442:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2015/11/11(水) 01:13:02.11ID:FIjH66ty.net
俺の奈央頑張れー!
443:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2015/11/11(水) 01:19:56.54ID:aBM5I//F.net
ごめんそれ俺の
459:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/11/13(金) 02:07:26.27ID:Rs/OBWCe.net
俺がそれを気にかけていると、例の2年生の千景ちゃんに声をかけられた。
千景「1さんは、花火見に行くんですか!」
俺「え、花火って?」
千景「今日、すぐそこで花火大会があるんですよ。知らないんですか?」
そういえば、おばさんからちらっと聞いていた気がする。
あの家の庭からも見れるんだ、ということを話していた。
460:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/11/13(金) 02:08:49.81ID:Rs/OBWCe.net
俺「花火大会って、今日なんだね」
千景「そうですよ!2年はみんなで行くかもなんです」
そう言っていると、他の2年生の子たちも寄ってきて、
「なになに花火?」「でも今日雨降るらしいよー」と話が膨らんでいった。
俺には、なんだかその千景ちゃんの様子が、
無理矢理にこの場の雰囲気を和ませようとしているようにも見えた。
慣例であるレギュラーメンバーの試合形式の練習になっても、
奈央の様子が変わることは一向になかった。
それと比例して、チームの調子もどんどん下向いているような気がした。
俺にはどうしたらいいか分かるはずもなく、
ただ外野から励ますことしかできなかった。
461:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/11/13(金) 02:10:15.81ID:Rs/OBWCe.net
楽しかったはずのバレー。こんな時、どうすればいいんだっけ。
俺は、自分の経験を手繰り寄せて考えていた。
でも、俺が今のケガ以外でバレーに手がつかなくなったことはなかった。
だから、奈央の気持ちが分からない。
どうしたらいいのか、全然分からなかった。
462:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/11/13(金) 02:13:44.22ID:Rs/OBWCe.net
一生懸命の奈央。バレーが好きな奈央。
俺にもう一度バレーと向き合うきっかけをくれた奈央。
どうにかして助けてやりたい。
でも今の俺には、それに気づいてあげられるだけの力も、経験もないのだ。
部活のコーチだなんて息巻いて、こんな時助けてやれないんじゃ、何の意味もないんだ。
やっぱり、俺にバレーは……
463:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/11/13(金) 02:17:20.34ID:Rs/OBWCe.net
そんな事を考えてしまって、体育館のステージに腰掛けていると、
千景ちゃんに声をかけられた。
千景「良かったら、居残り練習付き合ってくれませんか?」
練習が終わって、ほとんどの部員が帰った後だった。
当然、奈央も俺より先に帰っていた。
俺「いいけど、今日はネットの片付けは…」
千景「午後、男バレがそのまま使うんで、立てっぱなしでいいんです」
そう言うと、千景ちゃんはボールを持ってきて、俺の方に投げた。
「お願いします」と言ってにこにこ笑ったので、俺もなんだかほっとした。
464:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/11/13(金) 02:22:10.93ID:Rs/OBWCe.net
千景「レシーブ練習がしたいので、テキトーに打ってきてください」
俺「オッケー。あ、でも」
俺「部室、閉まっちゃわない?」
千景「奈央先輩に言って、鍵を預かってるので大丈夫です」
俺「それならいいね」
俺は千景ちゃんに向かって、軽めにボールを打った。
彼女は2年生だけど上手くて、リベロとしてレギュラーになっている。
千景「奈央先輩から、よく1さんの話を聞いてました」
俺「え、どういうこと?」
唐突のことで、俺はちょっとびっくりした。
465:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/11/13(金) 02:23:40.48ID:Rs/OBWCe.net
千景「私奈央先輩と仲いいから、よくLINEするんです」
千景「1さんの事も、よく話題に上がるんです」
千景「なんか、楽しそうで」
千景ちゃんはそう言ってくすっと笑った。
その言葉に、俺は胸がいっぱいになったような気がした。
俺「本当に?本当なら…良かった」
千景「何がですか?」
