階段のアパートをゆっくり登り扉の前に立つ・・・
一瞬時間が止まるのを感じ、全ての物の存在が頭から消える・・
本田「おらああああああ!」
扉を開けて本田が飛びかかった!
オヤジ「な・・なんだてめえ!」
本田「うるせえええええええ!」
親父は布団で横になりテレビを見ていた。
そこに目がけて本田が飛びかかりタックルを決め
足を押えこむ!
本田「次!行け!」
しかし予定外の事がここで起こった!
扉は一人通るスペースしかない!
二人でどっちが行くかお互い見合ってしまった!
オヤジ「な・・なんだなんだてめえらあああ!」
本田「早く!次こいよ!」
俺「坂倉!いけ!」
坂倉「お・・おう!」
ここでまたミスを犯す・・・
坂倉が靴を脱ぎ始めたのだ・・・
俺「ば・・ばっか!んなことしてねえで早くいけ!
坂倉「あ・・・・」
本田「いってえええええええええ!」
足にしがみついていた本田の髪の毛を両手で掴み
思いきり引き上げてる鬼の表情の大人がいる・・・
オヤジ「ガキャアアアアア!ぶっ殺してやらああああ!」
アパート中に声が響きわたる・・・・
俺達はまたしてもミスを犯していた・・・
騒げば近所に叫び声が漏れることに・・・・
俺と坂倉はもう動けなかった。
本田「いってええええ!助けてくれえ!」
本田の叫び声がこだまするが
俺達は動けなかった・・・
親に怒られたことは何度もある。
大人が怖いということは知っていた・・つもりだった。
自分よりでかい人間が低い声で怒鳴ると
すくみあがるほどの恐怖を感じること。
いくら柔道をやっていたとはいえ
しょせん大人と子供では筋力の差が強すぎて
髪をつかまれひねりあげられただけで
強いと思い込んでた本田がいとも簡単に
動けなくされてたこと。
俺はもう足が震えて膝が笑い逃げることすらできなかった。
草食動物は肉食動物ににらまれたら動けなくなるらしいが
身をもって体感した。恐怖の中・・体は動かない・・・
オヤジ「てめええ!たかしいいい!
なんだこいつらはあああ!」
坂倉「・・・ご・・ごめん・・・ごめんなさい!
ごめんなさい!ごめんなさい!」
もう俺たちの戦意は喪失していた・・・
作戦は失敗に終わったのだ・・・
近所の人が声を聞いて様子を見に来て
警察に通報する・・・
ドアは開けっぱなし。
近所の人が覗いてる中、俺達3人は正座させられ
右に左に顔を蹴られ続けた・・・
痛い・・というより大人の本気の攻撃は重い・・・
一気に首から先を引きちぎられる感覚・・・
蹴られては「起き上がれええ!」と髪をつかまれ正座させられ
また右に左にと顔を蹴り倒され続けた・・・・
所の人たちはあまりの迫力に
ただただおびえていた・・・・
そんな中、警察が到着する。
もうここらへんの記憶があまりない。
オヤジが気が狂ったように怒鳴り続け
鼻血を出していた俺達はとりあえず病院へと連れていかれた。
もう頭の中が恐怖でぐっちゃぐちゃになり
何が起こってるのかわからない状況。
病院で治療を受けながら、警察も隣につき
いろいろ聞かれたが何を答えたか覚えていない。
はっきりと思いだせるのはその先の警察署から。
俺達3人は別々の部屋に連れられバラバラに調書を受けることになった。
俺達3人は別々の部屋に連れられバラバラに調書を受けることになった。
警察というのはグループで捕まえた時は
必ず別々に調書を取る。
口裏を合わせて逃げられないようにするためらしいが
実際はもっと違う所にあると思う・・・
警察「なんでこんなことをしたんだ?」
俺「・・・・・・」
警察「たしかに黙秘権はある。ただな?
