C男は女子より酷かった。
顔や腕や胴体など、急に「コイツだけは!」と言わんばかりに腕に掴まれた。
何度叩いても切りがなく、コッチの方が捕まりかけるほうが多くなってくる。
俺らは一度、女子を家の方へと連れて戻ることにした。
両腕を掴んで引きずりながら家でダッシュした。
ただ体に影が付いているのを悟って「ここにおいておくから!」と誰かが叫ぶと、C男の元へ戻った。
その時、人の塊はゴトゴトと動き始めてしまった。
C男の「嫌だああああ!嫌だぁあああ~!ああああ助けて助けて!助けて下さい!」と言う声だけが聞こえてくる。
俺らは迷った。あのままC男を助けるべきか。
そんな時だった。地鳴りのような声で言われた。
「おしい、もう少しだったのに」
複数の低い声をした男が発した声と言えばいいのかな。
その重低音がゴゴゴッと山から響いてきた。
途端、ゴトゴトと何十もの黒い塊が目の前を遮っていった。
それは黒い影に取り憑かれて人が何人も転がって来ていた。
その人達は互いにぶつかると狂った様にお互いを掴み合っていた。
そして狂った声をあげて互いに噛みつき合いながら転がっていく。
もしもC男を追っていたら、あの人たちに体を掴まれていただろうと察した。
腕だけならまだ何とかなるかもしれないが、あんな体全体で飛びつかれ、噛み付かれたら、どうなったか分からない
C男の悲鳴と絶叫が段々と遠くなっていくのを俺たちは聞くことしかできなかった。
巨大な人の塊も、目の前を横ぎった人たちも、姿が見えなくなる。
いつの間にか俺らの体の取り憑いていた黒い影たちも姿を消していた。
雨も止んでいた。
俺らは漠然とした状態でありながらも、家の方へと戻るしかなかった。
C男の悲鳴は聞こえていたが、どうすることもできなかった。
家に入ると山岳姫が「大丈夫?」と声をかけてきた。
俺らは何も答える事ができないまま、黙って座り込んだ。
酷く疲れたし全身が痛かった。
会長「あれ、あの子は?」
助けだしたはずの女子が家の中に居なかった。
山岳姫「えっと……三人が連れ戻したあと姿が消えちゃって……」
他の女子二人も見ていたようで怯えた顔で頷いていたが、
俺らはもう驚くことができなくなり静かに「そうなの」としか言えなかった。
俺「B子さんたちは?」
山岳姫「暴れるの大変だったけど、なんとか……」
B子たちはデタラメな格好で横にされていた。
止めるのが大変だったと乱れたブルーシートとかを見て、確かに暴れたのだろうと感じた。
床のほうも幾つかの場所が抜けていた。
女子達(F美たち)に「何があったの!?」「アレはなんなの!?」と責め寄られたが
俺らは何も答える事できず「うるせー」としか返事しなかった。
被害者面と言うか、助けて助けてアピールする女子に少しイラついていたのかもしれない。
今考えると、それは普通だし仕方がないことなんだが。
またひとりの女子は何も見えていなかったような事を全員に話していた。
その子が言うには突然俺らが騒ぎ始め、B子たちが騒ぎ始め、外で俺らが暴れ始め
いつの間にか助けた女子がいて、でも急に姿が消えて、なんなのと。
確かになんなのと、俺も感じた。
そんな時だった「おーい!みんな!」と外からC男の声が聞こえた。
慌てて俺らは立ち上がり、山岳姫も他の子たちも、窓から外を見た。
そこには救援に向かった時の格好をしたC男と、
「○○山岳会」と墨で書いたはっぴを着る人たちが4人居た。
疑心暗鬼じゃないけど、俺らはC男のことを疑った。
C男「どうしたんだよ?」
救援隊「うん、どうしたんですかー?」
C男「救助隊呼んできたよ!」
会長「お前本当にC男か?さっきお前が変なバケモノに取り憑かれているの見たんだぞ!!」
正確には掴まれていたか呑み込まれていただけど、会長はそう叫んでいた。
C男「なに言っているんだよwお前ら場所移ってたんだな!w」
そう言いながらC男達はドンドン家に近づいてきた。
D男「まて!」
救助隊「ん、なんですか?」
D男「そこで待ってろ。すぐに行くから」
C男「すみません、なんか混乱しているみたいで」と言いながら歩こうとしたら、
D男「だから来るなっつてんだろ!!」とものすごい声で怒鳴り返した。
