454 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 16:59:49.69 ID:fNXhvYIy0
「俺特製薬草スープ」が完成した。 椀によそい、彼女に手渡す。
瞬間、彼女は眉間に皺をよせた。 しばらく睨めっこをした後、恐る恐るスプーンで掬い、口に運ぶ。
彼女「……お前これ味見したか」
俺「はははもちろん。 する訳がない」
彼女「飲んでみろ。 生きた虫を噛締めた味がするぞ」
俺「お断る。 どんな味だよそれ。 あ、でもほら良薬口に苦しって言うし」
彼女「いい事を教えてやる毒薬もまた口に苦い!!」
俺「うわやめr…………ッ!! ッッ!!」
スープの入った椀を無理やり口につっこみ、俺に飲ませた。
顔が緑色に変色しかけた。 なんだこの味わ!! これが虫の味なのか!!
熱いわ不味いわ苦いわでとにかく大変だった。 豆とキノコがせめてもの救いである。
それでも、彼女はなんだかんだで具だけでも食べてくれた。
味はともかくとして、これは身体に良いに違いないから、とのこと。
もちろん俺も食べた。 彼女にだけ罰ゲームを与えるわけにはいかないからである。
460 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 17:03:02.02 ID:fNXhvYIy0
旦
賑やかな朝食を済ませてから、目的の町に足を向けた。
背負って行こうかと提案されたが丁重に却下させてもらった。
これ以上こいつに迷惑をかけたくはなかった。
こいつに迷惑をかけたくはなかった、のだが。
しばらく歩いて正午過ぎ、休憩をとってから、立ち上がることができなくなった。
吐き気がするほどの眩暈と発熱――朝は、なかったはずなのだが。
背負われ、近くの洞穴に運ばれた。
結局迷惑をかけてしまっているではないか。
馬鹿か、私は。
461 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 17:04:02.18 ID:fNXhvYIy0
目を閉じていると、突然額に冷たい感覚が走った。
驚いて見てみると、どうやら男が水でしぼった布を乗せてくれたようだ。
目の上に乗せる。 ひんやりとしていて、気持ちいい。
傷口から病原菌が入り、体内の抗体とそれらが絶賛奮闘中なための発熱ではないか
というのが男の考えであった。 解熱剤はあるが、それなら無理に飲まないほうがいい、とのこと。
私「……すまない、お前には迷惑をかけてばかりだ」
ボサボサ頭「なんで謝るんだ、俺が謝りたい位なのに。
俺の目さえあれば俺を庇って矢を受けることも今こうして苦しむこともなかった」
私「それでも……、すまない」
ボサボサ頭「……」
462 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 17:06:01.42 ID:soMHm7Nc0
ちょっと!パンツはきかけたけどまたぬいでいいの?
