150 : ◆Vcef9xkjaI :2011/07/06(水) 00:21:42.79 ID:9CXwYTRQo
ようやく全員の身体が動くようになった日の昼、王から早急の謁見を申し立てられた。
思うように動かない身体を引きずり謁見の場に向かうと、蘇生の代金として巨額の支払いを命じられた。
相談した結果、支払いの援助を自国に求める案が採用され、勇者が単独で自国へ向かった。
私たちは、勇者が逃亡できない為の人質として捕らえられた。
あてがわれた部屋に三人、押し込まれるように監禁される。
明かりもない暗い部屋の中、すすり泣く魔法使いの声だけが響いていた。
数日が経過したが、まだ勇者は戻らない。
魔法使いは視線を彷徨わせ、何も喋らずただ涙を流す。
戦士は魔法使いに何度も話しかけては頭を垂れる。
私は、そんな二人を虚ろな瞳で見つめ続けていた。
頭の端によぎる、見捨てられたのではないかという考えを何度も打ち消す。
戦士と魔法使いは人形のように無機質な顔でぼんやりとしている。
気が狂いそうだ。いや、もう狂っているのか。
何もわからない。
どれほどの日が経ったのか、外が騒がしくなり、私たちは部屋から出され王の前へと引きずられるように連行された。
勇者の姿を見つけ、涙が溢れる。
だが、彼は憔悴しきっており、私たちを見てはくれない。
王から身柄の保釈を命じられた後、今までとは一転して豪華な部屋をあてがわれた。
部屋から出ようとしない勇者が気がかりだ。明日にでも話してみよう。
私たちは人であることすら許されないのか。
自国の王は支援を断った。
物価の安い自国と、物価の高いこの国とでは財布の中身すら天と地の差らしい。
それでも勇者は必死に支援を申し出、断られ、温情を申し出、断られ、幾度も幾度もこの国と自国を行き来した。
そして出された妥協案。
僧侶、魔法使いの二人の身柄を売り渡す事。
魔法が盛んなこの国では、私たちの存在は貴重らしい。
今後、定期的な魔物や魔法に関する資料の提出。及び、冒険が終わった際の身柄の所有権がこの国の出した条件であり、自国の王はその条件を飲んだ。
彼らにとって、私たちなど物でしかない事を理解した。
誰を恨めばいいのか。何を恨めばいいのか。
物に何かを恨む権利など無いのか。
大量の物資を譲り受け、国を挙げてのパレード。
出立する私たちがここまでの扱いを受けたのは初めてかもしれない。
みんな、張り付いたような笑顔で民衆に手を振っている。
国を出ると、それまで笑顔だった王の兵たちは私たちを見もせずに引き返して行った。
私たちも彼らを見送ることなく、国を後にした。
163 : ◆Vcef9xkjaI :2011/07/07(木) 00:47:36.81 ID:uugOgiDlo
次に向かうのは英雄の国。
いくつもの街から英雄が集まる国。
幾度もの魔物の進行を退けた最後の大国。
彼らは何を思って、何のために戦っているのだろう。
旅の途中、以前から勇者が吸っていた葉巻をじっと見つめていたら、そっと無言で手渡された。
最初は煙たいだけだったが、今はとても楽しい気分だ。
世界はどこまでもゆらゆらしてとても綺麗。
ゆらゆら。ゆらゆら。
最近、記憶がとても曖昧だ。
自分が消えていく。
やめよう。今日こそはやめよう。
ここ数日、夜の馬車でお酒と煙を楽しむのが日課になってきた。
みんなの顔も明るい。
勇者が、戦争がどうの、滅亡がどうのと話していたが、あまりよく覚えていない。
6が5になったのがそんなに大変なことなのだろうか?
