378:1@\(^o^)/: 2016/08/17(水) 19:06:00.33ID:MBngfG+d.net
俺はあわてて追いかけてそのままよく利用していた、年中無休で24時間営業の
安くてまずくて便利で有名な居酒屋に連れて行ってくれた。消毒って酒のことか。
そこにはいつも、店の名前で入れてある安焼酎のガロンボトルがあった。
ボトルのネームには、店の名前と共に「LOVE IS LIFE」と書かれていた。
アースウィンド&ファイアのファーストシングル。店長の趣味だ。
「今日は、店長のツケでいいそうだ。好きなもの頼め」彼はにかっと笑い言ってくれた。
さっき、サンドウィッチを食べたのに、その顔をみたら急に食えそうな気持になった。
その日は、失ったものを全て取り戻すかのごとく、食って、飲んだ。
体中にまだ若い、でもちょっとだけ不健康な血液がめぐるのがわかった。
完全に俺は出来上がっていたが、トモさんは2軒目に俺を連れて行った。
そこには、バイト先の店長がいた。名前をシマさんとしよう。
いつもポマードで頭をオールバックにして、ブレイクダンスが上手な遊び人。
彼が躍るといつも俺は目を丸くして、一体関節が何個あるのだろうと不思議に思った。
379:1@\(^o^)/: 2016/08/17(水) 19:08:33.58ID:MBngfG+d.net
そこは店長の友人のマスターがやっているオーセンティックなバーだった。
知らずに座ったら、大学生ではとてもじゃないが払えないようなお店。
それでも、今日は日曜日。店は休みのはずだ。
「今日は、お前らと飲もうと思って、開けてもらったんだよ」とシマさん。
「アンタが俺と飲みたかっただけでしょ?あ、鍵閉めちゃって。」とマスター。
高そうなバーボンのボトルから、細長いぴかぴかのグラスに琥珀色の液体が注がれる。
その場にいる全員分。4本のショットグラスが薄暗い照明に浮かび上がる。
「よし、吐くまで飲め!」シマさんが号令をかけた。
グラスを合わせ、俺はいつも店でテキーラショットをやるように一気飲みする。
焼けつくような、生暖かい液体が喉を通る。…くそ強い。胃がぽっと熱くなる。
周りを見ると、一気したのは俺だけだった。
そればかりか、皆、肩を震わせて笑いを押し殺している。
「おまえ、それ50度だぞwこういうのはちびちび飲むんだよ。ほれ、水。」
シマさんがこらえきれない、といった顔で俺に教えてくれた。
マスターとトモさんもそれを聞いて爆笑している。
吐くまで飲めっていったのアンタじゃないか。だましやがったな。
俺はそう思ったが、何故かそこに深い愛情を感じた。
380:1@\(^o^)/: 2016/08/17(水) 19:11:09.83ID:MBngfG+d.net
場は一気に和んだ。しばらくはいつものようなバカ騒ぎが続いた。
俺はこのとき久しぶりに腹を抱えて笑った。そして色々な話をした。
店の事、お客の事。学校の事。バンドの事。
そして話はいつしかヨーコと親父の話まで。
そのあたりになると、皆、黙って俺の話を聞いてくれた。
マスターなんて、いい年こいて一緒に涙まで流してくれた。
後で聞いたら泣き上戸で有名だったようだけど。
俺は、大人にも色々な種類がいることをこの時に思い知った。
荒れて学校に行かなくなった俺を、保身のために放っておいた「ふつうの」大人。
ぶっきらぼうで荒いけど、優しく受け止めて励ましてくれる「ふつうじゃない」大人。
俺は思った。幸福はまだ全部逃げちゃいない。まだ若くて弱くてバカだけど、
最後のひと粒がなくなるまであがくことで、どんな大人になるかが決定すると。
この後の記憶は無い。気が付いたらトモさんのベッドの上で寝ていた。
彼は逆に、ソファーで。悪いことをしてしまった。
どこでぶつけたのか俺は尻に大きなあざを作っていた。
どうやらずいぶんやらかしちまったらしい。二日酔で頭もガンガンする。
381:1@\(^o^)/: 2016/08/17(水) 19:15:33.16ID:MBngfG+d.net
トモさんも、目を覚ました。そして俺にタオルを渡すと、
「風呂入れ、行くぞ」と。え?どこに?俺はきょとんとした。
「バイトだよ。欠勤は許さない。」彼も青い顔をしていたが、そういって笑った。
その日から俺は通常運航に戻れた。店に行くとシマさんはけろっとしていた。化け物だ。
彼からは、酒の飲み方、ダンス、そしてDJのやりかたから嫌らしくない女のケツの
触り方まで、様々なことをこれから学ぶことになる。
俺はこの街のこの店で、社会に出てから武器になる全てを授かった。
大学での知識よりも遥かにその存在は大きい。彼らには本当に感謝をしている。
バイトもバンドも学校も。めまぐるしく時間は過ぎる。