463 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 17:07:09.35 ID:OFBg4nsF0
ネクタイと靴下はちゃんと着けとけよ
467 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 17:09:13.08 ID:fNXhvYIy0
ボサボサ頭「……包帯、どうしよう。 これ以上悪くなる前に、巻き直す?」
私「いや、大丈夫だ。 ……お前は私の身体に触れること、嫌がらないのか」
ボサボサ頭「嫌がる理由が見つからないけど」
私「そうか。 ……ふふ、私を脱がそうとした奴らは皆、
私を汚物のように見るというのに…… お前は、優しいのだな」
ボサボサ頭「汚b……酷い奴が居たもんだな」
私「そんなのばっかりだ。 傭兵も、貴族も、弟王子も」
ボサボサ頭「え、おっ、王子ィ!? 王子って国の? なんで……」
私「性欲の捌け口にするためだ」
ボサボサ頭「そうじゃない、そういうことは、王子だからって許されることなのか!?」
私「王子だから、だ。 それに強姦でもない。 契約の下での”和姦”だ」
ボサボサ頭「なっ――」
468 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 17:10:09.04 ID:fNXhvYIy0
私「騎士団を潰さない代わりに、大人しく所有物になると。 そういう契約だ」
ボサボサ頭「な、んだよ、それ……、そんな一方的なものが契約って言えるのかよ」
私「そんなもんだ。 ……結局、そこまでは至らなかったがな。
私の身体を見て、私の上から転げ落ちたんだ。 はは、滑稽だ、驚くあの姿、本当に滑稽だった!」
私「所詮、私は駒だ。 権力など無に等しい。 だから、身体を触られても、服を破られても、
化け物だと罵られても身体を蹴られても顔に唾を吐き掛けられても、何も、できないんだ」
私「……何も、できなかったんだ」
私「私の大切な部下達を、騎士団を盾にされて、何もできなかったんだ」
私「あんな屈辱を受けて、私は、あの糞生意気な餓鬼一人もこの手で殺してやることができなかったんだ!!」
469 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 17:11:01.69 ID:fNXhvYIy0
私「結局私は、権力の前じゃ何もできない! 私は弱い! 弱い自分が嫌で嫌で仕方ないッ!!」
私「本当に、本当にッ……嫌になった、だから、あの日、お前に……ッ」
私「……すまない、お前は、関係なかった、のに……、
自分勝、手な、私の我侭に、付き合わせて、迷惑、ばかりかけ、て……ッ」
私「すまない、すまない、本当に、すまない……」
溢れる涙は布に吸収されたが、嗚咽を隠すことはできなかった。
男は、何も言わない。 どんな顔をしているのか。 見ることも出来ない。
嫌われてしまったろうか。 しかしそれでもいい。
男が立ち上がる気配がした。 私の元を離れるのだろうか。
しかし、私が捉えたのは男が歩き去るものではなく、私の身体がふわりと浮き上がるような感覚だった。
471 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 17:12:04.67 ID:fNXhvYIy0
私「お、おい、何を……」
ボサボサ頭「町に向かう」
私「なら私を置いていけ、もう一緒に行動する必要なんか――うわっ」
ボサボサ頭「こんな汚い場所じゃ破傷風にもなりかねない。 ほら喋ると舌噛むぞ」
私を背負い、有無を言わさずとして走り出した。
辺りはそろそろ日が落ちてくる。 それなのに、私を背負ったまま町に向かおうというのか。
無茶な――
それでも私は、振り落とされないようにしがみ付いた。
薄れていく意識の中、こいつだけはもう手放したくないとひたすらに願い続けた。
500 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 17:46:42.55 ID:fNXhvYIy0
懐かしい温かさに目が覚めると、見覚えの無い部屋だった。
額には濡れた布が乗せられており、それは既にぬるくなっていた。
重い上体を起こす。 と、丁度その時部屋のドアが開かれた。
「あら」と言って現れたのは、あの酒場の、若き女店主であった。
女主人「目、覚めたみたいね」
町には、着いたらしい。
ここは彼女の店の二階の生活スペースで、この部屋は余っていたのだという。
何故、病院でも宿屋でもないのだろうか。
505 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 17:48:46.96 ID:fNXhvYIy0
私「……あいつは」
女主人「あいつ? ああ、自分の部屋で寝てるわよ」