誰かの顔が浮かんだが、知らない女の人だったので忘れることにした。
思えば、昨日のこともよく思い出せないが、きっとどうでもいいことなのだろう。
辛いことがあったのに思い出せない。
頭が重い。体がだるい。
街に到着したことだし、今日は早く眠ろう。
辛いことは全部忘れよう。
明日はいい日でありますように。
どこまでもどこまでも青空が広がっていたこの日を忘れない。
戦士と魔法使いが祝福する中、小さな教会で彼が指輪をくれた。
涙が止まらない。
嬉しいのに、幸せなのに、悲しくて辛くて涙が止まらない。
嬉しくてごめんなさい。
幸せでごめんなさい。
私の幸せを祈ってくれた、あなたの顔を思い出せなくてごめんなさい。
この日だけは忘れたくない私を許してください。
164 : ◆Vcef9xkjaI :2011/07/07(木) 00:48:23.09 ID:uugOgiDlo
街に滞在中、英雄の国からの使いだという一団が現れた。
山賊か野党の集団にしか見えない姿に警戒するが、街の人達の対応を見るに、それなりに信用を置ける集団らしい。
どちらにせよ、相手の人数や場所を考えるに付いて行くしかないようだ。
いざという時の為、逃げる準備だけはしておこう。
意外なことに、彼らはとても紳士的だった。
更に場数を踏んでいるのか、魔物の対処も素早く、動作も洗練されている。
勇者と戦士は既に彼らに溶けこみ、酒を酌み交わしながら歌を歌い、そんな彼らを見て魔法使いが楽しそうに笑っている。
おとぎ話の中の冒険者の姿が、そこにはあったようにも思えた。
王の住む街までの旅路の中、彼らは多くのことを私たちに教えてくれた。
少人数での魔物の対処法や、有効な魔法の活用法であったり、果ては食用に適した魔物の種類であったり、調理法にまで及んだ。
そして彼らは口々に言う。
『我々は英雄などではない』
私たちと何ら変わりのない、悲しい人達がそこにはいた。
高い城壁のそびえる街。それが王の住む街。英雄の国。
幾度もの魔物の進行を耐えたのか、城壁は所々に傷を負いながらも頑丈に街を守っていた。
街へ入ると、老若男女様々な人がそこにはいた。
そして、誰もが私たちを歓迎してくれた。
旅の疲れもあるだろうと宿を紹介され、休んでいるとひっきりなしに誰かが顔を出しては長い旅を労ってくれる。
心地良い眠気が襲ってきた。もう遅い、今日は眠ろう。
王は城ではなく、普通よりも少し大きな家で私たちを待っていた。
豪快に笑う王曰く、この国には王を住まわせる城など無いのだという。
そして王は言った。この国の一員にならないかと。
勇者などやめて、共に生きないかと。
我々は同じなのだと。
この日は返答を待ってもらい、宿へと戻った。
宿で一晩話し合い、返事を決める。
明日、また王の元へと向かおう。
朝早く、私たちは旅の支度を終え、王の元へと出向いた。
私たちの姿を見て王は理解したのか、少しだけ悲しい顔をした後、初めて出会った時と同じように豪快に笑う。
去り際、一言だけ投げかけてきた。
『お前達は負けるな』
人々の希望、羨望、嫉妬、悲しみ、そして自分の中の絶望に負けた悲しい英雄の言葉を背に、私たちは英雄の国を後にした。
165 : ◆Vcef9xkjaI :2011/07/07(木) 00:49:42.36 ID:uugOgiDlo
以降のページは文字が血に汚れ、最後のページ以外判別不能。
166 : ◆Vcef9xkjaI :2011/07/07(木) 00:50:18.81 ID:uugOgiDlo
最後のページ
親愛なるあなたへ。
本当は、こうするべきじゃないのかもしれない。あなたに恨まれるかもしれない。
でも、あなたが必死になって残してくれた薬指は、きっと私がこうする為のものだと思う。
ごめんね、あなただけ残してしまって。
ごめんね、あなただけに背負わせて。
ごめんね、大好きだよ。
もし、私たちを知らない誰かが片手だけでいいから、片方の手のひら五本分だけでもいいから、私たちの手を取ってくれたのなら、どうか許してあげてください。
きっと世界は、人は、そこまで愚かでも傲慢でもないから。
もうそんな資格はないけれど、それでも最後に、神様にお祈りしようと思います。
ずっといっしょにいれますように
またね。
167 : ◆Vcef9xkjaI :2011/07/07(木) 00:54:41.51 ID:uugOgiDlo
以上で僧侶の手記終了となります。
国を去ってから最後までの間は、当初の予定通り書かない方向でいきました。
見てくれた方、これから見てくれる人に心から感謝を。
本当に、本当にありがとうございました。
