ベートーベン「友達ってのは別に人間に限った話ではない」
俺「はあ」
ベートーベン「例えば…私にとっては自然が友達だ」
俺「そんなんでいいんですか…」
ベートーベン「いいんだ。私はシラーの詩をそう解釈した」
俺「(勝手な話だな…)」
ベートーベン「だが妻は別だな」
俺「え?」
ベートーベン「妻はちゃんと人間の女じゃないといかん」
俺「(くっ…アニヲタの俺には耳が痛い…)」
俺「ん?待てよ…確かあなたも独身じゃなかったですか?」
ベートーベン「そうだ」
俺「妻どうこう言う権利はないでしょう」
ベートーベン「馬鹿を言え!私はまだ諦めていない」
俺「え?」
ベートーベン「56だがまだまだいつか理想の妻にめぐり会えると思っている」
俺「(…来年死んじゃうのに…)」
ベートーベン「お前も若いうちから諦めるな」
俺「いいんですよ…俺の嫁はエーリカだから」
ベートーベン「エーリカ?」
俺「(あ、しまった…)」
俺「…この娘ですよ」
ベートーベン「何だこれは?絵か?」
俺「まあアニメって言って…。こういう動く絵みたいなものです」
ベートーベン「絵が動くのか。凄いな」
俺「で、この子がエーリカ・ハルトマンって言って…(う…大作曲家相手に何言ってるんだ俺は…)」
ベートーベン「これは人間か?鼻がないようだが」
俺「…まあこういう絵なんですよ。これが僕の嫁みたいなもんです」
ベートーベン「変わってるな」
俺「現代日本じゃわりと普通の話です…」
ベートーベン「何で下着丸出しなんだ?」
俺「いやそれは下着じゃなくて…まあいいや」
ベートーベン「?」
俺「(そうだ、ドイツ語字幕のアニメ何かなかったな…)」
俺「あ、エヴァがあった」
ベートーベン「ん?」
俺「これ…もしよかったら作曲中の気分転換に見ててください」
ベートーベン「何だこれは?」
俺「エヴァンゲリオンっていう…まあドイツ語字幕付いてるんでわかると思います」
ベートーベン「ほう」
俺「これ、全26話まであるんで…」
ベートーヴェン「凄いな。本当に絵が動くとは…」
俺「じゃ、俺大学行ってくるんで…」
ベートーベン「…」
俺「(めっちゃ見てる…)」
俺「(はあ…大学終わった…)」
俺「(きょうも安定のぼっちだった)」
俺「(家にあのベートーベンがいるってのに自慢する相手もいない…)」
俺「(…まあ言ったところで痛い奴扱いされるだけか)」
俺「(作曲終わったかな…)」
俺「ただいま…」
俺「ん?全然進んでない…」
俺「げっ!まだエヴァ見てる!」
ベートーベン「…」
俺「ちょっとベートーベンさん!作曲は?」
ベートーベン「邪魔だ、あっちへ行け!」
俺「(超ハマってるよ…)」
俺「(もう夜の11時なのにまだ見てる…)」
ベートーベン「…」
俺「あのー、俺もう寝ますからね」
ベートーベン「…」
俺「(26話全部見る気か…?)」
ベートーベン「…」
俺「あ、そうだ…パン買って来たんでここ置いときますね」
ベートーベン「…」
俺「(…寝よう)」
ベートーベン「…」
俺「ふああ…よく寝た」
ベートーベン「zzzzz」
俺「あ、ベートーベンさん…寝てる」
ベートーベン「zzzzz」
俺「結局エヴァ全部見たのか…」
ベートーベン「zzzzz」
俺「ん?」
ベートーベン「zzzzz」
俺「げ…曲が書いてある!」
ベートーベン「zzzzz」
俺「すげえ…いつの間に…」
ベートーベン「ん…うむ…」
俺「あ…おはようございます」
ベートーベン「ふああ…よく寝た」
俺「曲できたんですね」
ベートーベン「いや、こいつは叩き台だ。これから推敲するんだ」
俺「へえ…」
ベートーベン「モーツァルトと違って何度も書き直す。それが私の作曲法だ」
俺「エヴァはどうでしたか」
ベートーベン「いやあ、凄いものを見た。見終わって曲想が浮かんで一気に書き上げた」
俺「ああそうだ、最後カヲル君が歌ってたのは第九なんですよ」
ベートーベン「そうなのか?」
俺「リリン(人類)の生み出した文化の極みって紹介されてます」
ベートーベン「そうか…今ほど耳が聞こえないことを恨んだことはない」
俺「大げさだなあ…ちなみに今これ書いたのなんて曲ですか」
ベートーベン「弦楽四重奏曲第16番の第1楽章にする予定だ」
俺「(弦楽四重奏曲第16番第1楽章…youtubeで聴いてみるか)」
俺「(…優雅な曲だな)」
俺「(やっぱすごいなこの人…一晩でこれを)」
俺「(しかしこの曲が俺の部屋でエヴァ見て作られたとは…世界中の誰一人知る由もないだろう)」
俺「そういえば…例の青い渦は現れませんでしたか」
ベートーベン「いや、昨夜2回ほど現れた」
俺「え!?」
ベートーベン「エヴァンゲリオンを見たかったんで放っておいた」
俺「…」
ベートーベン「まあ、また現れるだろ」
俺「(めちゃくちゃだよこの人…)」