私「自分の部屋? ここにあいつの部屋があるのか」
女主人「そ。 この町に居る時はそこに泊まってるわね、十年ぐらい前から」
知り合いが居ると言われてこの町に来た。 その知り合いというのが恐らく彼女の事だろう。
見た目からして30代といったところだろうか。 左目の泣き黒子が印象的な、美しい女性。
あいつとは十年来の仲だという。 この家にはあいつの部屋もある。
歳は少し離れているが、この女主人はあいつの、……恋人、なのだろうか。
506 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 17:50:49.29 ID:fNXhvYIy0
女主人「で。 貴女は、どういう関係なの? 一緒に旅をしているようだけど」
私「……ただの、旅の護衛として……傭兵として、あいつを雇っていただけだ」
女主人「護衛ね。 それにしては貴女の方が怪我してるみたいだけど。 役立たずなんじゃない?」
私「そんなことはない! あいつは私の為に何でもしてくれた、あいつはいつでも――」
女主人「あら。 ふふ、貴女、あの子のことを好きになったの?」
私「な、何を言う!! あ、貴女は、あいつの恋人ではないのかっ!! そんな事を言って、」
女主人「恋人ぉ?」
きょとん、とした。 しばらく黙った後、急に吹き出し、そして大笑いした。
なんだ、私は何か可笑しなことでも言ったのか? 恋人ではないのか? じゃあ一体なんだと言うのだ。
女主人「ごめんなさいね、あたしのこれ、女装なのよぉ」
言葉の意味を理解するのに時間がかかった。
理解したところで「はぁ!?」という驚きの声しかでなかった。
女装主人「あーおっかしい、まさかあの子の恋人と間違われる日がくるなんて夢にも思わなかった!」
508 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 17:52:29.73 ID:fNXhvYIy0
女装主人「ま、恋人ではないから遠慮なく話してね。 あの子の事、好きなの?」
私「…………分からない」
女装主人「分からない?」
私「恋愛沙汰にはむしろ批判的で、経験がなかった。
人を好きになるということが、どういう感情なのか……分からないんだ」
女装主人「そう、じゃあ……貴女は、あの子の事をどう思っているの?
難しく考える必要はないわ。 思いついた言葉を言うだけでいいの」
私「どう、思っているか……」
私「……最初は、憎たらしいとしか、思っていなかったんだ」
私「それが何度か会ううちに、あいつと話すと気が楽になると気付いた。
それだけだと思っていたんだが。 半年ほど、会えなくなる時期があった。
たった半年なのに、会えないだけで、私の心にはぽっかりと穴が空いたような感じがした」
私「多分寂しかったんだ。 だから久しぶりに会ったときは、とても嬉しかった」
509 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 17:53:25.55 ID:fNXhvYIy0
私「あいつは優しすぎる。 どんなに迷惑をかけても笑ってくれる。
私の傷だらけの身体を見ても『汚くない』と言ってくれた。 嘘でも、嬉しかった」
私「私は、あいつと居るだけで楽しいし、心も満たされるような気持ちになれる」
私「私は、あいつから、離れたくない」
女装主人「……その想いを、あの子に言ったことは?」
私「言えるわけがない。 あいつにとって私は『友人』で『依頼主』だ。
そんな事を言ってしまって、この関係すら壊れてしまうのが、……怖いんだ」
女装主人「……そう」
女装主人「貴女はあの子の事が好きなのね。 それも、どうしようもないぐらいに」
511 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 17:54:22.75 ID:fNXhvYIy0
「後で薬、持って来るから」と言って女装した店の主人はこの部屋を出て行った。
取り残された私はベッドの上で一人、丸くなる。
……私は、あいつの事が、好きらしい。
そうか、好きだったのか。 私はずっと、あいつの事が好きだったのか。
あいつの事を考えるだけで心が満たされ、そして心が締め付けられるような思いがしたのも、
あいつの事が好きだったからか。
自分の気持ちに気付いてしまった。
――いや、違う。 本当はずっと気付いていた。 ただ認めたくなかっただけだ。
人を好きになることは拠所を求める弱者のすることだと、戦場では邪魔になるだけだと、
人を好きになってしまうと敵に付け入る隙を与えることになるだけだと、弱くなってしまうと、
今までそう思い続けてきた自分を全て、否定してしまうようで――
人を好きになるというのは、こんなにも、辛いことなのか。
515 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 17:57:47.19 ID:fNXhvYIy0
