大学の近くで独り暮らしをしている
友達のアパートに遊びに行ったとき、
俺はその話をしたんだ。
すると友達は、
「俺もやりたい、俺にも紹介しろ」といって聞かず、
俺は財布にしまってあった名刺を取り出し、
そこに電話してみた。
でも、電話は通じない。
呼び出し音はしているのだが、
全然出る気配がないんだ。
「じゃあ、そこに行ってみるか」
と言うんで、俺と友達はのこのこと出かけていった。
そして、例のビルに着いて3階へ上がる。
ドアを開けて「ごめんください」と挨拶した。
出てきたのは女性だった。
「あの、アルバイトのことで着たんですが」
「はぁ?」女性は合点が行かないようで
「ちょっと待っててください」と奥に行った。
代わりに男が出てきて、開口一番
「うちはアルバイトは募集してないよ」
俺は先週の土曜日にやったことを説明してみたが、
男は憮然として
「あのね、うちはね、
法律事務所なの。
バカなこといっちゃいけないよ。
土曜日は原則として休みだしね」
そして、そっけなくドアを閉めた。
確かにドアには「××行政書士」と書いてあった。
現在、日本では「死体解剖保存法」などの法律の制定により、
解剖用の遺体の取り扱いには厳しい制限が設けられている。
実際には、献体に使用される遺体は専門の知識を持つ者が、
遺体の体内に10%のホルムアルデヒド溶液を注入した後、
頭部から脳を取り出し、40℃に保った
60%のエタノール水溶液で約三週間ほど防腐処理を行い、
その後、遺体を一体ずつ別々に保存庫で保管している。
またホルマリンについては、
ホルムアルデヒド自体が特定化学物質に指定されるほど
有毒性の高い物質であり、特別な対策がされていない
大きなプールをホルマリンで満たし、
その中に遺体を浸すということは、現実的には考え難いとされている。
この都市伝説が生まれた経緯は不明とされているが、
1957年に出版された小説家・大江健三郎による小説
「死者の奢り」が初出だと言われている。
この小説には、
「アルコールで満たされた、大きな水槽に保存されている解剖用の遺体を、別の水槽へ移す作業」
という、「死体洗いのアルバイト」に酷似したアルバイトが登場する。
この小説の中で描かれているアルバイトについては、
大江自身による創作なのか、あるいは大江が誰かから
聞いた話を元にしたものなのか不明であり、
詳しいことは分かっていない。