俺らは「え、行くの?」と話し合っていた。
女子達の方も薄々「C男じゃないんじゃない」と察していたらしい。
でも女子の一人も「もしかして本当なんじゃない?」と言ったが、
山岳姫が「暗い山道を明かりも持たずにやって来れるのよ?」と言った。
そこで改めて全員がゾッとして口を閉ざした。
外ではC男と救助隊の人たちが「すみませんねー」と世間話するかのように話をしている。
会長「……C男とは長い付き合いだから俺が」
D男「いや、俺が行くよ。あれはどう見てもC男に感じられない」
山岳姫「ダメ、みんな行っちゃダメ」
オレ「多分、行かなければアイツら強引にでも入ってくると思う……」
外では苛立った声のC男が「おーい、まだ?」と呼びかけてきていた。
どう考えてもおかしいのだが救助隊の人も「具合悪い人でも居るのですか?そっち行きましょうか?」と聞いてくる。
オレ「とりあえず今あったことをハッキリと伝えよう。地蔵のことも。
で、様子を見るし、それでもダメならどうにかして最初に俺らが救助が本物かどうかを確認してくる」
D男「もしも偽物の俺らが戻ってきてもマズイよな……」
山岳姫「それじゃ合言葉は……さっきの日付で」(合コンの日付
そうして俺らは外に出た。一応手に武器になりそうな物を各々持ちながら
最初にC男が「どうしたんだよww怖い顔をしてww」と明るく話しかけてきた。
確かにそんな感じがC男に似て履いた。
だが、俺らは無視してコッチで何があったのかを説明した。
救助隊らしき人たちも「ああ、地蔵の件は聞いています」と相槌していたが、
黒い影や人の塊、その塊にC男がいた事などは何も言わずに黙って聞いていた。
C男「つまり俺がオバケじゃないかってこと?w」
会長「それ以外にないでしょ?」
救助隊「こんな山の中に居たので気がふれちまったか?」
D男「とにかく、最初に救助隊が本物かどうか調べさせてくれ」
救助隊は俺らが山に入った県の救助隊だと語った。
地名も町の名前も合っていた。
あえて明かりのことは聞かずにどうやってきたのかを、会長が尋ねた。
救助隊「いえ、此処ら辺は遭難すると大抵その家に人が集まりますのでー」
会長「此処ら辺で遭難とかあるのですか?」
救助隊「君らも一応今は遭難者だからね^^」
会長「事前に調べたけど遭難なんて話なかったですが」
救助隊「そりゃ数は少ない」
会長「大抵がその家にあつまるのに数少ない人たちが皆あの家に集まるっておかしくはないですか?」
救助隊「まあ、おかしいですが……」
会長「……とりあえず、他の子たちはどうなったの?」
C男は「保護された」としか話さない。
ちょっと目が泳ぎ始めている。
C男「えっと、だからさ……。とりあえずコッチ来てくれないか?
すぐそこに他の救助隊の人たちも着ているから!」
救助隊「そうです。これ以上迷惑かけるなら山の中に置いていくぞ?」
そういうと他の救助隊の人たちが家へと向かおうとする。
D男と俺で捕まえて突き飛ばす。
温かいし実態はあり変に俺は安心したけど、状況が変過ぎて安心もすぐに消えた。
会長「なら最初に俺らがそこに行きます。その後、本当なら俺らが彼女たちに説明しますので」
少しC男が明るい顔をした。
救助隊は渋々と言った顔だったけど、それを受け入れたようで、俺らを案内し始める。
俺「あの地蔵はなんなのですかね?」
救助隊「いや地元でも聞いたことがないね」
俺「この山には変な話とかあるのですか?」
救助隊「特に聞いたことはないね―」
そんな感じで会話も適当に流されながら俺らは歩いていた。
歩いている間もC男が色々話しかけてくるが、俺らは無視し続けた。
そういう性格なヤツだったけど、もう少し考えて発言するヤツだったのでおかしかった。
D男が「ちょっとおかしくないですか?」と言って全員の足を止めた。
救助隊「なにがおかしいですか?」
D男「ちょっと歩いてみてくださいよ」
救助隊は黙って下を向いた。
D男「いいから歩いてみろよ」
救助隊「……はぁ」
そう言うと救助隊全員の姿が消えた。薄くなっていって消える感じだった。
D男が怒鳴りながら「アイツラ足音を立てていなかった」と言った。
C男は黙ってコッチを見ていた。消えないで。