会長と山岳姫は「他の木も見てみる」と言って、結構な周囲の木を確認しに行った。
俺は絶対にその話を皆にするなと言われて、皆の元へ帰された。
D男は事態を察していたのか「お前呼ばれているんじゃね?気をつけろ」と背中をパンパンと叩き、俺の近くに居てくれることになった。
俺はウエットティッシュ(もしかしたら弁当用のおしぼり)で
指先をふきとりあえず綺麗にした。爪の間には血は入り込んでいなかった。
と言うか血だとは思うのだけど、サラッと拭き取れた。
その後、心配してくれた女子部員さんが二人ほど来てくれて、サンドイッチをくれたりした。
たぶん気分を紛らわすためだけど、サークルの話とかをしていた。
B子は落ち着いたらしく眠りについていて、今は他の三人が様子を見ているらしい。
何度かコッチに来た子が「さっき変なの見えたのですけどー」と、明らかに探るような笑顔で訪ねてきたが、
俺もD男も「いや見てないなぁ……」「俺はぼーっとしてて」と言って誤魔化した。
会長と山岳姫は結構な本数の木を確認していて、時々木の前に止まって見上げたりしていた。
多分10本以上は見上げていたと思う。
そんな感じで時間を過ごしていると、遠くの方で雷が鳴った。
少し寒くなってきて本能的に「雨がふる」と感じた。
天気予報では当分晴れが続く筈だし霧もなかった筈なのに。
山岳姫と会長は走って戻ってくる。
山岳姫「雨が振りそうだから皆カッパ着て!」
だが、カッパを持ってきているのは会長・俺・D男と山岳姫と他二人。
会長と俺とD男に山岳姫はカッパを持ってきていない人たちに渡した。
B子も持ってきていなかった。
カッパを着なかった俺らはブルーシートで凌ごうと言う話になり、
そうしていると遠くで雨が降る音が聞こえてきた。
カッパを着ているが、一応B子に雨が当たらない様にとブルーシートを屋根代わりにカッパ着た女子たちが端を持って立つ。
カッパ着ない組の俺らは、B子の近くから少し離れた所でブルーシートを掲げて雨をまった。
すぐに雨が降り始め、雷が鳴る度に女子のほうでは「キャーっ!」と悲鳴が上がっていた。
俺らの方は残念ながら余裕でビショビショになっていた。
ごめん、女子達立ってないわ。しゃがんで姿勢低くしていたわ。
山岳姫「このままじゃもっと濡れちゃうからテントみたいにしましょう」
俺らは横で屋根を作っている女子たちに申し訳なさそうに言いながら
四人で隅を持ち、ブルーシートの中心に登山用の杖を四本指して、
自分たちを包み込むようにブルーシートの中に入る。
説明が下手だけど、なんて言えばいいのかな内側に折り込む?なんかちがうな。
まあとにかく濡れない感じかつ外に声が聞こえない感じになった
生乾きの匂いとジメッとはしているが熱くない空間が広がっていた。
山岳姫「オナラしたらソイツ外につき出すからね」
山岳姫の言葉に俺とD男の緊張が吹き飛び思わず噴出す。
ただすぐにそんな空気も薄れていってしまった。
D男「……遅いよな、C男たち」
山岳姫「……言いたくなかったけど、そうよね」
俺「何事もなければいいなぁ……」
会長「俺君、馬鹿なこと言っちゃだめさ……」
外の様子は見えないが、外では女子達がキャッキャしていた。
山岳姫「最悪、Bさんを背負って私達が助けを求めに行く必要あるかもね」
俺「なんでそれが最悪なのですか?」
山岳姫「うーん……、何かあったりしたらね」
何か理屈で説明されたけど、とにかく無闇矢鱈と動くのは危険だと言うことだった
俺「それで木の様子を見て来たのですよね?」
会長「うん……俺君が見つけた木の他にも結構あったね」
山岳姫「私の見立てだと、小動物とか……と思いたいけど、
俺君の話聞いたらそう見えてきてね……でも尋常じゃないよ、あんな感じなの」
D男「他の奴らもいい加減気が付いているんじゃね?