旦
現在の俺はすこぶる不機嫌であった。
昨晩――いやむしろ今日の早朝と言える、既に店も閉まってしまった時間に
俺はママの店に転がり込み、彼女の介抱、そして王子と王宮の資料と馬を要求した。
しかしそれが通ることはなく、ママは俺にも寝ろと言うばかりだった。
気に食わなかった俺は力尽くで資料だけでも手に入れようとした。
ママに片腕を外されようが、とにかく、俺は弟王子を、殺してやりたい一心だった。
その思いも虚しく顎に強烈な一発を食らってしまった俺は今までずっと気を失っていた。
肩を固定している包帯を煩わしく思い、それを解いていると、
ノックもせずにママが入ってきた。
ママ「駄目じゃない、解いちゃ」
516 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 17:59:26.50 ID:fNXhvYIy0
ベッドの際に腰掛けるママを睨みつけると、「随分と遅い反抗期ね」と言って溜息を吐いた。
俺「どうして行かせてくれなかったんだ」
ママ「あんなフラフラな状態で行かせられる訳ないでしょ。
ましてや相手はこの国の王子様。 ……あなたには荷が重過ぎる」
俺「でもあの糞餓鬼を殺さなきゃいけない」
ママ「どんな事情があるのかは知らないけど、
今自分が出来る事と出来ない事を見誤っちゃ駄目。 だからいつまで経っても坊やなの」
俺「でも」
ママ「私情を挟んでもロクな事にならないのはよく知ってるでしょ? 諦めなさい」
俺「……」
518 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 18:01:12.84 ID:fNXhvYIy0
俺「……彼女は」
ママ「目は覚めたわ。 今から薬貰いに行くけど、具体的にどんな症状なの?」
不思議なことに、彼女を背負ってここに向かう途中、急に俺にも彼女と同じ症状が現れた。
もちろん俺は毒の矢を食らっていたわけでもないし、その他の雑魚の攻撃を食らった覚えも無い。
菌が進入できる傷口はなかったし、風邪を引いていたわけでもない。
去年と違って全くの健全体であった俺が、何故こうなってしまったのか。
ママ「変なものでも食べたんじゃない?」
変なもの。 心当たりはある。 朝食べた、「俺特製薬草スープ」である。
もう忘れたいというのに、歯の間に詰まったカスがその味をいちいち思い出させる。
しかしそれは不味かっただけで、身体には良いはずだった。
俺「使ったのは薬草だ、確認もした。 それと町で買った豆と木の実、あとキノコ」
ママ「キノコ?」
519 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 18:02:25.53 ID:fNXhvYIy0
俺「昔からこの時期この辺で採れてた、美味しいやつ」
するとママは「あー」と言って目を覆った。
ママ「何年も帰ってきてなかったし、去年もすぐ発っちゃったから知らないのかもね。
そのキノコ、急に毒性を持ち始めて倒れる人が続出したのよ。 今はもう栽培禁止になってるわ」
なん……だと……
と言うことは、待て。 俺が今こうやって寝ていざるをえない状況になったのも、
彼女が熱に浮かされ大変苦しい思いをしているのも全て、俺のせいだということになる。
俺「……まただまただよもうやだ俺死にたい」
ママ「あんたの死ぬ死ぬ詐欺はもう飽きたわ」
軽くあしらわれ、額を指でトンと押された。 去年まで無かった羽毛の枕に頭がぼすっと埋まる。
「病人は大人しくしてなさい」と水で絞った布を顔にべちゃりと投げつけられた。
522 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 18:04:29.83 ID:fNXhvYIy0
ママ「で。 どういう経緯であなた達が知り合ったのかは知らないけど……やっぱりまだ好きなわけ?」
俺「好きだよ」
ママ「あら。 ふふ、きっぱり言うのね」
俺「好きじゃなきゃこんな熱くならない。物理的にも精神的にも。 彼女のためなら死ねる」
ママ「そんなに好きならいい加減本人に言っちゃえばいいのに。 意気地なし」
俺「……だよなぁ」
ママ「『俺は紳士だ』って言わないのね」
俺「ただ臆病なだけなんだよ俺は……」
ママ「……過去に振られたこと、相当トラウマになってるのね。
怖いんでしょ、また振られることが。 振られて、今の関係が崩れるのが怖いんでしょ」
黙って頷くと、呆れたように「本当、そっくりすぎて笑っちゃうわ」と呟き溜息を吐いた。
いったい何が、誰にそっくりだというのか。
524 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 18:06:26.55 ID:fNXhvYIy0
旦
薬の影響か、ベッドに倒れこんだ瞬間枕に意識を吸い取られるように眠りに落ちてしまった。