黙ってるだけじゃ帰れないぞ!これは事件なんだ!」」
俺「・・・・・・・・・・・」
警察「・・・おまえらのやった事は暴行だ。
子供とはいえ3人がかりで襲いかかっていくなんて
俺は今まで聞いたことがない。」
俺「・・・・・・・・・・」
真実を話せばもしかしたら坂倉を救ってくれるかもしれない。
ただ坂倉は引っ越す前に児童相談所から連絡が入り
警察が来たことがあったらしいが
「躾だ」の一点張りの父親に対し
「やりすぎないでください」の一言で済ませて
何もしてくれなかったと聞いた。
俺は警察を信用してなかった。
その上これ以上あいつの事を
誰かにしゃべりたくなかった。
警察「・・・おまえ・・・と、本田って言ったな。
おまえらが坂倉をそそのかして
家から金を取ろうとしたらしいな?」
俺「・・はぁ?何言ってんですか?」
警察「だってそうだろう。親に殴りかかって行くなんて普通じゃない。
おまえらがあの家に金を取り行って襲いかかった。違うか?」
俺「・・・・馬鹿じゃないっすか?んなわけないでしょう。」
警察「本田はそれを認めたって言ってたぞ。」
俺「・・・・・・・・・・・・・・」
警察「認めたらどうだ?」
俺「・・・・・・・・・・・・」
警察「・・・・・黙ってないで何かしゃべらんか!!!!」
経験がある人はわかると思うが
警察はこうやって必ず誘導尋問を仕掛けてくる。
「他の仲間の奴は事実を全部話した。
だからお前も白状しろ!」と、詰め寄ってくる。
人間の心理的にいくら頑なに隠していても
他の仲間がしゃべった・・・と、なったら
諦めて口を割ってしまう。
俺の場合は誘導してる方向を完全に
警察が間違えていたから不安にはならなかったが
隠していたことをズバリ言い当てられて
他の奴が白状したと誘導されたら
きっとみんなしゃべってしまうだろう。
また黙秘権があるなんて警察は建前上言うが
ずっと黙っていようものなら胸倉を掴んで
怒鳴り散らすくらいは平気でやってくる。
殴られたりということはなかったが
胸倉つかまれ振り回されるくらいは当たり前。
意外と警察ってとこは汚いところだと俺は知った。
俺「・・・・・あの・・・」
警察「なんだ?しゃべる気になったのか!?」
俺「いえ。すいませんけどウソばっかやめてもらえますか?」
警察「・・・・・・・・・」
俺「だって強盗目的なんて絶対ないですもん。
金なんて取る気もなかった。
そんな計画なんか一切なかった。
なのになんでウソをつくんですか?
本田が言った?バカ言わないでください。
そんな計画自体がないのに言うわけないでしょう?」
警察「・・・・・おまえらを試しただけだ・・・」
俺「俺らには真実を吐けって騒ぐのに
自分達はウソはいいんですか?
素直にしゃべってくれない人に
こっちがしゃべると思いますか?
ふざけん・・「黙れクソガキが!!てめえらは犯罪者なんだよ!
大人舐めてんじゃねえ!いいから全部吐けコラァ!」
また胸倉をつかまれ振り回された・・・
調書が始まって何分経っただろうか・・
部屋に時計はない。長いのか短いのか・・・
何もしゃべらない俺をほおっておき
何度か部屋を行ったり来たりしはじめた警察。
何度か行ったり来たりした後に
警察はずっと黙って俺の前に座っていた。
俺も黙って座っていた。
空気が重い・・・・向こうも長期戦の構えなのか・・?
本当にこのまま帰してもらえなかったらどうしよう?
何か聞かれてる方がよっぽど・・楽だ・・・
沈黙というのはより一層心に不安を植え付ける。
出たり入ったりされると、このままどこかに移動させられるのか?
刑務所に入れられてしまうんじゃないか?
身長だけは高くても心も頭脳も小学6年生。
少年法すらもよくわかっていなかった少年には
不安だけが胸をよぎり頭の中でこの先訪れるであろう
最悪の事態を妄想し、震えていた・・・
「どうなるんだろう・・」と不安もピークにさしかかろうというとき
ガチャっと部屋の扉が開いた。
警察「こちらが1の母親です。」
え・・・?母ちゃん・・・・?
顔を上げると、パジャマ姿で髪の毛はボサボサ。
すっぴん姿の母ちゃんが息を切らして立っていた・・・
俺はよく覚えてなかったが病院で
どうも自分の住所と電話番号を教えていたようだ。
そこから母ちゃんに連絡が入り
迎えにきたらしい。
しかしそんな事情を聞かされていなかった俺には
母ちゃんが目の前に立ってた事が信じられなかった・・
と、同時に母ちゃんを見て、ずっと重力に負けず
瞳の中に閉じ込めていた涙が
緩みと共に地面に向かってスルっと落ちていく・・・
俺「か・・かあち・・「このバカ息子が~!!!」
俺は母ちゃんの飛び蹴りを顔に受け
イスから後ろに転げ落ちた・・・・
母ちゃん「このバカが!バカが!バカが!
