195:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2017/07/02(日) 00:42:18.29ID:rBxtmIDi.net
そうすると、僕の知る限り親しい人間の中ではマンドリル以外が容疑者リストから外れてしまった。
ウィノナの携帯の受信履歴を見る限り連絡を取り合うような間柄の人間はそんなに多くない。
マンドリルのキャリアはドコモだった。
ここで一つの疑問にぶち当たった。
202:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2017/07/02(日) 01:09:51.41ID:rBxtmIDi.net
1日3回のアドレス変更制限があると言うことは
元のアドレスから嫌がらせ用のアドレスに変更して更にそれを元に戻す
これだけで2回制限を消費することになる。3回送ろうとするならば2回目から3回目のアドレスに変更するとき元のアドレスを経由しない。
それに気づいた夕暮れ時、この日2通目の例のメールが来た。
203:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2017/07/02(日) 01:12:17.94ID:rBxtmIDi.net
僕は急いで怪しいと思われるすべての人間にメールを送信することにした。
当時、チェーンメールなんてものが流行ったことがあった。不幸の手紙の類や鉄腕ダッシュの企画として一通のメールがどれだけ拡散するかの調査ですみたいな内容の類。
以前受信したチェーンメールの内容を改変して、電話帳内すべての人間に送信しなければいけないと言う文言を追加して各人に送信した。
電話帳内すべてに送信ってのは無理があったけど、もしかしたらあとであいつアドレス変わってたぜなんて情報があわよくば入ってくるかもくらいの気持ちだったんだね。
仮に僕から送信できないアドレスがあればそいつが犯人の可能性が高い。そう思った。
一度犯人から外した人間も含めて送信。宛先は100人は超えていた。
204:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2017/07/02(日) 01:12:57.46ID:rBxtmIDi.net
僕の期待とは裏腹に全員にメールは届いてしまった。
もちろんマンドリルにもだ。
そもそも当時は携帯メールは高校生たちのライフラインみたいなものだ。
そう何日も違うアドレスには出来やしない。
或いは犯人は携帯を2台持っているのか…?
205:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2017/07/02(日) 01:14:03.07ID:rBxtmIDi.net
携帯をウィノナの家へ返しに行ってついでに携帯を2台持っている人物に心当たりはないかを訊いた。
当時は高校生が2台も携帯を持っていることはまず無かった。あり得るとすればPHSとの2台持ち。
だが僕にもウィノナにもそんなことをする必要のある人間は思い当たらなかった。
そもそもウィノナは更に生気を無くし、ベッドから出てくることもなかった。
206:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2017/07/02(日) 01:19:28.76ID:rVCzVabE.net
いいよいいよー
207:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2017/07/02(日) 01:23:47.60ID:p5oa1zTo.net
面白くなってきたー
210:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2017/07/02(日) 01:32:56.92ID:rBxtmIDi.net
水曜日
もはや何をしていいかも分からなくなってしまった。
すべて振り出しか、はじめから意味がなかったのか。
この日も丁寧に3通、3通目は日の変わる丁度直前にメールが来たそうだ。
やはり警察に頼るしかないのか。
気乗りがしなかったが、路頭に迷ってしまった。
211:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2017/07/02(日) 01:34:36.79ID:rBxtmIDi.net
木曜日
軽音楽部の面々がウィノナの御見舞に行くと言い出した。
家までの道のりがしっかりわかんないからあんた案内しなさいよと、マンドリルは僕に言う。
少々まずい。
ウィノナはこの件を隠したがっていたからだ。
授業の資料なんかは俺が届けるしまだ体調が優れないから来週にしたら?などと提案をしてももはや言うことを聞いてはくれなかった。
アユ、マンドリル、サユミちゃん、暇だから行くと言い出したゲイの石原がお見舞希望メンバーだった。
212:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2017/07/02(日) 01:37:11.95ID:rBxtmIDi.net
ウィノナは電話に出ない。
ウィノナが会えないと言ったら或いは電話が繋がらなかったら帰るという前提で彼女らをウィノナの家まで案内することにした。
路線バスでの移動だ。
たまたま下校で乗り合わせたレナちゃんも同行したいと言う。
同じ中学出身だから家も近く、ウィノナ宅は大きな公園を挟んですぐとのことだった。
213:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2017/07/02(日) 01:37:53.54ID:rBxtmIDi.net
ウィノナ宅の呼び鈴を鳴らしても誰も出ない。
妹はおそらく塾で母親は仕事だ。
ウィノナは連絡を取り合う気力もなかったのだろうが、お見舞い組には昨日よく眠れなかったらしいから寝てるかもしれないと伝えた。
よく眠れていないのは昨日だけど事ではないのだが…
214:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2017/07/02(日) 01:44:19.66ID:rBxtmIDi.net
その間、自然な流れでレナちゃん宅にお邪魔することになった。歩いてものの3分だ。
結構立派な和風の家だ。
山本とちょっと見ない感じの楷書体の表札が目についた。
ゲイの石原は旅館かと思ったなどと宣ったが、気持ちは分からなくもなかった。
結構な人数のお見舞い組だったが全員が大手を振って寛いでも余裕のある大きな部屋がレナちゃんの部屋だった。
壁は和風なのに部屋一面におもちゃ箱をぶち撒けたようにキャラクターもののアイテムが配置してあった。
一番印象的だったのはラナバウツのポスター。あれだ、男の子が使う給食袋なんかに描かれていた丸っこいパトカーとか飛行機のキャラクターだ。いや、キャラクターというか顔はないんだけどさ。
217:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2017/07/02(日) 01:52:09.77ID:rBxtmIDi.net
兎に角そのポスターが浮いていたのだが、レナちゃんの不思議系のキャラクターがあってこそ、その違和感に猛烈な説得力がもたらされていたことが印象的だった。
レナちゃんの母親がお菓子と飲み物を持ってきてくれた。
レナちゃんのコップだけケロケロケロッピのキャラクターものだった。
足りなかったわけでもないだろうに、お母さんも不思議な方だなと思った。
きっとお見舞い組全員が思っただろう。
218:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2017/07/02(日) 01:53:39.93ID:rBxtmIDi.net
こんな状況で、丸机を囲みながら僕は結構な窮地であった。
ウィノナって結局風邪なの?
こんな他愛のない質問にもなかなか答えられない。
僕はウィノナに現状と早く電話に出てほしい旨をメールで送っていた。
うん、多分風邪だよなんてお茶を濁していたら僕の携帯が鳴った。
ウィノナからのメールだった。
219:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2017/07/02(日) 01:55:39.96ID:rBxtmIDi.net
“勝手なことをしないで。会いたくないよ。あなたにも。帰って欲しい。”
こんな内容だった。
僕は落胆を隠しつつ
「ダメだ、熱がすごいからうつしちゃいそうだし会わない方がいいって。申し訳ないけど今日は飯でも食って帰ろうか」とお見舞組に伝えた。
彼女ら(1名ゲイだけど)はすごく心配そうな様子で、僕の目には間違いなく完全なる善良な友人たちにしか見えなかった。
レナちゃんの母親にお礼を告げサイゼリヤでご飯を食べて帰ることにした。時刻は19時くらいだったかな。会話はそれほど盛り上がらなかったような気がする。あまり思い出せないのは多分すごく気を使って話をしていたからかな。
マンドリルと僕は帰る方向が同じでみんなと別れた後も帰路につきながらいろいろな話をした。
飯田と喧嘩したとかくだらないことだったと思う。
222:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2017/07/02(日) 02:08:43.30ID:rBxtmIDi.net
すっかりおセンチマンドリルだなと思っていたら急に神妙な面持ちをして僕に詰め寄ってきた。
「何かあったの…? あんた最近落ち着きないよ。ウィノナのことでしょ?風邪よりもひどい病気かなにか?」
なかなか鋭い。野生の勘だろうか。
僕は
「いや、病気じゃないから心配すんな」と答えたんだけど、これがかなり迂闊だった。
