ベートーベン「しかし…いい女だな、あれは」
俺「綾波レイですか?」
ベートーベン「いや」
俺「アスカですか」
ベートーベン「そうだ」
俺「(ベートーベンはアスカ派か…)」
ベートーベン「ジュリエッタを思い出すな…ちょうどあんな感じの女だった」
俺「ジュリエッタ…?恋人ですか」
ベートーベン「ああ。当時私は31歳で向こうは17歳だった」
俺「(ロリコンじゃん…)」
ベートーベン「身分の違いで結局振られたけどな…」
俺「(モテないんだろうな…この人)」
ベートーベン「強気で優雅な女だった…」
俺「(ああ、そうか…さっきの優雅な曲はアスカをイメージしたのか)」
ベートーベン「さて、青い渦はいつでも現れることがわかったし…」
俺「わかりませんよそんなの」
ベートーベン「ちょっと2012年の世界を散歩してみたいんだが」
俺「え?」
ベートーベン「どこか面白いところはないか」
俺「うーん…いいのかな…過去の人間が現代を出歩いて…」
ベートーベン「固いことを言うな」
俺「…じゃあ…秋葉原でも行きますか?」
ベートーベン「アキハバラ?」
俺「というか俺はそこしか遊ぶところ知らないんで…」
ベートーベン「まあどこでもいい。連れて行け」
ベートーベン「…」
俺「あまり電車内でキョロキョロしないでくださいよ」
ベートーベン「英国で蒸気機関車が発明されたという話は聞いていたが…」
俺「これは電気で走るんです。このスマホも昨日のテレビも全部電気ですよ」
ベートーベン「186年も経つとここまで来るんだな」
女「あれー?俺君じゃん」
俺「!」
女「ほら私だよ。同じゼミの」
俺「あ…」
ベートーベン「?」
女「どっか行くの?」
俺「う、うん…ちょっと…」
女「あれ?その外人さんは?」
俺「えーと…その…ドイツから来た留学生…年食ってるけど」
女「へえ。えーと…グ…グーテンターク」
ベートーベン「…」
俺「あ…耳聞こえないんだよこの人」
女「え?そうなんだ…ごめんなさい」
俺「じゃあ…次で乗り換えだから…」
女「あ、うん…じゃあね」
ベートーベン「…」
ベートーベン「お前さっき一人ぼっちって言ってなかったか?」
俺「え?一人ぼっちですよ」
ベートーベン「今の娘と親しげに喋ってたじゃないか」
俺「同じゼミってだけです。あの子は気さくないい子で、誰にでもああなんです」
ベートーベン「そうなのか」
俺「それを友達だなんて勘違いしたら…恥をかくだけだ」
ベートーベン「何が恥だ?」
俺「いいんです。ぼくは三次元なんかに興味ないんです」
ベートーベン「…」
俺「…あ、付きました。秋葉原です」
ベートーベン「凄い人の数だ…まるで謝肉祭だ」
俺「新宿や渋谷はもっと多いですよ」
ベートーベン「うーん…目がチカチカする」
俺「さて、秋葉原といえばメイド喫茶ですけど…」
ベートーベン「どこでもいい。早く落ち着いたところに連れて行け」
俺「まずはちょっとCDショップに寄りませんか」
ベートーベン「CD?なんだそれは」
俺「クラシックコーナー。びっくりしますよ」
ベートーベン「おお…私の肖像画があちこちに…」
俺「これ見てください」
ベートーベン「なんだこれは?」
俺「これはCDっていってこの円盤を装置に入れると音楽が聴けるものなんですが…」
ベートーベン「?」
俺「これがバッハのコーナー。これがモーツァルトのコーナー」
ベートーベン「ほう」
俺「で、ここがベートーベンのコーナー。ほら。ここからここまで全部あなたの曲なんですよ」
ベートーベン「なるほど」
俺「他にも作曲家いるけど桁違いでしょ、量が」
ベートーベン「うむ」
俺「それだけ凄いんですあなたは」
ベートーベン「なるほどな」
俺「(あまりピンと来てないな…)」
ベートーベン「なんだここは?」
俺「ここがメイド喫茶です」
店員「お帰りなさいませー!ご主人様!」
ベートーベン「なんだこの小娘どもは…。きわどい格好をして…」
俺「メイドですよ。あなたの時代にもいたでしょう」
ベートーベン「メイドは普通ばあさんだ」
俺「あ、そうか…」
店員「お待たせしましたー!」
ベートーベン「?」
店員「シロップ入れるんで、ちょうどいい所で『にゃんにゃん』と言ってくださーい」
俺「あ、すいませんこの人耳聞こえないんで…ちょっと待って」
ベートーベン「?」
俺「ちょうどいい所でこういうポーズをとって猫の鳴き真似をするんです」
ベートーベン「何でだ?」
俺「ええと…そういう決まりなんです」
店員「じゃ、入れますねー」
ベートーベン「シャーッ!」
店員「ひっ!」
俺「ちょっと!それ猫の威嚇じゃないですか!」
ベートーベン「私はこういう猫しか知らん」
俺「(…普段よっぽど猫に嫌われてるんだな…)」
ベートーベン「しかし…パンもコーヒーも何もかもうまいなここは」
俺「19世紀のウィーンはそんなに食べ物がまずいんですか?」
ベートーベン「うむ。これに比べると馬の糞だ」
俺「へえ…」
ベートーベン「ああ、でも私の作った魚料理はうまいぞ」
俺「え?ベートーベンさん料理やるんですか」
ベートーベン「そうだ、帰ったら食わせてやろう。この辺りに魚市場はないか?」
俺「いや、ここにはないです…」
ベートーベン「そうか。残念だ」
俺「(予想だけど…絶対まずいに決まってるよ)」
俺「どうですか2012年の世界は…といっても秋葉原だけですけど」
ベートーベン「こんなゴチャゴチャしたところにいて頭が痛くならないか」
俺「ぼっちの僕にはこれが逆に心地いいんですよ」
ベートーベン「ん?あれは…」
俺「?」
ベートーベン「ジュリエッタ…」
俺「え?」
ベートーベン「ジュリエッタだ!」
俺「あ!ちょっと!」
ベートーベン「見ろ、ジュリエッタの彫刻だ」
俺「(なんだ…アスカのフィギュアじゃないか)」
ベートーベン「よくできている…生きているようだ」
俺「ジュリエッタさんとアスカはそんなに似てたんですか」
ベートーベン「ああ…」
俺「あの、よかったら…プレゼントしますよ」
ベートーベン「何?」
俺「せっかく来たんですから、記念に」
ベートーベン「そうか…悪いな」
俺「どれがいいですか」
ベートーベン「これだ」
俺「(げ…グッスマの1/6?高い!)」
ベートーベン「どうした?」
俺「…こっちにしませんか」
ベートーベン「こっちはあまり似ていないんだが…」
俺「ふう…やっと帰ってきた」
ベートーベン「すまんな、こんなに土産を貰って」
俺「(これ大丈夫なのかな…過去に現代のものを持っていって…まあいいか)」
ベートーベン「お前には世話になった。何かやれるものがあればいいんだが…」
俺「いいですよ…気を使わなくて」
ベートーベン「そうか」
俺「(サイン貰おうかと思ったけど…どうせ誰も信じないし言う相手もいないし)」
ベートーベン「ところで…」
俺「え?」
ベートーベン「お前を見ていて一つ不思議に思ったことがある」
俺「なんです」