31: 名も無き被検体774号+ 2014/03/12(水) 07:47:19.60 ID:zSMs1Lti0
それから僕はひとしきり、彼の手柄話に聞き入っていた。
彼は何度も、その不登校児の家に足を運んだらしい。
僕が同行したのは、何十回もの訪問のうちの、たった一回だったというわけだ。知らなかった。中学時代はそこそこに仲が良かったと思っている間柄だが、しかしそれでも、知らなかった。
彼はそういう話を、僕にしなかったのだ。かの同行に際したその一回きり以外、彼は僕に助けを求めなかったのだ。なんで言ってくれなかったんだ水くさい、と彼を責める気にはならなかった。
心中で彼を冷笑していた僕には、当然そんな資格などない。
それに、当時の彼の気持ちが、僕にはなんとなくわかるのだ。
彼は何度も、その不登校児の家に足を運んだらしい。
僕が同行したのは、何十回もの訪問のうちの、たった一回だったというわけだ。知らなかった。中学時代はそこそこに仲が良かったと思っている間柄だが、しかしそれでも、知らなかった。
彼はそういう話を、僕にしなかったのだ。かの同行に際したその一回きり以外、彼は僕に助けを求めなかったのだ。なんで言ってくれなかったんだ水くさい、と彼を責める気にはならなかった。
心中で彼を冷笑していた僕には、当然そんな資格などない。
それに、当時の彼の気持ちが、僕にはなんとなくわかるのだ。
檻に閉じ込めた子猫を、たった一人で世話するときのあの昂揚感。あれに似ている。
加えて言うならば、暗い気持ちを抱えた人間が、徐々に心を開いていくのを間近で見た時の、背徳感。
そしてなにより、弱り切った大切なひとを、むやみやたらに他人と関わらせたくないという、ねじまがった独占欲。
それにしたって、彼は立派だ。
こっちが目を細めてしまうくらいには、高尚な人間だ。
今、立ち直った不登校児が、どこでどうやり直しをしているのか。
それをこんな風に、心底嬉しそうに話せるのだ。
なにを思って、なにを感じて、不登校の彼に手を差し伸べていたのかなんて、どうでもいいじゃないか。
すごいだろう、と彼は言った。
すごいと思う。そうやって誇るだけの価値が、お前にはある。
不登校児のことは、まあ、どうだっていいよ。
だけどお前は、なんと素晴らしい。素晴らしいじゃないか。
僕はお前のようになれる気がしない。
僕はお前のようになりたいと、思えないんだ。心から。
旧友と別れてショッピングモールを出ると雨が降っていた。
傘は、どこかに置き忘れてきていた。
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