俺はヨーコの事を忘れるためにも忙しさに自分をおしこめた。
ひとりで暇にしているとロクな事は考えない。
頑張った、とは少し違うが、若さにまかせて殆ど眠らずに過ごした。
383:1@\(^o^)/: 2016/08/17(水) 19:16:39.91ID:MBngfG+d.net
書きダメはここまで。
次号
「2人目の彼女」
またあとできます。
読んでくれた方、みなにありがとうを。
389:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2016/08/17(水) 21:00:28.49ID:PWIy2t60.net
気がはやいかもやけど、全部終わったら質問タイムよろしくな
あんたの書く文章、好きだわ
390:1@\(^o^)/: 2016/08/17(水) 21:04:52.66ID:MBngfG+d.net
>>389
そういってくれると、とてもうれしいよ。
質問タイムか。あと1日程度で終わりたいと思う。
その後に、いくらでも時間が許す限りな。
394:1@\(^o^)/: 2016/08/17(水) 21:49:40.19ID:MBngfG+d.net
親父の手術も無事終わり、安定期に入って俺は安心して過ごすことが出来ていた。
彼は背中からざっくりと手術痕を残してはいたが一旦は退院して復職も果たした。
そんなとき唐突に俺はまた、恋に落ちることになる。
大学のある街で強く印象に残っているもう一人の彼女だ。
彼女は、俺バイトしていた店に平日友人とふたりでひょっこりやってきた。
クラブと言っても、週末以外はそんなに人はいないから、バーのような形での
営業をしていた。イスやテーブルを出し、簡単なつまみも出せる。
彼女の名前はミヤとしよう。友人はそれ以来会ってないから名無しでいいと思う。
ミヤは、童顔で背も小さいのに、大きなギターケースを背負っていた。
どうみても、バンドガール。興味をひかれた俺は、声をかけた。
話をしてみると、共通の知り合いがたくさんいることが分かった。
俺と同じ学校のヨウジの事も顔だけは知っていると言った。俺のバンドの事も。
しかも得物は俺と同じ、ベースギターだった。
その話をすると、彼女も俺に興味を持ってくれたようだった。
395:1@\(^o^)/: 2016/08/17(水) 21:52:08.87ID:MBngfG+d.net
彼女は、その外見に見合わず、俺のひとつ年上だった。
俺は気のいい店員として、彼女たちにできる限りのサービスをした。
といっても、好きなバンドを聞いてリクエストの曲をかけてあげた程度。
平日のこの時間に若い女の子達が来てくれて、店長のシマさんも嬉しそうだった。
俺はその日、礼の代わりに彼女のバンドのライブのチラシを貰った。
同じ街にある、50人も入ればいっぱいの小さなライブハウス。
何回か、大学の先輩たちのライブで使ったこともあった。
ライブは、2週間後だった。出番は金曜の夜8時。
俺はその日バイトがあったが、客が集まる始める時間よりは早かったので
店長のシマさんに頼み込んで少し中抜けさせてもらうことにした。
トモさんにもシマさんにも、十分に冷やかされた。
でも浮かれ始めていた俺には効かなかった。
バンド関係で女の子もいるにはいたが、だいたいがキツめの子が多かった。
パンクで、可愛らしいなんて当時珍しかったんだ。
396:1@\(^o^)/: 2016/08/17(水) 21:53:41.60ID:MBngfG+d.net
当日、俺が外出を許されたのは2時間。夜の10時までには店に帰らなければならない。
いつも週末は11時には客でいっぱいになってしまうから。
俺がそのライブハウスへ行くと、彼女のバンドがすでにマイクチェックをしていた。
純粋なスリーピースバンド。メインヴォーカルはギターの女の子で、ベースの彼女は
サポートヴォーカル。3人とも可愛らしかった。でもミヤが一番な。
客の中には、やはり何人か顔見知りがいた。ヨウジも。
クラブのバイトを始めてからあまりバンド関係に顔を出す時間がなかったから、
ちょうどいい機会だと思って、ビールを買って一回り挨拶を交わした。
大体入りは30人ちょっとというところか。
ギターのつんざくような轟音が鳴り響く。顔に似合わず激しい音を出した。
続いてベースとドラムが乗る。ジャンルで言うと、ガレージパンクかな。
ギィィーーーン…ディストーションのかかった残響音が落ち着いたそのとき。
397:1@\(^o^)/: 2016/08/17(水) 21:55:44.18ID:MBngfG+d.net
「SXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXx!!!!!」