そして目覚めた現在、先ほどまでの身体のだるさは全て消えていた。
窓の外を見てみればもう暗くなっていた。 下の階からは酒を飲む賑やかな声が聞こえる。
部屋を出て薄暗い廊下を通り、あいつの部屋の前で立ち止まる。
少し戸惑いながらも扉をノックする、が、返事は聞こえない。
ギィと軋む扉を開けると、窓もなく埃っぽい小さな部屋にベッドがあり、そこにあいつは横たわっていた。
胸が規則的に上下している。 近付いてみると静かな呼吸が聞こえる。
どうやら、まだ寝ているらしい。
525 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 18:09:24.49 ID:fNXhvYIy0
床に膝をつき、特徴的なボサボサの髪を掻き分け、顔を覗き込む。
無精髭は生えているものの、安らかに眠るそれはどこか幼く見える。
いつも陥没している眼窩を隠していた眼帯は右手に握られていた。
私が、初めてこいつにあげた物。
そういえばこいつは大層喜んでくれていたな。 今も大切にしてくれているのだろうか。
ぼうっと考えていると、こちらに気付いた主人が近付いてきた。
女装主人「あら。 起きるの待ってるの?」
私「え、あ、いや、別に待っていたわけでは。 ただ見ていただけだ」
「ふーん」と言うと、主人はおもむろに男に近付き、
そして目にも留まらぬ速さで鳩尾に強烈な一撃を放ったのである。
ボサボサ頭「お゛ぶッ!?」
526 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 18:10:32.42 ID:fNXhvYIy0
主人の予想外の行動に私は唖然とするしかなかった。
ボサボサの頭をした男も咳き込みながら起き上がり、突然の事態に混乱していた。
ボサボサ頭「ゲホッ……、え、何、敵襲……!?」
女装夫人「女性を待たせちゃ駄目じゃない、坊や」
「え」と言いながら、私を見た。 私など女性扱いするほど女らしくもないだろう、と思っていると
ボサボサ頭はかなり驚いた様子でベッドから転げ落ち、そして壁に後頭部を打ち付けた。
こんな光景は前にも見た気がする。 これが「デジャ・ビュ」というやつか。
女装主人「二人ともお腹へってたら下にいらっしゃい、ご馳走するわよ」
そう言ってぱたぱたと部屋を出て行った。
とても急がしそうである。
529 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 18:12:25.13 ID:fNXhvYIy0
旦
ママの強力な一撃によって目が覚め、そして目の前にいた彼女に驚いて
ベッドから転げ落ち、頭を打ち付けたために完全に覚醒した俺である。
ママとの会話で改めて彼女のことを好きであると確認したからか、
どうも彼女と二人きりというのはドキドキしてしまうものである。
当の彼女の顔までが赤く見えるのは、蝋燭の明かり加減のためだろうか。
彼女「今の、大丈夫だったか。 モロに入ったが」
俺「はは……まぁ、多分手加減されてたから大丈夫だと思う」
彼女「す、すまないな、私がここに居たばっかりに。 もう出て行くから、ゆっくり休んでくれ」
俺「あ、いやいや。 今ので完全に目ぇ覚めたし良いよここに居て」
そう言って、何気なくベッドに座るように促した。
彼女は少し戸惑いながらも、すとんとベッドに腰を下ろした。
530 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 18:14:24.73 ID:fNXhvYIy0
俺「えっ……と、もう熱とか大丈夫?」
彼女「ん、お蔭様でな」
俺「で、その熱の原因なんだけど、実は、その……」
彼女「スープに入っていたキノコだろう。 聞いた」
俺「……ごめん」
彼女「何故謝る。 知らなかったのだろう?」
俺「知らなかった、なんて免罪符にはならない」
彼女「お前は同じ毒に侵されながらも私をここまで運んでくれた。
私にお前を責める理由はない、むしろ感謝したいことばかりだ。
あのスープだって私の為に作ったのだろう。 だったら悪いのは私だ」
俺「いやだからだな、」
彼女は「私が悪い」と言い張った。 俺も「俺が悪い」と言い張った。
責任の擦り付け合いとは全く逆の口論――それは激化していき、
いつの間にか喧嘩にまで発展してしまう。 お互いに譲れないのである。
533 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 18:18:55.61 ID:fNXhvYIy0
彼女「じゃあお前があの矢に射られたかったと言うのか? とんだ酔狂ではないか!」
俺「俺は護衛だ! 護衛として雇われている身がなんで守られなくちゃいけないんだ!!」
彼女「雇い主には傭兵の品質を管理する義務がある!!」
俺「傭兵にそんなの必要ない!
