描き方が懐かしい感じだな
保守

133:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/10/31(土) 23:47:04.54ID:KmWOGr510.net
奈央「…あの」
奈央がボールを追いかけながら、俺に質問してくる。
俺「…うん、何?」
奈央「ポジションはどこだったんですか」
俺「俺は、レフト。一応、エースだったんだよね…」

奈央は「へー…」と言いながら夢中でボールを追いかけていた。
俺「じゃあ、奈央…さんは?」
奈央「私も…レフトで、一応エース…」
俺「お、すごいね!」
奈央「いや、全然そんなんじゃないです…」

俺の言葉を聞いて、奈央は表情を曇らせた。
何か、まずいことでも言ったんだろうか。
こうして、しばらく二人で対人を続けた。

134:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/10/31(土) 23:48:18.66ID:KmWOGr510.net
奈央「あの、少し休憩しませんか」
奈央はそう言うと、家の表の方へと駆けて行った。

玄関の脇に水道があって、勢い良く蛇口をひねって水を飲み始めた。
水道の下にはバケツに入ったキュウリの束が置かれていた。
奈央「おばあちゃんかな、こんなとこにおいて」
奈央「いいや、水入れといちゃえ」

135:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/10/31(土) 23:51:41.15ID:KmWOGr510.net
そう言って、バケツにじゃばじゃばと水を入れていく。
青々としたキュウリの群れが、気持ちよさそうに、
ぷかぷかと水の中に浸っていく。

奈央「どうせだから、水もあげちゃうか」
続けざまに、近くにあったひなびたジョウロに水を入れていく。

そして玄関付近の花壇に、ばーっと、何というか大雑把に、水を蒔いていく。
奈央「うん、これでいいかな」
そう言うと、奈央は少しだけ笑みを見せた。
俺はその様子を見て、少し感心して聞いてみた。

136:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/10/31(土) 23:52:48.35ID:KmWOGr510.net
俺「この黄色い花、なんていうの?」
奈央「えっと……確か、マリーゴールド、だったかな」
俺「そうなんだ。綺麗だね、なんか夏っぽくて」

奈央「確かに、この燃えてるみたいな色、いいですね」
奈央「個人的には、ひまわりのが好きだけど…」
俺「あ、そうなんだw」
夏の明るい夕日を浴びて、花壇の花達は元気に揺られていた。

137:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/10/31(土) 23:53:52.41ID:KmWOGr510.net
そんなやりとりをして、また少し沈黙になりそうな時だった。
奈央「はーあ、もう少しで部活も終わっちゃうなぁ…」
奈央がため息を漏らすように、口にした。

俺「あー、確かに。でも、もう総体とかは終わった時期…だよね?」
奈央「そうですね…総体は負けちゃいました」
俺「大会って言ってたけど、何の大会?」

奈央「地区の、夏季大会です。ちっちゃいですけど…どうしても勝ちたくて」
奈央「最後に、みんなで何かを成し遂げたいなって……」
座り込んで、愛おしそうにボールを眺める奈央に、俺ははっとさせられた。

138:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/10/31(土) 23:55:13.70ID:KmWOGr510.net
俺「奈央さんは…バレーがすごい好きなんだね」
奈央「はい、好きです!…できたら、ずっとみんなでバレーしていたいです」
照れ隠しなのか、奈央はちょっと苦笑いだった。

奈央「1さんは、バレーやめちゃったって言ってましたけど…」
奈央「大学に行ったら、きっと続けるんですよね」
奈央「きっと、上手いだろうし」

139:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/10/31(土) 23:56:19.51ID:KmWOGr510.net
「あ……」

瞬間、言葉が詰まって何も言えなくなる。
奈央の言葉が俺の胸に突き刺さって、じんじんと痛みを感じるくらいだった。
どうしよう、なんて答えればいいのだろうか。

俺「もう、バレーはやめたって言ったじゃん」
奈央「え…?」
俺「ごめん、俺先に家の中に戻ってるね。」
戸惑う奈央をよそに、俺は急いで家の中へ戻って2階へと駆け上がった。

140:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/10/31(土) 23:57:27.13ID:KmWOGr510.net
俺は、何をやってるんだ。
明らかに不機嫌な態度をとってしまった。
奈央は別に何も悪くないのに。
俺はただ、奈央が羨ましかった。羨ましくて、悔しかった。

141:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/10/31(土) 23:58:31.24ID:KmWOGr510.net
屈託なく「バレーが好きです」と言い切れる奈央が、羨ましかった。
俺にとってバレーは「好きだった」ものに成り果てていたから、
今を楽しくバレーができる奈央が、羨ましくて、一緒に居られなかった。

そして相変わらず、腰からはあの鈍い痛みを感じた。
たった一瞬、奈央と対人をしただけだったのに。
部屋に戻ってからも、奈央のバン、バン、という壁打ちの音はしばらく聞こえた。

俺はその後、夕飯の時間まで部屋に篭って勉強に没頭した。
奈央についてしまった悪態も、バレーのことも、これからの事も、何もかも忘れたかった。

149:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2015/11/01(日) 20:17:56.15ID:3oHQMf8J0.net
夏っていいなぁ
このまま夏の描写が続くなら俺は最後まで絶対付き合うぜ

153:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/11/02(月) 00:17:57.29ID:isNjsBjJ0.net
おばさん「1君、夕飯できたよー」
気づくと、1階から自分を呼ぶ声が聞こえた。

「はーい」と生返事をしつつ1階の居間に降りると、
おじいちゃん、おばあちゃん、おじさん(義父の弟)、奈央がテーブルを囲っていた。
俺は身構えて再び自己紹介をして、食卓についた。
おばさんが台所から出てきて、「とってもいい子だよ」と言って笑った。


154:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/11/02(月) 00:19:30.39ID:isNjsBjJ0.net
おばあちゃんはにこにこして「よく来たじゃんねぇ」と喜んでくれた。
おじいちゃんはあまり表情を崩さず、少し怖い印象を受けた。

そして、おじさんはビールを飲みながら
「まあ何もない田舎だけど、ゆっくりしてけしw」と笑っていた。
義父の堅い印象とは裏腹に、とても温和そうな人に見えた。
なんでも、地元の農協で働いているのだとか。

155:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/11/02(月) 00:22:07.93ID:isNjsBjJ0.net
奈央はテーブルの向こうに座っていて、力なく笑っていた。
さっきはもっとハキハキした子に見えたけど、家族の前だとやはり恥ずかしいのだろうか、
それとも、俺の最後の態度にひっかかる所があったからだろうか…

どうしようか、奈央にいつ謝ろうか、そんな事を考えているうちに、
目の前には沢山の料理が出てきた。

初日の料理は印象的で、おばさんが張り切ったせいなのか、
豚の生姜焼きに、そうめんに、外で冷やしてあっただろうキュウリの浅漬やトマトなど、
夏っぽいメニューがわんさか出てきて、それはもう食べ切れなかった。

156:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/11/02(月) 00:24:10.18ID:isNjsBjJ0.net
おばさん「奈央、1君とは話した?」
奈央「え、うん…ちょっと」
おばさん「そう、それならよかったw」
奈央はいかにも気まずい、という感じで下を向いてしまった。

おじさん「奈央も見習って勉強しっかりやらんとだめだぞ」
奈央「わ、わかってるよ、そんなこと」
おじさん「信用出来ないな~w」
どうやらおじさんは、少し酒に酔っているようだったw

みんなでテレビを見て元気に笑いながら夕飯は進み、
夏の宵闇の時間が過ぎていった。

157:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/11/02(月) 00:25:50.06ID:isNjsBjJ0.net
夕飯が終わるとおばさんが片付けを始めたので、
俺も率先して洗いものを手伝ったりした。
奈央に一言声をかけようと思ったものの、
ご飯が終わるとすぐに部屋に戻ってしまった。

ふと、縁側で食後の一服をしていたおじさんに呼ばれた。
おじさん「1君、こっち来おし」
俺「あ、はい」

縁側に座ると、外の青臭い夏の匂いを感じた。
わずかに、「リリリリ…」という虫の声も聞こえた。
空には、微かに星が光っていて、俺は「はー…」と唸ってそれらを眺めた。

158:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/11/02(月) 00:27:07.26ID:isNjsBjJ0.net
おじさん「どうでこっちは?すごい田舎でしょw」
俺「ああ…そうですね。色々初めてです、こういうの…でも、いい感じですね」
おじさん「それはよかったw」