俺は茫然とした。放送禁止用語の嵐。あんなに可愛い顔してるのに。
瞬間的にモッシュが起こる。客の殆どは男だったが、なかなかの人気者だったようだ。
ほんの数分で汗だくになる。とにかく彼女のバンドは面白かった。
このギャップ。これは男にはできない。
彼女の出番が終わり、俺は汗を拭く間もなく話しかけた。
「すげぇ楽しかった!!」正直な感想だ。
彼女はきらきらと額に汗をにじませ、笑って言った。
「引かなかった?」と。
「いや、ウケた。」と俺は返した。爆笑した。
398:1@\(^o^)/: 2016/08/17(水) 21:57:11.90ID:MBngfG+d.net
演奏は下手くそ(俺もだが)だったが、それがまたよかった。
何より、去年女性の暗部に触れてしまった俺にとってはセンセーショナルだった。
明るく、可愛く、ぶっ飛んでる。
今迄にいないタイプ。俺はすぐに彼女の事が好きになった。
おかげでその日は遅刻してしまい、だいぶ絞られたのだけど。
ライブの日に俺は彼女と電話番号を交換していたから、翌日電話をかけた。
その日のうちに、デートすることが決まった。
彼女は、俺の住んでいるアパートから歩いて5分くらいの実家に住んでいたから。
僥倖。棚から牡丹餅。そう思った。久しぶりに、神様ありがとうと。
デートと言っても、特に何をしたというわけでもない。
電話代がもったいないからという理由で近くの河原でたわいもないおしゃべり。
俺のバイトまでの数時間を、音楽の話をして過ごした。心地いい適度な距離感。
ちょうどお互い付き合っている相手がいないとわかったあたりでその日は解散。
399:1@\(^o^)/: 2016/08/17(水) 21:58:13.03ID:MBngfG+d.net
翌週、学校でヨウジがニヤニヤしながら近づいてきた。
こいつは笑うとにゅっと歯が前に出る。ちょっと気持ち悪い。
「君、正座ね」なんだ急にこいつは。
「君は、この街のロック界すべての男を敵にまわしたのだよ」話が見えませんが。
つまりこういう事。前から人気のあった彼女は先月、彼氏と別れたばかり。
その偶然ぽっかりと空いた穴を、皆がまごまごしているうちに俺がかっさらった。
…しらんがな。
すぐに彼女は俺の部屋に上がりこむようになった。
近かったし、CDもたくさん持っていたから。半分はヨウジのだったけど。
でも俺はすぐには手を出さなかった。
ヨーコの事で、臆病になっていたのかもしれない。
久しぶりに感じる、自然な恋心。中学生に戻ったみたいだった。
それに彼女はまるで少年みたいで、話をしているだけで満足できたんだ。
話が盛り上がると、お約束のようにハイタッチをした。
恋人になるまえにまず、俺たちは親友になった。
400:1@\(^o^)/: 2016/08/17(水) 22:00:47.47ID:MBngfG+d.net
初めてのキスは、あの河原だった。出会ってふた月ほどはたっていたかな。
俺とミヤは二人で石きりをしていた。なるべくひらべったい石を選ぶのがコツだ。
ふたりで無邪気に遊ぶ。夕暮れが来る。帰ろうとしたときに偶然、手が触れた。
俺はそのまま彼女の手を取って土手を歩き始めた。
ずっとそうしていたかのようにふたりで手を繋ぎ、目が合えば笑いあった。
そして、別れ際にチュっと軽いキス。
男女のドロドロに疲れ切っていた俺は、この時完全に癒された。
過剰な照れもなく、過剰な緊張もなく。
すべてが適度で、自然だった。
彼女が初めて俺のうちに泊まった時も、不思議とお互い裸になってから
笑ってしまった。くすぐりあうような、可愛いセ●クス。
それは性的な行為と言うよりも、子猫同士のじゃれあいみたいなものだった。
401:1@\(^o^)/: 2016/08/17(水) 22:02:15.05ID:MBngfG+d.net
俺は初めて、付き合っている女性の両親にも会った。
そういえば彼女の親父さんも、なかなかにファンキーだったよ。
サラブレッドって中には本当にいるんだよな。
60年代、70年代と、長髪でパンタロンを履いていたような、猛者だった。
ゆるゆると、時間は流れる。何のストレスもない毎日に突然それは起きてしまった。
俺の親父のガンが、再発したのだった。
体中にそれは転移し、亡くなるまではあっという間だった。
俺が大学4年生の、またくそ暑い真夏の事だった。
かろうじて、死に目には会えた。
親父は抗がん剤の副作用で禿げ上がり、がりがりに痩せていた。
でもむくみがひどく体の水分が代謝されないので、もものあたりは
たぷんたぷんになっていた。
この辺りは、あまり描写したくない。
とにかくその時は来た。
その後初七日がすむまで、システマチックにすべてが過ぎ去る。
仏教ってすごいよね。悲しみを分散するシステムが出来上がってる。