護衛である俺を庇うぐらいなら最初から俺なんか必要なかったんじゃないのか!?」
彼女「ッ、黙れ!! 貴様は私に雇われている身だ!
私の勝手な行動に口を出される義理はない!! 何故、そこまで私に口答えするのだ!!」
俺「好きだからに決まってるだろうが!!」
「俺のせいで嫌な思いさせたくない」と言おうとしていたのだが――
その裏にあった本音を、勢いで、つい、ぽろりと、言ってしまった、のである。
538 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 18:20:53.68 ID:fNXhvYIy0
しまった、と口を押さえるが今更口を封じても時既に遅し。
場の空気が凍り付く。
彼女は、掴んでいた俺の胸倉から右手を放した。
そして俺の顔に強烈な鉄拳を食らわせ、走って部屋を出て行ってしまった。
ああ、だめだ。 絶対に、完全に、完ッ全に、嫌われてしまった。
どうしよう。 死にたい。
しかし俺が自決するのを危惧してか暗器を含む武器全てをママに没収にされている。
どこかに殺傷力のあるものは――
いや、その前に、死ぬ前に。 彼女に謝っておかなければならない。
彼女を追い、走り出す。
541 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 18:22:29.03 ID:fNXhvYIy0
旦
与えられた部屋に駆け込み、扉を閉じ、そしてそれに背を凭れしゃがみこむ。
何度深呼吸をしても脈拍が落ち着かない。
あいつはなんと言った? あいつは今、何と言った?
私を好きだと――そう、言ったのか?
馬鹿な。 馬鹿な。 馬鹿な。 そんな訳ない、そんなことあるはずが――
コンコン、と背後の扉が叩かれる。
思わずびくりとしてしまい、開けるべきか開けざるべきか戸惑っていると、
扉の向こうから「開けなくてもいい」と静かな声が聞こえた。
542 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 18:24:09.81 ID:fNXhvYIy0
ボサボサ頭「ごめん、さっきのは俺のせいで傷ついて欲しくないって意味で……」
ボサボサ頭「……いや、やっぱり……さっきのは、俺の本音。
ずっとそうだった。 でも黙ってた。 ……怖くて言えなかった」
ボサボサ頭「所詮俺は傭兵の糞野郎だから、言ったところでどうなるかなんか分かってた。
……言って、振られて、敬遠されて、一緒にしていた旅が終わるのが、怖かった」
ボサボサ頭「だからずっと黙ってた。 ……ごめん」
ボサボサ頭「でももういい。 言ってしまった。
もう俺となんか居たくないだろ? 契約、切ってくれて構わない」
ボサボサ頭「俺はもうここを出るから……安心して身体休めるといい」
ボサボサ頭「旅、すごく楽しかった。 ありがとう。 それじゃあ」
545 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 18:25:46.95 ID:fNXhvYIy0
脳が命令を下す前に、立ち去ろうとしていた男を引き止めていた。
隔てていた扉を開き、驚き固まる男の手首を引っ張り、強引に部屋に入れた。
そしてその手を掴んだまま、「本当なのか」と尋ねる。 声が、震えている。
私「私の、目を見て、もう一度、言って欲しい」
男は口をぱくぱくさせた。 そして深く深く深呼吸し、
そしてあの決闘の日のように真っ直ぐと私の目を見据えた。
