元店長「それでもさ、なくなっちゃうんだもんね」
俺「いつか、その時がくるとは思っていましたけど、こんなに早くに、その日がやってくるなんて思っていませんでした」
元店長「永遠なんてない。
当たり前のことだし、覚悟はしていたことだけど、
やっぱり悲しいよね。」
元店長「バーチャは、ネットでオンライン対戦もだきるみたいじゃない」
俺「知ってますよ。」
元店長「あれだけやってたんだから、やらないの?」
俺「たしかに、俺もトップ目指してそれなりにやりこんではいましたけど、
結局、最後まで有象無象のイチプレイヤーでしかありませんでした」
俺「バーチャはやっぱり対戦台挟んでやりたいんです。」
元店長「わかるよ」
俺「結局、最後まで、一度もイチバンになれなかったのが悔いが残ります」
元店長「どんなに大雨の時もバーチャやりにきて練習してたもんね」
俺「あの熱はなんだったんですかね。
やんなきゃって言う、変な熱があったんですよ。
朝起きてから、寝るまで。ずっと」
元店長「まだ私も40代半ば、この先どうなるかなんてわからない。
でもさ、スト2に魅せられて足を踏み入れたゲーセン業界に20年いれて、後悔はない。
そらまぁ、世間的に見たらアレな人だと思うよ。
でもさ、本当に熱かった。それをイチバン間近で、
それも、毎日、見られたのは私にとって何物にも変えがたいものだ。
こんな本音、キミらくらいにしか、言えないけどね。
毎日、出勤するのが楽しかった。
仕事が楽しかった。」
俺「…」
元店長「キミらに会うのが楽しかった。
どこからともなく、いつも決まった時間にひとり、
またひとり集まってきて、夜、気がつけば、毎日がお祭り騒ぎだ。」
俺「ははっ」
元店長「最高だったね」
俺「最高でした」
元店長「長くなっちゃったね。じゃあ、そろそろ」
俺「あ、ああ。すみませんでした。つい…」
元店長「じゃあ」
俺「…では」
俺「…」
ふと、サイフの中を見てると
あのときのバーチャカードがはいっていた。
このカードは、ゲームの時に筐体に差し込んで、
勝率等を記録している。
いわば、そのプレイヤーの全て。
俺「まだ、はいったんだ。」
俺「そういや、帰り道にある○○によって見るか、
ひさしぶりにバーチャやりたくなった。」
しかし、やっぱりバーチャ筐体の周りには誰もいない。
それどころか、アーケードゲーム筐体周りに人がいない。
俺「…帰るか。カード、いらねぇから捨てるか。」
その場を離れようとした時、
ピロリン
バーチャの筐体にコインを入れる音がした。
すぐに分かった。
その音だと。
俺は振り返る。
対戦したい。
『ダンッ!ダンッ!』
バーチャのキャラの技音が
誰もいないゲーセンに響き渡る。
プレイヤー名を見ると、
みぃーちゃん…