174 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) :2011/07/07(木) 02:03:08.37 ID:O5JGzCxh0
やばい…やばい…
177 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/07/07(木) 02:53:44.91 ID:8MAZ8+QAO
乙
久しぶりに本当にいいものを見た
173 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/07(木) 01:48:17.33 ID:LM2+tjejo
ずっと一緒にいたいから「食え」だったのかな僧侶……
175 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/07(木) 02:04:57.12 ID:0nuKDZCC0
僧侶がそれを薬指だと判別できたのは、指輪がはまってたからなのかな
180 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/07(木) 04:01:11.89 ID:I0ZTjTsDO
救われねえ・・・
181 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) :2011/07/07(木) 05:33:49.88 ID:HIAP/orAO
先に謝る、ごめん
>>38
勇者「あーあ、残念。えーっと、勇者マークは……あー、足りてないねー。まあ後からだね」
王様「?」
姫様「?」
これってどういうこと?
186 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) :2011/07/07(木) 07:25:32.35 ID:A9IoxAQAO
確かに勇者マークは何かあるだろうと思っていたんだが
187 : ◆Vcef9xkjaI :2011/07/07(木) 08:06:58.96 ID:gfBhwEEIO
一晩明けたらレスが沢山あっておでれーてます
勇者マークに関してですが、自分でもえらくわかりにくく書いちゃったので補足を
王様と姫様がゲットした数が合計4
勇者の手を握る指の数に届きませんでしたとなりまする
本当は台本形式だった時に回収予定だったものを忘れ……ゲフンゲフン
と言うわけで、回収も含めてあの最後になりました
他にも「答えろファッキン>>1が!」な部分があれば可能な範囲で返しますです
188 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/07(木) 08:25:30.29 ID:i22DvoUx0
勇者マーク最初から最後までずっと気になってたんだが、結局なんだったんだ?
189 : ◆Vcef9xkjaI :2011/07/07(木) 08:30:27.95 ID:gfBhwEEIO
>>188
物自体はどこにでもありそうなバッジみたいなもんとして考えてもらえれば
特にこういうのという形は考えてません
191 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) :2011/07/07(木) 08:53:34.03 ID:H0y4Fy7AO
魔法の国で多額の蘇生代ふっかけられた際に自国の王様は何度も援助要請断ったんだよな?
その割に冒頭では勇者に頭上がらないみたいだし事情も全然知らなそうであれって思った。
姫様に至っては自分のポケットマネー差し出しそうな勢いじゃね?
193 : ◆Vcef9xkjaI :2011/07/07(木) 09:18:37.25 ID:gfBhwEEIO
王様の態度の違いに関しては、支援要請の時点では勇者が魔王を倒せないと思っていた部分や、魔王を倒して名実共に最強人間になっちゃった勇者にビビってたり、今後の勇者っていう存在で得られる経済効果を考えてウハウハしてたりというのが理由ですね
余談ですが、ほとんどのRPGって後半に行くにつれ、物の値段が上がるのは何でよ?ワシ勇者やぞコラって思ってたりしたんで、そういうところから物価の違いに落ち着きました
なので、魔法の国からしたら実はそう法外な値段を吹っ掛けた訳でも無かったり
そして、こんぐらいも払わないならお前のとこの資産(勇者パーティー)寄越せよ→全員じゃないならいいよ?最悪、勇者いればどうとでもなるしって動きがあったりした訳です
姫様に関しては、良くも悪くも現実を知らないというキャラです
額を見たらバックれ確定な無知は罪って人ですね
続きは次のページでご覧ください!!