ボサボサ頭「ずっと、す、好きだった」
なぜこんな大事なときに声が裏返るのか。 それはさておくとして――
その言葉に、何の偽りも感じなかった。 その瞬間、私の目からは滝のように涙が流れた。
549 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 18:27:32.61 ID:fNXhvYIy0
私「…たしを、好きでいてくれるのか? こんな私を好きでいてくれるのか?」
私「こんなに我侭な私を、こんなに迷惑をかけてしまった私を、
こんなに醜い身体をした私を、本当に、お前は、好きでいてくれるのか?」
ボサボサ頭「うん」
私「……っ、私も……、ずっと、ずっとずっと好きだった」
私「お前のことが、好きで好きで堪らなかった。 だけどずっと言えなかった。
お前が私のことを嫌っているのではないかと、煙たがっているのではないかと思っていた」
私「怖かった。 私も、お前と離れることが怖くて、ずっと、言えなかった……っ」
漏れる嗚咽を止めたのは私自身ではなく、こいつであった。
未だに私が掴んでいる手で私の肩を抱き、もう片方で私の流れる涙をそっと拭う。
そしてその手をゆっくりと顎に沿わせ、軽くしゃくると、そのまま優しく唇を重ねた。
560 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 18:30:58.50 ID:fNXhvYIy0
旦
さて、まさかの予想外ともいえる彼女からの告白――彼女も、俺が好きだと、
そう言われたおかげで勢いにまかせて唇が触れる程度であるが彼女とキキキキキスをしてしまった訳だが。
ドキドキドキドキといつもの二倍の脈拍が自身から聴こえる。
彼女の桃色の可愛らしい、そして柔らかな唇に勝手ながらファースト・キッスを奪ってもらった俺は、
プラスαとして唇を放した後の彼女の、赤らんだ顔+涙ぐんだ+上目遣いという超絶コンボによって
内心息絶え絶えであった。 彼女の可愛さは致死量を超えてしまった。 可愛すぎて生きるのが辛い。
この先どうすればいいのですか我が息子よ。 この童貞畜生めにどうか教えてやってつかあさい。
しかしそんな問いかけも虚しく返事は返ってこない。 当然である。 息子といえど、俺なのだ。
ああくそう、なんのための日々の妄想だったのだ! これだから童貞は!
しかし、やることがわからなくても、わからないなりに、頑張らなければならないのである。
564 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/15(水) 18:34:22.30 ID:fNXhvYIy0
やることは分からない、分からないが、単純にもう一度、キスをしたいと思った。
顔を近づける。 彼女はそれを理解したように目を瞑り、低い身長を補うため背伸びをした。
舌を入れても彼女は抵抗しなかった。 絡め、放し、そしてまた絡め合う。
唇を貪り、更に強く絡め合うため彼女の頭の後ろに手を回す。 彼女も、俺の背中に手を回した。
熱く、荒い鼻息が互いの顔にかかる。 相手の鼓動までが伝わってくる。
唇を離すと、二人の間にねっとりとした白い糸が引いた。
彼女を軽く押す。 ベッドの縁に足を掛け、仰向けに倒れる。
そしてその上に、俺が覆いかぶさる。
耳まで赤くした彼女は、潤んだ目でじっと俺を見つめている。
服の中に手を滑り込ませる。 包帯の上から胸を撫でる。
柔らかな先端部に触れると彼女は熱い息を漏らした。