「病気じゃないなら何よ!?」
野生の気迫に押されて彼女には何も知らないふりをしてくれと言う約束の上で、経緯を話したんだ。一度行ったことのある喫茶店で話をした。もう営業時間はギリギリだった気がする。
223:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2017/07/02(日) 02:09:41.87ID:rBxtmIDi.net
話を聞く間、マンドリルはずっと怒った顔をしていた。ちなみに僕は心の中でマンドリルと読んでいたが、彼女は公にオコリザルと呼ばれていたことがあった。普通の女子なら怒るだろうところを平然としていたし、僕は度量のでかいサルだと感心したことがあった。
怒りの対象はメールの犯人だ。
相槌なのか怒りの鼻息なのか判然としないがずっと彼女はフンッフンッと言っていた。
さっきサイゼリヤでデザートを食べたのにコーヒーフロートを飲んでいた。
224:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2017/07/02(日) 02:18:06.03ID:rBxtmIDi.net
珍しく口数の少なかった彼女が発したのは「私も協力する」「ウィノナには彼女が話してくれるまで黙っておく」「飯田があんたのこと心配してたから飯田には話してあげて欲しい」
僕は正直、一人で抱えなくて済むんだったらと彼女の提案を歓迎した。
最後に全部聞いた上でマンドリルが怪しいと思う人物は居るか?と確認したが全く見当がつかないとのこと。
実際、携帯を2台持っている人物は学年で6人把握していて、その全てが男女カップルの通話料定額プランのウィルコムだという。
マンドリルも飯田と夜いちゃいちゃと長電話をする為に欲しいから色々話を聞いて回ったから、知っているとのことだったがマンドリルの情報網には本当に凄かった。
マンドリル曰くウィルコムのPHSもメール機能は一応あったがそれをメインの連絡先として使っている人間は知らないとのこと。
携帯2台持ちの可能性もだいぶと薄くなった。
225:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2017/07/02(日) 02:25:40.72ID:rBxtmIDi.net
マンドリルに協力をお願いすることにした。
マンドリル「犯人探しも大事だしウィノナも心配だけどさ。私はあんたが心配。現に顔色悪いよ?」
僕「そうだな。誰かに話すだけでこんなに楽になるんだな。」
マンドリル「だったら何でも話なよ。あんたの恥ずかしいとこはさんざん見てきたわけだし」
飯田はいい彼女を作ったなとしんみり思った。
飯田にはいずれ俺から相談するとも伝えて解散した。
その後何度もウィノナに連絡を試みたが一度もつながることはなかった。
僕は一睡もすることができなかった。
226:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2017/07/02(日) 02:28:31.24ID:rBxtmIDi.net
金曜日を迎えた。
女性というのは往々にして勘が良いのだろうか。
母親は朝食を出しながら顔色が悪いと心配してきた。2日連続顔色を指摘されるとは、多分だいぶやばい色だったんだろう。
僕は何でもないよと応えて、今日は友人の家に外泊することを告げた。
勿論ウィノナと一晩一緒にいる為の嘘である。
母親は顔全面に今にも察してますよと言い出しそうなしたり顔を貼り付けながら着替えを紙袋に詰め込んでくれた。
227:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2017/07/02(日) 02:47:37.26ID:rBxtmIDi.net
お昼休みに飯田を呼び出して昨日の経緯を話した。
春の陽気が心地良い屋上で飯田はお弁当をもぐもぐ頬張りながら聞いてくれた。僕の心はかなり曇天だったけどね。
「俺とマンドリルは何があってもお前の味方やで。俺に関して言えば、困ってるお前を見てられへん。でも人を恨んでも何もええことあれへんからな。人恨むくらいなら俺に愚痴せぇよ」
こんな事を言ってくれた。
つくづく漢らしい奴だ。
この二人にはすごく助けられた。
色々端折っちゃうけど友人の前でガチで泣いたのはこの二人の前だけだ。タイミングを見つけては話を聞いて、すぐ傍にいてくれたんだ。
放課後からお昼の快晴が嘘のような土砂降りになった。
228:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2017/07/02(日) 02:48:26.23ID:rBxtmIDi.net
昨日のメール以来、一度もウィノナとは連絡が繋がらなかったが、取り敢えず家に行けば会えるだろうと授業が終わった瞬間に駆け出した。
彼女宅の呼び鈴を鳴らすと出てきたのは母親だった。
ちょっとリビングに上がってもらえる?