千景ちゃんの問いに俺は少し言葉が詰まったけど、頑張って続けた。
俺「だって、いきなり居候とか言って知らない奴が家に来たら…普通は嫌じゃん」
千景ちゃんは「確かに!」と言って笑った。
466:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/11/13(金) 02:28:11.48ID:Rs/OBWCe.net
千景「でも、奈央先輩なら大丈夫ですよ」
千景「すごく優しい人なんで、そういう事は考えないと思います」
千景「逆に、無理矢理部活に誘っちゃって迷惑じゃないかなぁって、すごく気にしてました」
俺もそれを聞いて、思わす笑いがこぼれた。
お互いに、とりこし苦労をしていたということなんだろうか。
俺は先程まで抱えていた不安を、千景ちゃんに話してみようと思った。
何か、この子になら話してもいいように思えた。
俺「奈央は、大丈夫かな。今日、絶対普通じゃなかったよね?」
千景「そうですね…かなり落ち込んでましたね」
俺「俺、何かできることないかな。何も分かんなくてさ…」
俺がそう言うと、千景ちゃんはきょとんとしてこちらを見つめた。
482:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/11/14(土) 21:49:19.74ID:zqkbV+tl.net
俺「どうしたの?」
千景「いえ、やっぱり1さんは良い人なんですね」
俺「やっぱりって?」
千景「こっちの話ですw」
ちょっと考えると意味が分かった気がして、なんだか気恥ずかしかった。
千景「奈央先輩、ふられちゃったんです」
千景「だから落ち込んでるんだと思います」
俺「へ?」
千景「これ、先輩には言わないでくださいね…」
俺「うん、もちろん。言わないよ」
千景ちゃんがあまりに突然な事を言い出したので、俺も対応がしどろもどろになった。
483:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/11/14(土) 21:51:03.80ID:zqkbV+tl.net
千景「バスケ部の2年生なんですけど…ずっと好きだったみたいで」
俺「え?」
俺「ニシ君じゃないの?」
千景ちゃんは目を丸くして俺の方を見た。
千景「西って…野球部の西先輩ですか?」
千景「どうして西先輩なんですか?」
俺はちょっと困ってしまったが、言葉を振り絞った。
俺「だって試合の時にお守りを…」
千景「お守り?なんでそんな事知ってるんですかw」
千景ちゃんは転がったボールを拾いながら、再び俺の方を見た。
俺「試合の時、俺が車で送ったんだけど…その時に持ってたから」
俺「そうなのかなって思ってた」
484:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/11/14(土) 21:55:56.71ID:zqkbV+tl.net
それを聞くと千景ちゃんは合点がいったように「あ~!」と頷いた。
千景「それ、女バレみんなでやったやつですよ」
俺「えー、そうだったの?でもなんで…?」
千景ちゃんは楽しいのか、にやにやしながら話を続けた。
千景「うちらが総体に出た時、偶然野球部の人たちが応援に来てくれて」
千景「そのお返しをしようって、みんなで作ったんですよ」
それを聞いて、体から力が抜けた。
あのお守りは、そういうことだったのか…
勝手に決めつけて、一人で盛り上がっていた自分が何だか恥ずかしい。
そして千景ちゃんは、依然として笑みを浮かべたままだった。
492:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/11/16(月) 01:33:09.94ID:FznaLMFr.net
千景「むしろ、西先輩が奈央先輩の事好きだったんですよ」
俺「え、そうなの!?」
千景「告白されて、断ったって言ってました」
千景ちゃんはそう言うと「あれは超驚いたな~w」と笑っていた。
俺はそれを聞いて、呆然としていた。
千景「1さんは校外の人だし、心配してたから色々話しましたけど」
千景「この話、絶対奈央先輩には秘密ですよ」
千景ちゃんの真剣な眼差しが俺を捉えていた。
俺はその念押しに、黙って頷いた。
493:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/11/16(月) 01:34:26.52ID:FznaLMFr.net
千景ちゃんの話が全て本当なら、
俺はとんでもないものを拾ってしまったのかもしれない。
ニシ君は、奈央が決して自分を見ていないことを知っていた。
それでもあのお守りを受け取って…どんな気持ちだったのだろう。
あの日、あそこに落ちていたお守りは…もしかしたら本当に。
俺の脳裏に、ヒットを一本も打てず、試合後泣き崩れていたニシ君の姿が蘇った。
494:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/11/16(月) 01:35:29.36ID:FznaLMFr.net
正午過ぎの体育館。
全ての窓を開け放していたものの、真夏の暑さで汗が吹き出た。
