小学校の先生との初恋を貫いた結果・・・

【PR】Akogare


19:名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 14:46:04.62 ID:+beSXCVE0
何回か深呼吸をして少し落ち着くと、私はまた非常階段に戻り、腰をかけた。

断られた時に少しでも大丈夫なように、今のうちに心の準備をしておこう…
そんなネガティブな考えで悶々としていると、先生は思ったより早く戻ってきた。

「校長先生に許可貰えましたよ、二つ返事でOKでした。さて、これからどういう予定を立てましょう?」

先生はニコっと笑う。
私はと言うと思いがけない返事にビックリして、ほんの少しの間だけ固まってしまっていた。

「渚さん?」
「あ、え、はい、あ、ありがとうございます!」

そんな私の様子を見てプッと噴きだした先生は、まだ半分笑った顔のまま話を続けた。

「下校時間以降、職員会議の日や行事の時以外なら、音楽室を使っても構わないそうです。」
「は、はい。」
「さすがに毎日と言う訳にはいかないので、週に1.2回でどうでしょう?」
「は、はい。」
「じゃあ毎週火曜日って事にして、その週に都合が付けば金曜日もって事でいいですか?」
「は、はい。」

先生は堪え切れなくなったように、今度はアハハと声を出して笑った。

「さっきから はい しか言ってないけれど、コレで本当に大丈夫ですか?」
「は、はい!大丈夫です!…あの…先生は大丈夫ですか?いいんですか?」
「大丈夫じゃなかったら断ってます。担当してるクラスも無いし、暇だから平気です。」

先生がニコっとして頷く。

そこでやっとホっとした私は、さっきとは一変、とたんに夢心地になった。

「じゃあ来週…はもう夏休みか。火曜日はちょっと忙しいから、来週だけは金曜日、時間は15時からでいいかな?」
「はい、わかりました。」
「一応、学生服で来てくださいね。正装でくると言うことで。」
「わかりました。」
「じゃあもう戻らないと。また来週、渚さん。」

21:名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 14:49:38.40 ID:+beSXCVE0
それからの毎日は、本当に楽しいものだった。

毎週先生と会える日が待ち遠しくて、一週間があっという間に過ぎていく。

複式呼吸の練習、高い声・低い声の出し方、細い声・太い声の出し方…
まぁ本当にただのボイストレーニングなんだけど、
それでも徐々に自分の歌声が良くなって行くのが実感できて、更に楽しかった。

最初の動機こそ不純なものだったが、私は歌を歌うという事がどんどん好きになって行き、
また、先生への思いもどんどん大きくなっていった。

恋をして少しは身なりを気にするようになり、クネクネだった髪にはストレートパーマをかけた。
眉毛も整えるようになり、身長が少しだけ伸びたおかげか、体重も徐々に減っていった。

中一の冬休みが終わる頃には、自然と良く笑うようになり、友達もできた。
小学生時代には想像も出来ないくらい、私は明るい普通の女の子になっていた。

このままずーっとこの日常が続いて欲しいな…

私は生まれて初めて、心穏やかな充実した学生生活を送っていた。

23:名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 14:52:59.51 ID:+beSXCVE0
当たり前だけど、先生とは何も進展がなく過ぎていき、中学2年が終わる春休みの少し前。

いつものように発声練習をして一息休憩を入れていた時、先生が少し残念そうに、でもニコニコしながら呟いた。

「多分、今年は移動になると思います。」

穏やかに流れていた日常が、ピタっと止まる音がした。

「移動って…違う学校に行くって事ですよね?」
「そうですね、そういう事です。本当は公表があるまで言っちゃいけない決まりなんですが…」
「…どこに移動になるんですか?近くの学校?」
「いや、京都です。」

京都…学生の私には、あまりにも遠い距離だった。

「渚さんとはこう…少し特殊な形で関わってましたし、今後の予定もあるでしょうから、先にお話しておいた方がいいと思いまして…」
「そう…ですか…」
「急な事でごめんなさい。でも折角練習を続けてきたし、これからは中学校の音楽の先生n…」