そんなことを言われて少し違和感を覚えた。
口をついて出たのはウィノナは大丈夫ですか?の一言
母親の顔は曇っていた。
229:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2017/07/02(日) 02:49:03.43ID:rBxtmIDi.net
母親曰くは、今朝口論になったとのこと。
昨日、友人たちが折角お見舞いに来たのに断ったこと。一週間も連続で学校を休んだことを揶揄したらしい。
僕は母親を責めたかったが、ただのメールなんかに屈してはそれこそ犯人の思う壺だと言う母親の意思も分からなくはなかった。
その口論でウィノナは家族にすら分かってもらえないと嘆きながら家を飛び出したそうだ。
母親もこの状況に疲れを隠せない様子だった。
僕の知らない間でウィノナは母親にきつく当たったりもしたのだろう。
231:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2017/07/02(日) 02:56:18.50ID:rBxtmIDi.net
現状、父親が仕事終わりに車で探し回っているらしい。
僕にも心当たりの場所はなかったが、いても立ってもいられず探してきますと言い残し家を飛び出した。
僕は昨日から連絡が繋がらなかったからか。それとも彼女が以前割りと簡単に死という言葉を使ったからか、頭からは彼女の自死のイメージが離れなくなっていた。
今となっては人はそんなに簡単に死ねないのだろうと分かる。そもそも本当に自殺する人は唐突だ。死にたいなんて言わない。言えないから死ぬんだ。そう実感したのは大切な友人を一人自殺でなくしたから。でもこれは本件とは関係のない話だから置いておく。
まぁ兎に角、さっきの下りでもあったけど人に話すことは大切だし、人に聞いてもらえること、話したいと思える友人がいること、それはとても大切なことだ。
話がそれてしまってすまない。
兎に角、その時の僕にとっては彼女の死はとてもリアルなものに感じられた。人間の脆さ、危うさを目の当たりにしていたからなんだろうね。
目につく飛び降りられそうな建物に登っては調べる無為な行為をしているうちに僕の携帯が鳴った。
ウィノナからの電話だった。
233:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2017/07/02(日) 03:02:15.10ID:rBxtmIDi.net
「私もう死ぬね。人にこんなに恨まれて耐えられないや。」
嫌な予感が的中した。
慌てるという言葉では形容できない心情、心臓が焼けてしまうんじゃないかってくらいの鼓動、何か言葉を発せねばと思っても喉がぴったりと閉じて喘ぎに近い何かしか出てこなかった。
かなわない相手に対峙した時のベジータみたいな反応をしていたと思う。
「お母さんにもそんなに死にたいなら死ねばいいじゃないって言われたよ。じゃあね。」
それは知らない事実だった。
勿論僕には言えなかっただろう。
いくら衝動的とは言え、実の娘に死ねと言っただなんてね。
彼女は少し声を震わせながら電話を切った。
僕もどうしていいか分からず、土砂降りの雨の中、ただひたすらに泣きながら血眼で無作為に走り回った。
時間は必要だと思う時ほど一瞬で過ぎ去る。
何も出来ぬまま夜の23時を向かえた。
234:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2017/07/02(日) 03:05:00.86ID:K9kcKCwo.net
ワクワクドキドキで寝れないや
238:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2017/07/02(日) 03:11:47.73ID:rBxtmIDi.net
>>234
そうだね。僕もこうして書いていると当時のことが思い出されてなかなか眠れません。
特に死についての具体的なイメージは今でもはっきりと思い出せます。
235:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2017/07/02(日) 03:05:51.95ID:rVCzVabE.net
親方ー空から女の子がー
239:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2017/07/02(日) 03:14:42.63ID:rBxtmIDi.net
>>235
そうだね。
ほんとにそんな状況になると思ってたよ。
たまたま住宅街が近くに見えて、そのどれかの屋上に人影があるんじゃないかってね。
空ほど高くもないしね
237:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2017/07/02(日) 03:10:08.03ID:rBxtmIDi.net
何も言えなかった。
そんな不甲斐なさ。
もしこのまま彼女が死んでしまったなら…
僕が何も言えなかったせいで彼女は死ぬのか?
そんなネガティブな自問自答。
並行してもし死ぬなら自分ならどう死ぬのかも考えた。
首吊り、飛び降り、刃物
真っ暗な空を見上げるたび、息を切らして目を閉じるたび彼女がそれぞれの方法で死んでいくイメージが克明に再生された。
今でもたまに夢に見るくらいの強烈な負のイメージ
241:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2017/07/02(日) 03:25:03.66ID:rBxtmIDi.net
彼女の母親からは何度か連絡があり、父親がまだ彼女を見つけられていないことを聞いた。
僕もまた母親がウィノナに言った死になさいという言葉には思うことがあって、半ば喧嘩腰で話をした。母親はウィノナが死ぬと軽々しく口にすることや被害者とは言え人を巻き込むことに憤っていたが反省はしているようだった。
ただ1日3通だけのメールが一週間。それだけでウィノナ、彼女の家族、僕の心は限界まですり減っていたんだ。