何を警察に迷惑かけてんだ!このガキャ~!
今、この場でお前を殺す!そして私も死んでやる!」
もう何がなんだかわからない・・
母ちゃんは俺を助けに来てくれたんじゃないのか?
俺の救世主は倒れている俺の腹に座って馬乗りになり
顔を右に左に張り飛ばしている・・・・
な・・なぜ?救世主は助けてくれる人じゃないのか?
なぜこの人は俺への追撃を加え
どなり散らして顔にツバを飛ばすんだ・・・?
とにかく俺は有無を言わさずビンタされ続けた・・・
このとき、オヤジ襲撃事件後に蹴り飛ばされ続けたせいで
頬が腫れていた・・・
そこへの追撃のビンタは痛みを越えて
火であぶったスプーンをくっつけられるような
火傷にも似た熱さを感じた・・・
警察「お・・お母さん!落ち着いて!落ち着いてください!」
母ちゃん「本当にすみません!このバカがご迷惑を・・・
オラァ!立てぇ!立って頭を下げろってんだよ!」
俺「・・・ず・・ずびばせんでふた・・」
母ちゃん「バカにしてんのか!
はっきりしゃべれ!」
いや、あんたが腫れてた頬をさらに張って
また口の中が切れたから
うまくしゃべれなくなったんじゃん・・・・
言い訳する隙はなくまた俺は一発頬を張られた・・・
その後、母ちゃんの勢いに警察は飲みこまれ
とりあえずお引き取りください、もう遅いですし
明日の昼の三時にまた来てください・・と、告げられ
俺はそのまま母ちゃんに渡され帰ることになった。
外に出ると警察署に一本の時計が立っており
時刻は深夜2時をさしていた。
思ったより早く帰れるもんだなと思ったが
本田と坂倉はまだ帰れていなかったらしい。
本田は首謀者として実際に襲い掛かったのもあり
俺よりさらに根掘り葉掘り聞かれ続け
坂倉は実の親の襲撃という事実と
体の傷から虐待の可能性があるということ。
ただ警察に暴力親父は
「こんな事件を起こすガキだろ?
躾が厳しくなって当然!
こんな悪さするガキに口だけで伝わらねえだろ!
親として更生しようとしてただけだ!」と言い張り
実際警察はどう扱うべきか困っていたそうだ。
俺らが何もしていなければ虐待で行けるのだが
いかんせん俺らは3人がかりで襲撃にいってる
とんでもない悪ガキだ。
そんな悪ガキ達だからこそ躾が厳しくなった・・というのも
筋が通るとかなんとかで下手に動けない状態になってたとか。
本田は3時半まで残って調書を取られ
坂倉に至っては朝5時まで
どうするか警察に検討され
結局坂倉の母ちゃんが引き取りに来たらしい。
またあとで聞いた話だが
計画的犯行だが武器を持っていなかったので
殺人になるような事態は考えにくく
ただの暴行事件になったこと。
そして襲撃先に実行犯の息子がいたことにより
見ず知らずの他人を襲ったわけではなく
無理矢理引きとめてまで調査するほどの事件ではないと
判断されたらしい。
このときバットを持っていってたら
きっとこうすんなりとは出てこなかっただろう。
そんな事になってるとは知らず
俺は母ちゃんの車に乗った。
いつも俺は助手席に乗っていた。
しかしこの日ばかりは助手席に乗る気がしなかった。
というか乗れなかった。
あそこまで怒り狂われ、馬乗りになられて
張り倒された恐怖と、こんな夜中に迎えにこさせた事を
申し訳なく思い、後部座席でずっと外の景色を眺めていた。
見たこともない風景が徐々に見たことのある風景に
変わっていく・・・
坂倉とよく一緒に菓子を買いに行ったセブンイレブンを曲がり
車は道路をまたぐように横を向ける。
ピーピーとバックを知らせる音が鳴り
音が鳴りやみ家に着いたことを知らせる。
俺は警察からここまでの間、一切口を開かなかった。
母ちゃんも俺に一切口を開かなかった。
玄関を開けて部屋に入り
部屋に戻りたいが戻ってはいけない気がするし
とりあえずリビングに行きソファーに腰をかけた。
母ちゃんはそのまま台所へと消えていった・・・