「来る気になったんだね。場所は名刺の裏に書いてあるはずだから分かるよね」
「はい。履歴書とかはいいんですか?」
「長くやってもらうわけじゃないから要らないよ。名前だけ聞かせてね」
土曜日の昼下がり、俺はその場所に行った。
6階建てのビルの3階だった。
ドアを開けると一人の男が出てきた。
あの男じゃなかったので躊躇していると、
「××さんでしょ?○○(例の男の名)から聞いてるよ」
「はい、そうです。よろしくお願いします」
俺の挨拶が終わるか終わらないうちに
「じゃあ、ちょっとこっち来てよ」
と男はエレベーターに向かって歩き出した。
着いたところはビルの地下室だった。
「これに着替えてね」
男は白衣とエプロンを棚から取り出した。
ゴム製のごっついエプロンだった。
着替え終わると「これもつけてね」
と帽子とゴム手袋を渡された。
仕切りの向こうに「もの」はあった。
男は自分もゴム手をはめてシートをめくった。
見慣れてるのか平然としているものである。
「こうやるんだよ」と
男はエタノールを脱脂綿に含ませて「もの」を拭き始めた。
俺も真似してやってみた。
「そうそう、それでいいんだ。
じゃあ終ったら3階に来てね。
今着ているものはここの籠に
入れておいてくれればいいから」
男は手袋を外すと籠に入れ、そこから立ち去った。
確かに恐ろしかったよ。でもなんとかやった。
「元人間」だと思わないように自分に言い聞かせてね。
でも傷の多い「もの」だったな。
俺は簡単に後片付けを済ませると急いで3階へと上った。
ドアを開けるとさっきの男が出てきて
「終ったのか?」と聞いた。
「一応・・・」「じゃあ、ちょっと待っててくれ」
俺を椅子に座らせると男は出て行った。
戻ってきた男は「うん、上出来だ」と言って、
机の引き出しから封筒を取り出した。
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