何人か小さい声でキャって言っていたしさ」
俺「害があるのかな……」
D男「どうかな。もしもアレがさっきの地蔵みたいな奴と関係しているなら、
B子は地蔵を踏みつけたから、ああなったんじゃね?
面白がって他の地蔵を起き上がらせた俺らも、俺らなんだけど……」
山岳姫「そんな事言ったら、私なんか内心ふざけるな!って思って
思っきり蹴飛ばしちゃっていたしさ……、他の子も何人も踏んでいると思うよ」
俺「そう言えばC男のやつ、小さい地蔵投げてなかった?」
空気が重くなった。今の話の流れでその事を思い出したのを俺は後悔した。
しばらく雨がブルーシートを叩く音と、隣で女子達が恋話(B子を交えて)しているのを聞いていた。
D男「ちなみに霊感あるやつ居る?俺は親父の実家が寺なんだけど……」
突然言い出した。
山岳姫「私は家が神社なので……少しはあると思います」
会長は合コンの話を思い出し俺を指さして「俺君と俺は自称霊感アリだったっけ?」と
ちなみに会長と俺は今までネタで言っていたと白状した。
D男「C男のやつはオヤジがキリスト系の神父だろ、確か」
山岳姫「そう言っていましたね……、だから地蔵の所は通りたくないと言ってました」
D男「それでさ、今回のこの騒動なんだと思う?俺は物の怪かな」
山岳姫「私は罰当たりしたんじゃないかと……」
その後二人はアレコレと話をしていた。
あの地蔵地帯はなんだって話が主だったけど、祠や誰かが放置したやつ、
山の神様だったのでは?昔村があった場所?修行場?とか
、ヒートアップしていたが、話に決着することなかった。
でもふたりとも怪奇の線を疑っていた。
会長「今日助けに来ることがなかったら……あそこで一晩を明かす必要あるかな」
山岳姫「さっき見つけた廃墟ですか?」
言うに二人で木の様子を確認していた時、ここからちょっと言った所に建物が見えたらしい。
それは見るからに廃墟の家っぽいと言うこと。
雨は強さを増し強くブルーシートに当っていた
外で話している女子たちの会話すら聞こえないほどに。
その後はダンダンと会話が途切れて終わった。
俺らがしゃがみこんで俯いていた。
もしかしたらD男と山岳姫は寝ていたかもしれない。
突然バシャバシャとブルーシートを叩かれ
「山岳姫さん!会長さん!D男さん!俺さん」と言われた。
俺らは慌ててブルーシートをめくり何事かと顔を出した。
血相を変えた様子で、山岳部員で俺が気になっていたF美ちゃんが立っていた。
F美「G子とH美ちゃんが倒れたんです!」
見ればB子の他にカッパを着た女子が二人倒れている。
その顔がB子のあの足と同じように腐った豚の色になっていた。
山岳姫「なにがあったの!?」と取り乱しながら駆け寄る。
F美「急になんか訳の分からない事を呟いたと思ったら倒れて、
どんどん顔が変な色になっていって!それで!」
顔をグチャグチャにしながらF美ちゃんは泣いていた。
その時、すぐ近くで雷が落ちたんじゃないかというほどの雷鳴が響いた。
一気にパニックになる女子達。
会長が山岳姫に「雨を凌ごう。此処を離れよう」と訴えかけた。
すぐに山岳姫は皆に廃墟の事を説明、全員何も言うことなく返事をした。
その間に会長の指示で俺らはバックからビニールテープを取り出し、適当な木に結びつけて、それを動ける女子に渡した。
俺らが持っていた荷物は往復して取りに行くことにして、
男たちで女子を背負い廃墟で駆け足で向かう。
山岳姫の声と雷がとにかく俺らを追い立てていた。
それに話し声がほぼ全部絶叫に近かったの思い出した……