その後、先生は何か色々話していたけれど、私の耳にはまったく入ってこなかった。
先生が生活の一部になっていた私にとっては、まさに沈んで行く船に乗っている気分。

先生が遠くに行ってしまう…

その事で頭が一杯になり、その日の残りのレッスンはずっと上の空だった。

27:名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 14:55:51.55 ID:+beSXCVE0
最後になるレッスンの日。

今まで待ち遠しかった火曜日が、今までで一番来て欲しくない日になっていた。

いつものように音楽室に入る。
先生は珍しく、まだ音楽室には来ていなかった。

ふと、ピアノの後ろにあるカラーボックスに違和感を感じて目をやる。
今まで先生の私物がぎっしりと詰まっていたカラーボックスは、綺麗に片付けられていた。

あぁ、本当に居なくなっちゃうんだ…

そう実感した瞬間、涙が勝手に溢れて来た。
嗚咽するでもなく、ただただ涙だけがポロポロと溢れ出てくる。

泣いてる顔なんて見られたくない…早く泣き止まないと…

そう思えば思うほど、意志とは裏腹に涙が止まらなくなっていく。
なんとか泣き止む為に深呼吸を繰り返していると、音楽室のドアが開く音がした。

「待たせてすみません、ちょっと忙しくて…」

泣いて真っ赤になった目が、先生の目と合う。
先生のビックリした顔を見て、私は何故か恥ずかしくなり下を向いた。

先生はそっと扉を閉めると、いつものようにピアノの椅子に座る。

例え様の無い不思議な沈黙が、ただただ重苦しかった。

28:名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 14:58:19.70 ID:+beSXCVE0
「…泣かないで。どうしたの?何があったの?」

先に喋ったのは先生だった。
どうしたの?とは酷い事を聞くものだ…先生は何も気がついていないのだろうか?
それとも気がついてないフリをしているのか…?

「……寂しいです…」

私は勇気を振り絞ってそう言った。
先生はまたまたビックリした顔をしたが、すぐにまたニコっと笑って

「そうですね、僕も寂しいです。」

と、優しく言った。

「私は…」
「…?」
「私は、先生のお陰で変われました。先生のあの時の一言が、私が大きく変われるきっかけになりました。先生に会えて良かった。…だから…とても寂しいです…。」

昔の自分では考えられないくらい、自然にスラスラと言葉が出た。
そう言うと何だか心がふっと軽くなって、不思議と涙は止まった。

沈黙がしばらく続いた後、急に不安になって先生の顔をそっと見てみる。
また少し驚いた顔をしていた先生は、私と目が合うと、今まで見たことの無い穏やかな表情でにっこりと微笑んだ。

「ありがとう。そんな事を言ってもらえるなんて…教師になって良かった。僕もそう思わせてもらいました。」

ドキッとした。
先生はいつもニコニコしていたけれど、こんな柔らかい笑顔を見たのは初めてだった。
なんだか本当の先生に突然会ったような気分になって、耳がカーっと熱くなった。

「それだけ泣いちゃったら、もう練習は出来ないですね。今日はお話をして過ごしましょうか。」

少しの間を置いてそう言った先生の顔は、またいつものニコニコ顔に戻っていた。

29:名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 15:00:34.04 ID:+beSXCVE0
最後のレッスンから数日後、先生が京都に出発する日。

私は先生の見送りをする為に、数人の友人達と一緒に空港へと来ていた。
相変わらず先生はニコニコしてて、友人達も久々に会う堺先生と話を弾ませている。
私もなんとなく会話に混ざりつつも、若干上の空。
先生の顔から目が放せず、とにかくボーっと先生だけを眺めていた。

「さて、そろそろ待合室に入らないと。今日はわざわざありがとう。」

先生が皆にお別れの挨拶をし始める。
私は勇気を振り絞って、先生に一枚の紙を渡した。

「…?」
「私の住所です…。あの…よかったら…お手紙下さい。」

先生はニコっと笑って渡した紙をポケットにしまい、私の頭をポンポンっと撫でると、そのまま待合室に消えていった。

あっという間に新年度が始まる。

私は相変わらずのうわの空で、何に対してもやる気が起きないでいた。

でももう中学3年。
高校受験も控え、いつまでもボーっと過ごすわけにはいかない。
それでもやっぱり先生が居なくなった喪失感は大きく、気がつくと先生の事ばかりを考えていた。

