「とにかくさ、お前が行きたいって言った理由の一つは潰したよ。あそこに綺麗な部屋なんか無い」
「つかおかしいんだよ、あんなところに病院がある事自体。この辺に俺たちの団地以外住宅は無いじゃん?ほんの数十年前に山を切り開いて、ベッドタウンにしたわけだ。トンネルだってそうだろ。どのタイミングで病院が建って、いつの間に廃墟になるの?あんなとこに、だれがはるばる診察に行ってたんだよ」
Aが興奮気味になってきた。
「正直、行きたく無い。いまんとこ俺たちには何も無いし、直接は気味悪い部屋見ただけだから良いけど……。別に死ぬのはあんまり怖くないし。でもあそこで死ぬのは絶っ対……嫌」
自分でもどうしたいのかわからなくなっていた。
「ぁ、へんな金髪野郎!」Sが入ってきた。本当に偶然今来たらしい。
「おっきくなったなぁー。つか、よく覚えてんなw」少し場が和んだ。
Sは今高校生で、えらくポップでおしゃれになっていた。
「あそこ行こうとしてんでしょ?やめときなよ」
急に真顔になって、ベッドに座り込む。
「あたしたちは普通なの。特別でも何でも無い、もうほんとに普通。『何者か』ではないの。Aはたまたまタイミングを外したから無事なだけ。つか、連れて帰ってきたら家いれないよ。洋画に出てくる様な、陽気な黒人ポジションには立てないのよ。絶対すぐしんじゃう」
妙に説得力があった。
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