64: 名も無き被検体774号+ 2014/03/12(水) 08:59:09.20 ID:zSMs1Lti0
最後に、先生のことについて書いておかねばなるまい。
高校を卒業したその日、一年以上ぶりに、僕は先生の部屋を訪ねた。
正確に言えば『先生の部屋だった部屋』だ。
当然僕は、先生がどこかに越してしまったことなどその日までまったく知らなかったのだけど、しかし、不思議と驚きはしなかった。
かわってしまった手書き表札には、少し寂しさを覚えたけれど、まあ、それくらいだ。
だから僕が、本当に久しぶりに先生の筆跡を目の当たりにするのは、それからだいたい二年後のことである。
大学で講義を終えて家に入る前に、郵便受けを覗いた。
別に、毎日そんなことをする習慣があったというわけじゃない。その日はたまたまだ。
長四型の白い封筒が入っていた。差出人名を見たとき、僕は一瞬、それがだれだか思い出せなかった。
考えてみれば、教師のフルネームというのはどうにも耳に馴染まないところがある。
丁寧に綴られた宛名を、しばらく見つめていた。
開封するために、カッターナイフを持ち出したところまではいったのだけれど。
結局僕は、それを開けないままにして、ゴミ箱に捨ててしまった。
その宛名が、万年筆で書かれたもののように見えたからだ。
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