初めての恋をした私には、その感情の押し込め方なんてまったく解らなかった

31:名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 15:02:29.30 ID:+beSXCVE0
先生が居なくなっても、時間だけは淡々と過ぎてゆく。

夏休みになり、私はやっと失恋という言葉を噛み締めていた。
一生懸命考えた結果、あまりにも幼い恋に気がついたのだ。

先生はもう大人。
ましてや教師。
14.5の小娘が自分に恋愛感情を持っている事なんて、薄々感じてはいただろう。
そして、解った上で私が傷つかないように、ずっと変わりなく接していてくれたのだろう。
小さな脳みそで考えた結果出てきた、それが私の答え。

忘れなきゃいけないな…先生がずっと元気で幸せなら、私はそれでいい。

今思い出すと完全に自己満足でまだまだ幼い考えだが、私にはそれが精一杯だった。

夏休みも半分を過ぎた頃。
いつもの様に遅く起きた朝、猛暑にノックアウトされながら郵便受けを見に行くと、
新聞の間に一枚の葉書が入っていた。

宛名を見ると私の名前。
差出人は…堺先生だった。

32:名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 15:04:12.82 ID:+beSXCVE0
ー 残暑見舞い申し上げます。
  元気にしていますか?
  歌う事はまだちゃんと続けているでしょうか?
  こちらの暑さは厳しく、そちらで過ごした爽やかな夏の日々が思い出されます。

  8月の花火大会の辺りに、そちらに観光で伺う予定です。

  それでは、夏に負けずに過ごしますように。 ー

心がまた先生で一杯になるには、あっという間だった。

手紙を読み終え地域の予定表を確認すると、花火大会はもう目前だった。
だからといって、電話番号も知らない先生とは、会う約束も出来ない。
それに今年は、同級生男女数名で見に行くことに決まっていた。

これじゃ、何だか生殺しだなぁ…

久々に感じた胸の痛みを懐かしく思いつつ、私はもう、少しは大人になったのだと、そう自分に言い聞かせた。

花火大会当日。
初めて友達と見に行く花火大会。
一緒に行く予定の友人から浴衣を借りて着付けしてもらった私は、
どうせなら…と勧められるまま、お化粧道具も拝借した。

中高生向けの雑誌と睨めっこしながら初めて施した化粧姿は、
今思うと少しでも大人に近づきたかった気持ちの表れだったのかもしれない。
もしかしたら…というほんの少しの下心を含みつつ、私は会場に向かった。

が、結局ばったり先生に会える…なんてドラマチックな展開は無く、友人達と楽しく過ごして花火大会は幕を下ろした。


33:名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 15:06:32.20 ID:+beSXCVE0
夏休みがもう終わる頃、私はやっと先生に返事を書いた。

夏休みは楽しかったこと。
先生から手紙が来て嬉しかったこと。
歌は習いはしてないけれど、発声練習だけは欠かさずしていること。
花火大会で会えなくて、残念だったこと。

便箋3枚たっぷりに色々書いて、季節ごと以外での返事が来るようにと、祈るように投函した。
私の踏ん切りをつけたはずの心は、やっぱりまた先生に戻ってしまったのだった。

祈りが通じたのか、それからは二月に1回程度の頻度で文通が始まった。
他愛のない世間話ばかりだったが、
たったそれだけでも繋がりが持てている喜びで、私の心は十分満たされていた。

また幸せな日々が、少しだけ戻ってきていた。

36:名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 15:08:44.05 ID:+beSXCVE0
心が平常を取り戻すと、成績は面白いほどグイグイと上っていった。

このまま頑張って先生のそばに…とは思ったものの、当時母子家庭だった我が家の家計的には苦しく、仕方なく奨学金を使って地元の高校を受験した。
結果は余裕の合格。

私は晴れて高校生になった。

高校1年。16歳になった私は、すぐにバイトを始めた。
理由は、携帯電話を持つため。
同級生の間でも持ってない人は少数になっていたし、
何より先生との手紙以外の連絡ツールが欲しかったのだ。