人によっては何ともないのかもしれないね。ウィノナにとっては耐え難いことだったんだろう。彼女の中で増幅された負のイメージがそれに関わる人間まで壊そうとしていたのかも知れない。
僕は母親に警察に連絡してくれと懇願した。
248:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2017/07/02(日) 03:52:21.98ID:rBxtmIDi.net
体力も精神も限界だった。
ウィノナ宅の近くの公園に戻ってきた僕はベンチに寝そべった。星も見えない宙を仰ぐように。
そんな時に僕の携帯が鳴った。
ウィノナからだった。
ほんの少しの安堵と呼応するように雨はやみつつあった。
250:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2017/07/02(日) 04:00:16.85ID:rBxtmIDi.net
死んでなかったってだけでもその瞬間にとっての僕には救いだった。
イメージの暴走が止められなくなっていたから。
僕が口を開くその前に彼女が話した。
「やっと踏ん切りがつきました。今までありがとう。」
おい!!と叫んだその瞬間には電話は切れていた。
電話口に波の音が聞こえた気がして僕は以前彼女と初めてキスをした海岸まで走った。
家から徒歩圏内の海ならあそこしかない。
ここからだと大凡15分くらいの距離だった。
251:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2017/07/02(日) 04:04:07.24ID:rBxtmIDi.net
僕はウィノナの母親に電話をした。
多分何を言っているか分からなかったと思う。
息も切れているし、言葉も出てこない。
ウィノナが死んでしまう、そんな意味合いの言葉を叫び続けていたと思う。
今その状況を文字に起こすと、まるで小学校の教科書に出てきたもちもちの木みたいだね。あれはじいさんが死んでしまうって叫びながら走る話だったと思うけど、まぁ似たようなもんだ。
253:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2017/07/02(日) 04:05:40.05ID:rBxtmIDi.net
浜辺に到着した。
相変わらずぼんやりとした街灯だけがその灰色の海辺を照らしていた。
波打ち際には明かりはなく、殆ど何も見えはしなかったが、何かにすがる思いで堤防から浜に降り立ちそのまま海岸線まで走ってみたんだ。
目を凝らして海を見ると腰くらいの高さまで海水に使ったウィノナを見つけた。
僕はもはや意味も成さない言葉の羅列を叫びながら海の中へ走った。
彼女も取り乱した様子で逃げ出した。
客観的に見るととてもシュールな情景だったと思われるが、本人たちは至って本気だったんだ。
256:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2017/07/02(日) 04:08:45.47ID:rBxtmIDi.net
急に深くなったのか、足を取られたのか彼女が水面に消えた。
よく見えなかったがきっと溺れていた。
手足を振り乱してバシャバシャと水しぶきを上げていたように思う。
やっとのことで追いついたが、僕は割りと身長は高いのでまだ足はつく程度の深さだった。
暴れて死なせて、殺してなどと叫び続ける彼女を羽交い締めにして岸まで連れ戻した。
258:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2017/07/02(日) 04:16:28.71ID:rBxtmIDi.net
彼女は過呼吸に陥っていた。
いくらか海水を飲んだのか、ゲプゲプ言いながら口から水を吐き出したりしていた。背中を叩いて一頻り水を吐かせたら
堤防の一番下の段にとりあえず寝かせて落ち着くのを待った。以前も一度、彼女は過呼吸になったことがあったのでそれで死にはしないことは知っていたけど、見ていられないほどに苦しそうだった。実際多分死ぬほどの苦しみだったんだろう。
限りなく白に近い肌色。
ちょうど明かりが白色灯だったから余計にそう見えたのかもしれない。
それまでに何度か出た葬式で見た死体ですらこんな色はしていなかったと思った。
彼女が制服を着ているところを見ると、母親の意思に応えて一生懸命学校に行こうとしたのだろうと想像した。
彼女の母親に電話して迎えに来てもらうことにした。
259:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2017/07/02(日) 04:19:52.46ID:rBxtmIDi.net
収まりつつある過呼吸の彼女を眺めていた。頭に海藻が付いていた。結構大きめだ。
いつぞや、視聴覚準備室で汗かいて髪がわかめみたいになっていたなぁと思い出した。
あの時は可愛いと思ったが、この薄明かりの中の彼女は正直磯の臭いにまみれていて流石に魅力的には見えなかった。
寧ろ、死のイメージ、死体のイメージ、腐敗のイメージ
大好きな人がまるで目の前で腐っていってしまうような錯覚を覚えていた。
それに追い打ちをかけるように、体勢が苦しそうだったので彼女の体を動かすと背中の下から大量のフナムシが登場した。
現実は必ずドラマのようにはいかないことをこの時初めて知った。
262:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2017/07/02(日) 04:27:40.80ID:rBxtmIDi.net
虚ろな瞳で浅い息を繰り返す彼女を目の前に僕は両手をついて泣いていた。
ドラマみたいに抱きしめたり、愛してるとか叫んだり、何かしら励ましたりそういう事をする気持ちはまるで起きない。
死ななかったとは言え、まるでこのまま彼女が別の物に変わっていってしまうかもしれないっていう恐怖。
もう二度とこの子は笑うことはないかもしれない、そう思った。
もしそうならば僕は結局、彼女を失ったのも同じだから。