元店長「もうほとんどバーチャやってないのか。寂しいね」
俺「ですね。閉店後、お店の前でコーヒー飲みながらやった熱いバーチャ談義が懐かしいです」
元店長「俺よりもお店にいたよね」
俺「なんだったんですかね、あの時間は」
俺「バーチャ、本気でやってた全国区のやつらは、東京に出ていきました。」
元店長「そっかぁ」
俺「もうここにはやってやつ、ほとんどいないですもん」
元店長「ゲーセンもなくなっちゃったし、あっても、メダルとかプリクラだもんね」
俺「あの、あのこと覚えてます?今だから言えますけど。あの。」
元店長「え、なんのこと?今更だし、言ってよ」
俺「バーチャ終盤に見せたあの盛り上がり」
元店長「どの盛り上がり?」
俺「あ、言いにくいんですけど、ネットで論争になったじゃないですか、どこどこの誰々が、どこどこの誰々より強い、とか」
元店長「あー、あったね」
俺「ネットで地元バーチャプレイヤー格付けして、大荒れたしたやつ」
元店長「あったあった」
俺「そっから始まって、どこどこのゲーセンより、どこどこのゲーセンの方が強いって煽ったじゃないですか」
元店長「あったね」
俺「更には、どこどこのゲーセンの誰々がこんなこといってる、とか煽ったりして、ネットを通じて、ここらのバーチャプレイヤーたちがざわめき立ちましたよね」
元店長「たしかにあれは変な盛り上がり方したよね」
俺「そんなこと言ってない同士を焚き付けて、本人たちはもちろん、周りも殺気だちましたよね」
元店長「うん、最終的には、うちのお店が地元ナンバーワン決めようってことで、自主的に大会開いたらんだよね」
俺「そうです。あれ、実は、全部俺がやったんですよ」
元店長「え?」
俺「誰々があいつは弱いっていってる、とか。
攻めはうまいけど、防御がザル、だとか。
画面見てないブッパ野郎で、出す技が強いだけ、とか。
あいつは片田舎の猿山の大将だ、とか。」
元店長「うん」
俺「2ちゃんねるで煽ってみたら、思いの外、殺伐として、面白くて。」
元店長「…」
俺「台を挟んでバチバチの地域対抗戦なったりしてるのみて、おもしれぇって」
元店長「…」
俺「俺はどっちかというと、プレイヤーレベル的には中の上、どんなに頑張ってもそこどまりだった。」
俺「みんな殺伐として、潰しあって、ゲーム嫌いになって、いなくなればいいやって思ったんです」
元店長「…」
俺「そのうち、ネットで、誰やねん、煽ってるやつは!ってなって、俺、頭悪いんすけど、悪知恵だけは働くもんで、うちらの地元で一番強いのせいに誘導したんですよ」
元店長「そうだったんだ」
俺「それがうまくいっちゃって。気がつけば、地域を上と下で分けた構図が出来あがったってわけです。」
俺「狭い世界の話なんですけど、お互いに憎しみあって、潰しあって、負けたら引退試合とか仕掛けさせたりして」
元店長「…」
俺「なにやってんですかね。俺。
でも、そんときは真剣にうまいやつはみんないなくなれって思ったんです」