190:リアル:2011/05/13(金) 12:23:05.92 ID:rKgs8JSd0
冷静さを取り戻して、皆に謝ったら急に腹が据わってきた気がした。
走り始めた車の中で励ましてくれる祖父母の言葉に感極まってまた泣いた。
自分で思ってるよか全然心が弱かったんだな、俺は。
S先生の家(寺でもあるが)に着くとふっと軽くなった気がした。
何か起きたっていうよりは俺が勝手に安心したって方が正しいだろうな。
門をくぐり、石畳が敷かれた細い道を抜けると初老の男性が迎え入れてくれた。
そう言えばS先生の家にはいつもお客さんがいたような気がする。
きっと、祖母のように通っている人が多いんだろう。
奥に通され裏手の玄関から入り進んでいくと、十畳くらいの仏間がある。
S先生は俺の記憶の通り、仏像の前に敷かれた座布団の上に正座していて…ゆっくりと振り向いたんだ。
(下手な長崎弁を記憶に頼って書くが見逃してな)
祖母「Tちゃん、もうよかけんね。S先生が見てくれなさるけん」
S先生「久しぶりねぇ。随分立派になって。早いわねぇ」
祖母「S先生、Tちゃんば大丈夫でしょかね?」
祖父「大丈夫って。そげん言うたかてまだ来たばかりやけんS先生かてよう分からんてさ」
祖母「あんたさんは黙っときなさんてさ。もうあたし心配で心配で仕方なかってさ」
何でだろう…ただS先生の前に来ただけなのにそれまで慌ていた祖父母が落ち着いていた。
それは両親にも、俺にも伝わってきて、深く息を吐いたら身体から悪いものが出ていった気がした。
両親はもう体力的にも精神的にも限界に近かったらしく、「疲れちゃったやろ?後はS先生が良くしてくれるけん、隣ば行って休んでたらよか」と人懐こい祖父の言葉に甘えて隣の部屋へ。
191:リアル:2011/05/13(金) 12:26:19.79 ID:rKgs8JSd0
S先生「じゃあTちゃん、こっちにいらっしゃい」S先生に呼ばれ、向かい合わせで正座した。
S先生「それじゃIさん達も隣の部屋で寛いでらして下さい。Tちゃんと話をしますからね」
S先生「後は任せて、こっちの部屋には良いと言うまで戻って来ては駄目ですよ?」
祖父「S先生、Tちゃんばよろしくお願いします!」
祖母「Tちゃん、心配なかけんね。S先生がうまいことしてくれるけん。あんたさんはよく言うこと聞いといたらよかけんね。ね?」
しきりにS先生にお願いして、俺に声をかけてくれる祖父母の姿にまた涙が出てきた。 泣きっぱなしだな俺。
S先生はもっと近づくように言い、膝と膝を付け合わせるように座った。
俺の手を取り、暫くは何も言わず優しい顔で俺を見ていた。
俺は何故か悪さをして怒られるじゃないかと親の顔色を伺っていた子供の頃のような気持ちになっていた。
目の前の、敢えて書くが自分よりも小さくて
明らかに力の弱いお婆ちゃんの威圧的でもなんでもない雰囲気に呑まれていた。
あんな人本当にいるんだな。
S先生「…どうしようかしらね」
俺「…」
S先生「Tちゃん、怖い?」
俺「…はい」
S先生「そうよねぇ。このままって訳には行かないわよねぇ」
俺「えっと…」
S先生「あぁ、いいの。こっちの話だから」
何がいいんだ!?ちっともよかねーだろなんて気持ちが溢れて来て、耐えきれずついにブチ撒けた。
本当に人として未熟だなぁ、俺は。
193:リアル:2011/05/13(金) 12:28:37.08 ID:rKgs8JSd0
俺「あの、俺どーなるんすか? もう早いとこ何とかして欲しいんです。 大体何なんですか?
何でアイツ俺に付きまとうんですか? もう勘弁してくれって感じですよ。
S先生、何とかならないんですか?」
S先生「Tちゃ…」
俺「大体、俺別に悪いこと何もしてないっすよ!?確かに□□(心霊スポットね)には行ったけど俺だけじゃないし、何で俺だけこんな目に会わなきゃいけないんすか? 鏡の前で△しちゃだめだってのも関係あるんですか? ホント訳わかんねぇ!!あーっ!苛つくぅぁー!!」
「ドォ~ドォルルシッテ」
「ドォ~ドォルル」「チルシッテ」
…何が何だか解らなかった。(ホントに訳解んないので取り敢えずそのまま書く)
「ドォ~。 シッテドォ~シッテ」
左耳に鸚鵡か鸚哥みたいな甲高くて抑揚の無い声が聞こえてきた。
それが「ドーシテ」と繰り返していると理解するまで少し時間がかかった。
俺はS先生の目を見ていたし、S先生は俺の目を見ていた。
ただ優しくかったS先生の顔は無表情になっているように見えた…。
左側の視界には何かいるってのは分かってた。 チラチラと見えちゃうからね。
よせば良いのに、左を向いてしまった。首から生暖かい血が流れてるのを感じながら。
次のページに続きます…