それでもこの日は曇っていたから、暑さはマシな方だった。
しばらく黙って、レシーブ練習や対人を続けた。
495:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/11/16(月) 01:37:07.44ID:FznaLMFr.net
俺「でも、失恋って…どうしてあげたらいいか分からないなぁ」
俺「辛そうだし、何かしてやりたいけど…」
そう言うと、千景ちゃんは真面目な表情になって俺を見た。
千景「無理して考えなくてもいいと思います」
千景「奈央先輩って、あんまり人に弱音を吐かないんです」
千景「今回のことは、私にもあんまり話してくれませんでした」
千景「だから、もしも何か言われたら、その時にちゃんとこたえてあげればいいと思います」
俺はその言葉に何度も頷いた。
何か言おうとしたけど相応しい言葉が思いつかなくて、ただ黙って頷いた。
496:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/11/16(月) 01:43:54.44ID:FznaLMFr.net
俺がその沈黙を掻き切ろうと、ボールを構えた瞬間だった。
俺のポケットに入っていたスマホが震えたのを感じた。
早く帰って来て
対人して欲しいから。
俺「…奈央からだ」
千景「え!先輩からですか?」
497:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/11/16(月) 01:50:50.07ID:FznaLMFr.net
俺「対人して欲しいから、早く帰って来てって…」
画面を見せると、千景ちゃんも俺も黙ってしまった。
でもすぐに千景ちゃんは俺の顔を見上げて、言った。
千景「こたえてあげてください」
その表情はどこか、少しだけ憂いを帯びていた。
俺は「ああ!」と言い切って走って体育館を出た。
むわっとした湿気を纏った熱気を感じた。一雨来そうな感じだった。
駐輪場の端っこに止めてある自転車にまたがって、
俺は前のめりになってペダルを踏み出した。
498:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/11/16(月) 02:02:39.61ID:FznaLMFr.net
制服を来た男子生徒にすれ違う。
校舎の脇を歩く野球部の一団と目が合った。
俺はなりふり構わず、立ちこぎで自転車を思い切り走らせた。
遠くで落雷の音が響いた。その音が、俺の焦燥感を煽った。
奈央が待ってる。あの庭で、奈央が待ってる。
その一心だったのだ。
499:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/11/16(月) 02:07:41.47ID:FznaLMFr.net
学校を出て坂道を登る最中、色んな想いが頭の中を駆け巡った。
奈央が落ち込んだり、怒ったり、笑ったりしていたのは、
恋をしていたからなのか。
奈央が朝一で部活に行った時は、いつも隣のコートに男子バスケがいた。
初めて部活に行ったあの日、俺と別々で体育館に入ったのも…
そう考えると、全ての辻褄が合ってくるような気がした。
500:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/11/16(月) 02:14:09.21ID:FznaLMFr.net
俺と出会ってから、奈央は沢山の表情を見せてくれた。
でも何故だか、その全てが壊れてしまうような不安を覚えた。
奈央はバレーが大好きな女の子。
俺に、もう一度前を向くきっかけをくれた人。
何がどうなろうと、俺にとってはそれが全てだったのだ。
だから俺は、無我夢中で坂道に向かってペダルを踏み込んだ。
きっと、ボールを持って待っているに違いない。
504:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2015/11/16(月) 04:34:21.21ID:cHKWlE/0.net
千景が可愛い
508:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2015/11/16(月) 13:14:04.18ID:LiuLoBt0.net
監督として試合時にアドバイスする胸熱展開を期待
したいところだけど教員でも何でもない人が監督として試合に立ち会うのってダメなんだっけ?
510:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2015/11/16(月) 17:30:14.81ID:j/W8Ieu2.net
>>508
公式試合ならそういうのあった気がする
でも、地区の大会とかなら全然いいんじゃないか
511:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2015/11/16(月) 17:32:30.12ID:QBBB6gnO.net
>>508
引率/監督者とスポーツにおける監督は別でも良いんじゃないの?
521:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/11/18(水) 00:52:49.31ID:xK8lMwpC.net
家に着く頃には俺は息が上がってしまって、朦朧としていた。
山の方から聞こえてくる蝉の声が、頭の中で反響する。
水道と花壇の間に自転車を立てかけて玄関に走ると、
そこには奈央がボールを抱えて座っていた。
俺は「いた…」と言って膝に手をついて息を整えた。
奈央は驚いた様子で俺を見上げた。
奈央「そんなに急いで来たの…?」
俺「だって、対人したいんでしょ?やろうぜ」
俺はぜえぜえと息を上げたまま答えたが、
自分でも質問の答えにはなってないなって分かった。
522:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/11/18(水) 01:00:42.37ID:xK8lMwpC.net
俺は奈央の肩を叩いて「来いよ!」と庭へと誘った。
奈央も「うん…」と申し訳無さそうに立ち上がった。
奈央が打たずにボールを抱えたまま立ち尽くしていたので、
俺は「来い!思いっきり打っていいよ!」と声をかけた。
奈央はそのまま、黙ってこちらを見てボールを打ち込んだ。
523:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/11/18(水) 01:05:09.40ID:xK8lMwpC.net
そしてそのまま、会話を交わすこともなく黙々と対人を続けた。
レシーブする。トスが返ってくる。打つ。トスを上げる。レシーブする…
そんなことを何周繰り返した頃だろうか、
ぽつぽつと、雨が降ってきた。
小雨というわけではなく、すぐに勢いのある雨となった。
ただ奈央は、雨が降ってきても対人をやめる素振りは見せなかった。
なので俺も濡れることは気にせず、それに付き合った。
525:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/11/18(水) 01:11:39.24ID:xK8lMwpC.net
サアア、と雨の音が辺りを包み、蝉の声が消える。
奈央「あは、やったぁ。これだけ雨が降ったら今日の花火は中止かもね」
不意に奈央がしゃべり始めて、雨の中で力のない笑顔を浮かべた。
俺「まあ、そうかもね。花火、行かないの?」
俺がそう質問しても奈央は答えず、再び黙って対人を始めた。
526:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/11/18(水) 01:17:46.53ID:xK8lMwpC.net
奈央は、俺とラリーを続けながら話し始めた。
奈央「1は、花火大会とか行った事あるの」
俺「そりゃあ、あるさ」
奈央「女の子と一緒に?」
俺「それは言いたくないな」
言いたくないというよりも、女の子と一緒に行ったことはなかった。
だが、そんな事を真正直に言うのも気が引けた。
527:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/11/18(水) 01:21:47.29ID:xK8lMwpC.net
奈央「私、ふられちゃったの」
突然核心に触れる言葉が飛び出し、俺は動揺を隠せなかった。
俺「そっか…まあ、そういうこともあるよ」
奈央「何それ」
奈央「もっと気の利いた事言えないの?」
俺は何て言えばいいのか分からなかった。
ただでさえ雨の中で対人をしていて、頭が回らなかったのだ。
奈央を助けてやりたい。助けてやりたい!
そして無意識に想いが溢れ出た。
528:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/11/18(水) 01:24:11.97ID:xK8lMwpC.net
俺「じゃあ、打ってこい!気が済むまで、思いっきり打ってこい!」
俺「俺が全部キャッチすっから!!」
叩きつける雨の中で、奈央がこちらを見て立ち尽くした。
その姿は、何かに怯えているように見えた。
俺はそれを見て胸が張り裂けそうになった。
俺「大丈夫、俺は絶対ここにいるから」
俺「全部、受け止めるから!」
奈央は黙ってボールを掲げた。そして俺の方に向かって思い切り打ち込んだ。
俺はそのまま奈央が打てるように、高々とレシーブを上げた。
天高くボールが舞い上がり、奈央がそのまま腕を振り下ろす。
529:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/11/18(水) 01:27:45.32ID:xK8lMwpC.net
何度も何度も、奈央の渾身のボールを受け止める。
打ち続けるうちに、奈央は鼻をすすり始めた。
そして、打ったかと思うと、ボールを真下に叩きつけた。
奈央はそのまま「うあああ」と声を上げて泣き始めた。
叩きつける雨音の中に、奈央の泣く声が入り混じった。
目の前で、雨に打たれて嗚咽している奈央。
手の甲で何度も何度も顔を拭った。
俺はそれを、唇を噛んで見ていることしかできなかった。
530:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/11/18(水) 01:30:29.65ID:xK8lMwpC.net
奈央は泣き続けた。
泣いても泣いてもおさまらないようで、ずっと声を上げて泣いていた。
しばらくして、不意にボールを拾い上げたかと思うと、
そのまま俺に向かって打ち込んできた。
俺は突然のことで反応できず、ボールをはじいてしまった。
531:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/11/18(水) 01:34:15.19ID:xK8lMwpC.net
奈央「やった。私の勝ち、だ」
降りしきる雨の中で、奈央は俺に向かって満面の笑顔を見せた。
服も髪も、びしょ濡れになってぐしゃぐしゃの奈央。
けど、その笑顔は俺が今まで出会ってきた中で、飛びきり一番の笑顔だった。
「奈央」
俺は思わず、奈央の名を呼んだ。
532:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/11/18(水) 01:37:02.80ID:xK8lMwpC.net
奈央「へへ、なんかスッキリした」
奈央は両手で目元をこすっていた。
奈央「まだ、悲しいけどね」
俺「そりゃ、そんなすぐには全部忘れられないよ」
奈央「あれ、まるでそういうことがあったっていう口ぶり」
俺はそう言われて「ないよ」と笑った。
奈央の元へと駆け寄り、「風邪ひくから中入ってすぐ着替えな」と言った。
奈央は俺の顔を真っ直ぐに見上げた。
奈央「ありがとね。こんな事に付き合ってくれて」
そう言う奈央の目は真っ赤に充血して、涙が溜まっていた。
533:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/11/18(水) 01:40:02.87ID:xK8lMwpC.net
俺「そんな事、気にするなよ。俺はただの居候だしな」
俺がそう言うと、奈央は笑って「そんなことないよ」とつぶやいた。
「なんかめっちゃ鼻水出ちゃったw」
「きたねえな、顔も洗っとけw」
俺たちはそんなやりとりをしながら、家の中へ戻った。
この日この時、俺の前で見せた奈央の表情はずっと忘れることができない。
ただ、この出来事があったから、俺の新しい夢への想いは確信へと変わりつつあった。
もう、昔を思い出して嘆いているだけの俺はいなかった。
前を向こう、これからの未来を考えよう、そんな想いがふつふつと湧いてきていた。
534:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/11/18(水) 01:41:19.87ID:xK8lMwpC.net
夕方になると分厚く空を覆っていた雲は立ち消え、
気持ちの良い夕空が広がっていた。
東の空は暗闇に溶け込み、西の空は橙色の波を帯びていた。
これならきっと花火大会もあるだろう、そんな風に思った。
536:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2015/11/18(水) 01:43:11.40ID:PKhsmwnx.net
描写上手いなぁ…
しえん
539:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2015/11/18(水) 09:43:29.88ID:eDjqExff.net
素晴らしい。
奈央ちゃんとの描写が印象的だね
しえん。
540:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2015/11/18(水) 18:54:34.11ID:eDjqExff.net
綺麗な描写が多いから、岩井俊二あたりに実写化してほしい
541:名も無き被検体774号+@\(^o^)/: 2015/11/18(水) 19:01:47.92ID:ymKkD3UJ.net
透明感っていうのかな?
とても読みやすくて好感が持てます。
544:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/11/18(水) 21:04:03.92ID:anNfxHXg.net
奈央はもしかしたら、夕飯の場に顔を出さないかと思っていたが、
おばさんに呼ばれて居間に下りると、その団欒の中に奈央がいた。
奈央は少し目を腫らしているように見えたが、
家族の中でいつも通りにご飯を食べていた。
ただ、テレビを見ながら力なく笑っている奈央の姿が、俺の胸を騒がせた。
自分でもよく分からないが、いつも通りにしている奈央を見て胸が傷んだ。
545:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/11/18(水) 21:09:23.07ID:anNfxHXg.net
夕飯を食べた後、部屋で窓を開けて扇風機を回して勉強をしていた。
すると、外から「ドドドン!」という音が聞こえて、
麓の方角で花火が打ち上がるのが見えた。
「こんなによく見えるんだな」と感激して、すぐに1階へ下りた。
俺「花火、始まりましたね!」
おばさん「そうね、よく見えるでしょ」
縁側では、おじさんとおじいちゃんがガラスの灰皿を置いて、二人でビールを飲んでいた。
テレビの前で、奈央が浮かない様子でスマホをいじっていた。
546:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/11/18(水) 21:10:27.12ID:anNfxHXg.net
おばさん「そういえば、今朝ぶどうが取れたんだけど食べて」
そう言っておばさんは居間のテーブルにぶどうを3房ほど出してきた。
俺「これって、もしかして隣の畑のやつですか?」
俺が興奮して聞くと、おばさんは
「そう。1君が奈央と一緒に水あげてくれたやつ」と言って笑っていた。
547:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/11/18(水) 21:14:19.45ID:anNfxHXg.net
目の前に出てきた瑞々しいぶどうを見て、少し嬉しくなった。
横にいた奈央に「な、これなんてぶどうなの?」と聞くと、
「巨峰だよ、一番美味しいやつー」と力のない返事をされた。
俺「これって、俺らが水あげたやつだよな?それが食べれるって凄くね!」
俺が興奮してそう言うと、奈央は笑っていた。
奈央「何いってんの、大げさだなぁ」
548:1 ◆aPqsLiX.0g @\(^o^)/: 2015/11/18(水) 21:16:34.97ID:anNfxHXg.net
でも俺は確かに、奈央と二人で水をあげた日の事を思い出していた。
あの時、奈央は大口を開けて笑っていた。
すごく楽しそうだったと思う。
ここに来てから、本当に色んな奈央の表情を見てきた。
大口を開けて楽しそうに笑う姿や、いたずらっぽくにやにや笑う顔、
バレーに対する真剣な眼差しや、落ち込んで下を向いていた表情、
そして土砂降りの中で見せた泣きっ面に、満面の笑顔…
その全てが俺の心に強く残っていて、その全てが奈央だった。
そして、その沢山の表情に、俺は動かされ、変わってきていた。