おじさん「でもなんだか不思議なもんだよねぇ」
おじさんは、そう言ってゆっくりと煙を吐き出す。
俺が「何がですか」と聞き返す前に、おじさんは続けた。

おじさん「1君は、今いくつ?酒は飲めんのけ」
俺「あ、20歳なので…たまには飲んだりも」
おじさん「それはいいなw」
おじさんは嬉しそうにおばさんを呼んだ。
おじさん「母さん、ちょっと瓶持って来てよ!あとグラス2つね」

159:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/11/02(月) 00:28:54.81ID:isNjsBjJ0.net
家の奥から「もー、はいはい」という声が聞こえて、
俺とおじさんの間に、冷えた瓶ビールとグラスが置かれた。
おばさん「1君は勉強しに来たんだからー…あんまり変なことさせちょし」
そう言われて、おじさんは「わーかってる!少しだけだから!」と苦笑いした。

こうして見ているとおじさんはまるで小学生のように楽しい人で、(酔っているのもあるが)
あの義父の弟さんには、やっぱり見えなかった。
そして独特の方言も、なんだか俺には心地がよかった。

160:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/11/02(月) 00:31:22.05ID:isNjsBjJ0.net
おじさん「ほらほら」
おじさんが楽しそうに俺の持ったグラスにビールを並々と注いでいく。
もう大丈夫ですwと言ってもおじさんは子供のように「まだまだ」と言って聞かなかった。

おじさん「じゃ、乾杯だな」
そう言われて、カチンとグラスを突き合わせた。

夏の夜風に混じって「リーーン」と虫の声が聞こえる中で飲むビールはやっぱり美味しくて、
思わず二人で「かぁー!」とうなってしまった。
しばらくおじさんは、黙って煙草を吸い続けた。
途中、「吸うけ?」と言われたが、俺はそれとなく断った。

161:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/11/02(月) 00:34:14.80ID:isNjsBjJ0.net
おじさん「お父さん…って言っていいのかあれだけんど」
俺「はい?」
おじさん「アイツとは、上手くいってるけ?」
さっきまでのにこやかな表情ではなく、少しだけ物憂げな表情に変わっていた。

俺「ああ、まあ…ハイ。それなりには」
おじさん「ほうけ。それならまあ…ごめんね、変なこん聞いちゃって」
俺「いえ、とんでもないです…」
俺がそう答えて、しばらくその場で虫の鳴き声だけが響いていた。

俺「僕の方こそ、突然押しかけて…これからお世話になります」
俺がそう言うと、おじさんは力なく笑って「ゆっくりしてけばいいよ」と言ってくれた。

162:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/11/02(月) 00:35:18.01ID:isNjsBjJ0.net
その後、おじさんとしばらく縁側で話したが、
「勉強なんてテキトーでいいだ」だの「今度一緒にパチ●コでも打ちに行かないか」など、
あまりに義父とかけ離れたことばかりを言われて、驚いた反面、
今までプレッシャーの中にいたので、とても安心できたのを覚えている。

これは俺の勝手な予想だが、もしかしたら息子ができたと思ってくれたのかもしれない。
そうだったら嬉しいな、という俺の気持ちだが。

163:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/11/02(月) 00:36:55.75ID:isNjsBjJ0.net
次の日は、起きて居間に降りるともうおじさんと奈央の姿はなく、
おじいちゃんとおばあちゃんが朝ごはんを食べていた。

おばさん「おはよう、朝ごはん今するからね」
俺「あ、ありがとうございます。あの、奈央さんは…」
おばさん「あ、奈央?部活だってさっき出かけてったねぇ」
おばさん「図書館行くとか言ってたから、今日は夜まで帰ってこないと思うけど」
俺「ああ、そうですか…」

結局昨日の事を謝るタイミングを失ったな、と俺はがっくりうなだれた。

164:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2015/11/02(月) 00:39:13.91ID:vTuaPW310.net
田舎の気のいいおっさんってこんな感じだよな
にしても方言っていいな

165:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/11/02(月) 00:39:52.18ID:isNjsBjJ0.net
おばさん「何?奈央に何か用事あった?」
俺「いえ、そういうワケではないんです」
俺はそのまま用意されたご飯を食べて、日が傾くまで部屋で勉強に集中した。

西日が差し込んでくる頃にはさすがに集中力が切れて、
ちょっと散歩でもしようかなって思った。
家の一階が何やらガタガタ騒がしくなったので、ちょっと気になって見に行ってみようと思った。
開けていいのか分からなかったが、書道教室の部屋に続くドアをそーっと開けて覗いてみた。

166:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/11/02(月) 00:42:39.55ID:isNjsBjJ0.net
何人もの小学生が長机に座って、みんなそれぞれに書道をしている。
全然集中しないでだれてる子もいれば、背筋を伸ばして集中している子もいる。
俺はそれがおかしくて、「ぷっ」と笑ってしまった。
その内のぞいてるのがバレて、男の子に、「あ、誰ー!?」と指さされた。

その騒ぎは瞬く間に広まって、
「初めて見る人だ!」「兄ちゃん誰!」と次々に集まってくる。
「先生これ誰ー?」と集まってくる生徒に、おばあちゃんは「はいはい、席に戻ってね」
と冷静に対応している。
おばあちゃん「この人は1君。今先生の家に泊まって受験勉強してるの」
と優しく説明をする。

168:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/11/02(月) 00:43:48.64ID:isNjsBjJ0.net
「え、じゅけんせいなの?」「ろうにんせいってやつじゃない!」
と、騒ぎが収まる様子はない。
俺も仕方なしに「こんにちは」などとテキトーな挨拶をして対応する。

おばあちゃん「1君は夢に向かって勉強してるの。みんなも見習ってね」

おばあちゃんのその一言が俺の心にぷつっと刺さって、俺は我に返った。
「え、なにそれ!」「兄ちゃんどっから来たの」などと、騒ぎが続く中、
おばあちゃんに「失礼しました」と一言謝って、すぐにその場を離れた。

169:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/11/02(月) 00:46:49.07ID:isNjsBjJ0.net
「俺の夢ってなんだ。」

おばあちゃんは俺が夢に向かって邁進してるように見えたんだろう。
勉強して、その先にかけがえのない夢がある、と―
俺は今、一体何のために勉強しているんだろうか。

そんな疑問、最初からあったのだけど、それすらも忘れようとして、
東京で色々問題を起こして、今ここに流れ着いて―
玄関に置いてあった、奈央のボロボロになったバレーボールを見て、
俺はそんなことを何度も何度も考えた。

170:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/11/02(月) 00:47:58.35ID:isNjsBjJ0.net
それから数日は、奈央と上手く顔を合わせることがほとんどなく、
二人で対人したあの時の事を、ずっと謝れずにいた。
なぜだか俺はそれが気がかりで仕方なくて、勉強にも身が入らなかった。

171:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/11/02(月) 00:51:04.68ID:isNjsBjJ0.net
数日後の朝、居間に降りるとやけにバタバタして落ち着かない様子だった。

奈央「お母さん!なんで起こしてくれなかったの!」
おばさん「やーね。何度も起こしたじゃない。アンタ、大丈夫だって言うから」
奈央「もー、これじゃ間に合わないよ!」
寝坊してしまったのか、奈央がえらい剣幕でおばさんと口論していた。

172:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/11/02(月) 00:52:20.06ID:isNjsBjJ0.net
おばさん「ほんとね。この電車には乗れないから…そうすると30分以上あくわね」
おばさんが、時刻表らしきものを見ながらつぶやく。

奈央「集合時間に間に合わないじゃん…お母さん車で送ってよ」
おばさん「だめよ。私今日早番だからもう行かないとだから」
奈央「はー?何で今日に限ってぇ!」

おばさん「おじいちゃんとおばあちゃんは病院に行っちゃったし、だめだからね」
奈央「マジ有り得ない!じゃあ本当に遅刻じゃん…!」
その口論は収まる気配もなく、俺は階段の脇から眺めていた。

177:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2015/11/02(月) 12:42:48.63ID:6Gx7iVUy0.net
中央線は甲府盆地の北側を通るんだよな。トンネルを抜けて盆地が開けた時に、
眼下に広がる甲府盆地と果樹園が織りなす風景は強烈。特に春の季節は素晴らしい。

>>1のテンポの良い引き締まった文章で綴られる、挫折までの道のり、傷ついてやってきた
田舎の町に暮らす人々の息遣い、先の見えない沈鬱な>>1を包み込む田舎町の夏の光景、
バレーボールに真っすぐに打ち込む女子高生の奈央との関わり。
これらのすべてが、バランスよく描かれていて、非常に味わいがある文章。情景描写が
細かすぎず、読み手の想像力が掻き立てられ、テンポも良く読んでいけるのも良い。
高校時代のバレー部で腰を痛めて挫折したという話は、以前2chで読んだことがあるが、
小説として読みやすくまとめたのは素晴らしい。続きが待ち遠しい。

178:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2015/11/02(月) 12:44:48.20ID:bkB0Mn7o0.net
>>177
素晴らしい書評乙です

197:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2015/11/03(火) 14:45:36.54ID:yYbp/vqo0.net
自分は山梨出身だけど、>>177さんの言う通りだわ
ぶどう畑の描写もあるしその辺が浮かんでくるよねぇ

198:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2015/11/03(火) 18:24:49.06ID:5IWS/sr90.net
>>197
甲府盆地行ったことないけど行ってみたくなったw
ちなみに静岡県民なので岐阜、長野、山梨はよく遊びに行くんだけどね
あとブドウは塩尻も有名だね

199:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2015/11/03(火) 21:53:52.80ID:yYbp/vqo0.net
>>198
>>1が書いてるのは恐らく甲府盆地って言うか勝沼とかのあたりだと思うけどね
いいとこだし一度は行ってみたらいいと思う

187:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/11/03(火) 01:27:06.75ID:9B6+3UGn0.net
機をうかがって、どうしたのかと事情を尋ねてみる。

俺「あの、どうしたんですか…?」
おばさん「奈央、今日野球の応援だったらしいんだけど、見ての通り寝坊しちゃったのよ」
俺「ああ、なるほど…」
おばさん「野球の応援くらい、ちょっと遅刻したっていいんでしょ?」
おばさんが呆れた様子で奈央に問いかける。

奈央「だめ!絶対に行かないとなの!」
まるで見に行かないと死んでしまうとでも言わんばかりに、奈央の語気は荒かった。
おばさん「何をそんなに怒ってるのか知らないけど…無理なもんは無理よ」
おばさんにそう言われて、奈央は涙目になって肩を落とした

188:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/11/03(火) 01:28:13.37ID:9B6+3UGn0.net
俺もさすがにそれが見ていられなくて、一言聞いてみる。

俺「あの、車を出せば間に合うんですか?」
おばさん「え?まあ、今から電車で行くよりは…」
俺の言葉を聞いて、奈央がはっとした表情でこちらを見た。

俺「俺、車の免許ありますし…送っていけないことはないですけど」
俺がそう言うと奈央はまた一気に勢いづいて、
「ね、ね、お母さん!いいよね!?」とまくし立てた。

189:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/11/03(火) 01:29:18.78ID:9B6+3UGn0.net
おばさん「あのねぇ、1君に迷惑でしょ…」
奈央「でも他に車出せる人いないんだし、いいじゃん!」
おばさん「はーもう…この子ったら…」
おばさんはそう言って、微妙な面持ちで俺の方を見た。

俺「そういう緊急事態だったら、全然いいですよ」
俺「大丈夫です、安全運転で行くんでw」

おばさん「それじゃ悪いけど、このわがままな子連れてってもらえるかしら」
おばさん「本当に、気をつけてね。急がなくていいからね」
おばさんはそう言って、俺に車のキーを手渡した。

190:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/11/03(火) 01:33:03.26ID:9B6+3UGn0.net
奈央もバタバタした様子で、急いでカバンやら荷物を持ってくる。
出かける間際、おばさんが俺と奈央に、
「暑いから」とペットボトルのポカリをくれた。

車に乗り込むと、案の定中は蒸し風呂のような熱気に包まれていて、
奈央が「早く冷房、冷房」と俺を急かした。

俺「すぐにはクーラー点かないから、ちょっと窓を開けておこう」
そう言って窓を開けると、外から「ジジジジジジ…」とやかましいくらいの蝉の声が聞こえた。
入ってくるのは蝉の声ばかりで、ちっとも風は来なかった。

201:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/11/03(火) 23:23:59.61ID:vjeDc4kG0.net
初めて乗る車だったので最初は緊張したものの、しばらく運転していれば
すっかり調子をつかみ、俺の中にも余裕が生まれてきた。

俺「おばさんの車を借りてきたみたいだけど…いいのかな」
奈央「お母さんは自転車で仕事に行くから…大丈夫です」
俺「そっか」
車内に二人きりという事もあって、なかなか会話は続かない。

俺は「奈央に謝らないと」と何度も思ったが、それもなかなかに口にできない。