近所に昔からある、そこそこ大きな喫茶店のウェイトレス。
自給こそ低めだったが、マスターがとても優しく大事にしてくれたので、バイト自体は楽しいものだった。

そして、みっちり働く事2ヶ月。

念願の携帯電話を手に入れた私は、先生への手紙にはメールアドレスだけを添えた。
番号まで書いてしまったら何か厚かましいと思われるような気がして、子供心に遠慮をした結果だった。
住所を書いたメモを渡す時より緊張しながら、私はまた祈るように手紙を出した。

数日後、緊張や不安とは裏腹に、先生からのメールがあっさりと届いた。
本文は先生の名前だけという恐ろしくシンプルな内容だったが、それだけでも私は十分すぎるほど嬉しかった。

37:名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 15:10:39.78 ID:+beSXCVE0
それからは手紙のやり取りはなくなり、かわりに数日に一度程度のメール交換になっていた。
本当は毎日でもメールをしたかったが、迷惑になる事を考えて、極力控えるようにしていたのだ。

細く長くやり取りを続けてもうすぐ高校2年になる春休み前日、先生から思いがけない知らせが届く。

「移動が決まりました。また〇〇小に戻ります。」

38:名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 15:11:56.51 ID:+beSXCVE0
高校2年が始まる。

先生はこちらに戻って来たが、すぐに会う事は無かった。
会って話がしたい、声が聞きたいとは思ったものの、なんとなく会いに行く口実が出来ずにいたのだった。

それでもメールだけは続いていた。

そんな感じで日々は過ぎ、その年の9月。

私がずっと歌を習っていた事を聞きつけた高校の先生から、
文化祭の催しで歌ってみないか?とのお誘いがあった。

校内でも歌が好きな生徒を集め、楽器の得意な先生達の伴奏に合わせて、
生徒が好きな歌を歌うという企画。

最初こそ断ったものの、友達からの何で引き受けなかった?の声や、
打診してきた先生の猛プッシュもあり、結局私は1曲限定という約束で引き受けた。

引き受けたは良いものの、何を歌って良いのかが解らない。

面倒な事に巻き込まれたな…と思いつつ、私は友人達に歌って欲しい曲は無いかを聞いてみた。
様々な歌が提案されたが、その中でも特に仲の良かった友人のリクエスト、
Fayrayのtearsという曲を歌うことになった。
女子高生の大好きな、切ないラブソング。

初めて聞いた曲だったが、何より歌詞が甘酸っぱくてなんだか恥ずかしく、歌う約束をした事をちょっとだけ後悔した。

文化祭も間近になった時、私はそういう経緯で初めて人前で歌を歌うことになったと、堺先生にメールをした。

先生からは、絶対に見に行くと返事があった。

私は先生にラブソングを聞かれることが物凄く恥ずかしくて、やっぱりちょっと後悔をしたのだった。

40:名も無き被検体774号+:2012/06/07(木) 15:14:21.63 ID:+beSXCVE0
文化祭当日。私達の公演は14時から。

一曲限定と条件を提示してしまったが為にトリを持たされるという事を、私はその日の朝に初めて知らされた。
友人達は恋人とデート状態だったので、ただ一人何もする事が無い私は適当にその辺を見回ると、喧騒から逃げるように屋上に向かった。

やっぱり引き受けるんじゃなかった…

激しく後悔しつつ屋上のベンチに座り2時間くらいボーっとしていると、堺先生からのメールが鳴った。

「高校に着きました。今、どこにいますか?」

単純に歌を見に来るだけだと思っていた私はあまりに早い到着に驚いて、呆けていた頭も一瞬で吹っ飛んだ。

「何もする事が無くて、B棟の屋上に居ます。」

久しぶりに会えるドキドキと恥ずかしさで一人ソワソワしていると、返事を返してから15分くらいで、先生は屋上に現れた。
私に気がついた先生は、ニコニコしながら懐かしそうにこちらに歩いてくる。
昔と何も変わらないその姿を見て、心臓がドクンとなった。

「お久しぶりです、元気でしたか?」
「先生こそ、元気でしたか?」

自然と笑みがこぼれる。

「色々あったけど元気ですよ。…渚さんは変わりましたね、見違えましたよ。」
「先生はあまり変わりませんね。」

見違えたという言葉に不思議な心地良さを感じながら、数年ぶりの先生の柔らかい声に身も心もトロけていた。